真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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異常快感24時/ソクミル戦
か行
/
2022年11月04日
「
異常快感24時
」(昭和60/製作:飯泉プロダクション/配給:大蔵映画/監督:飯泉大/脚本:しらとりよういち・飯泉大/企画:佐藤靖/撮影:倉本和人/照明:佐藤才輔/音楽:佐々木貴/編集:金子編集室/助監督:荒木太郎・田島政明/撮影助手:下元哲/照明助手:佐久間栄一/効果:東京スクリーンサービス/スチール:田中欣一/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:伊藤清美・彰佳響子・河井憂樹・佐藤靖・江口高信・武藤樹一郎・田島政明・川島由美・金子真奈美・佐藤俊鬼・山地美貴《友情出演》)。製作の飯泉プロダクションは、アルファベット表記のIIZUMI Productionと要は同じ組織。
通過する電車から住宅地にパン、最終的にカメラがどの家を目指したいのか、覚束なく寄つてクレジット起動。江口隆司(武藤)が朝食を摂り、妻の和代(彰佳)は台所に立つ朝の風景。一方、未だベッドの中にゐるのが大丈夫なのか軽く心配な、伊藤清美の部屋。スペースの入れ方が素頓狂で、“監督飯:泉大”に寧ろより読める監督クレが、掉尾を飾り損ねつつ琴線は撫でる、生温かく。伊藤清美がカーテンを開け、「こんな街、消えてしまへばいゝんだ」。ソリッドに呪詛を投げた、下町越しにビルを望むロングにタイトル・イン。監督飯に話を戻すと、演出部専任のケータリングか。
明けて三番手の濡れ場が轟然と飛び込んで来る、まゝある手法の割に、陳腐さは案外感じさせない鮮やかな奇襲。風俗嬢のユキ(河井)が、仕事で男に買はれる前にホストの細山(佐藤)を買ふ一戦を一旦完遂した上で、会社的には午前中外回りの体にしてある江口課長は、三日間無断欠勤してゐる部下兼、浮気相手の北野秋子(伊藤)宅を訪ねる。
秋子と江口の拗れた情事を、稼働する洗濯機のカットバックで中途に畳む。最初の一手が瞬間的すぎるのに思はず編集ミスかと面喰ふ、斬新な繋ぎを経て江口家の電話が鳴る。配役残り、江口高信は離婚したとやらで和代を訪ねて来る、関係を持つてゐたのが実に十二年前だなどと、大概底の抜けたか箍の外れた、それとも直截には知らんがなな元カレ・イワナガ。こゝまでは、いゝとして。田島政明以降が、名前から足らない藪の中。秋子と細山が出会ふ、各テーブルの上に―普通に外にかけられる―電話機が設置してあり、それでテーブル間に於ける遣り取りも可能といふのが、今となつては謎めいたシステムの喫茶店「モア」。客同士の店内通話はまだしも、細山がモアから営業電話をかけ倒すのは、全体如何なる料金体系になつてゐるのか。ちなみに細山からかゝつて来た電話を取つただけの秋子は、三百五十円しか払つてゐない。閑話休題、画面手前と奥にカップルが一組づつ見切れるうち、奥の男が多分佐藤俊鬼、当然a.k.a.サトウトシキ。女は二人とも山地美貴ではないゆゑ、川島由美と金子真奈美、手前奥の別は知らん。手前男と、不愛想なボーイに手も足も出ない。モアを出た細山が出勤するホストクラブで、かの「愛本店」が堂々と実店舗大登場。それで協力クレジットされもしない、豪気な昭和の大らかさに軽く震へる。幾許かの台詞とアクションの与へられる―二言三言ならボーイも喋る―ビリング推定で、田島政明は自分の客であるユキを寝取つた、細山をシメるホストか。山地美貴はモアのウェイトレス、に、しても。折角山地美貴を連れて来てゐる以上、もう少しこれ見よがしに抜いてみせても別に罰はあたるまい。
飯泉大時代の北沢幸雄旧作が、ソクミルの中に一本ポカーンと入つてゐるのを見つけた昭和60年第五作。ほかに、何故かソクミルではアテナ映像のリリース―ex.DMMではアートポート―になつてゐる、代々忠や渡辺護も発見、随時出撃する予定。企画が佐藤靖といふのが気になり、調べてみるととうに既知の事実であつたにも関らず、今作の恐らくのちに、佐藤靖がバーストブレイン・プロダクツを興してゐた沿革を寡聞にして頭に入れてゐなかつた、まだまだ甘い。
快感は兎も角、特にも何も、アブいプレイの一欠片たりとて行はれる訳でもなく、“異常”に意味は全くない。極太ゴシックで七文字ドカーンと叩きつける、タイトル・インの藪蛇な迫力をさて措けば。数組の男女の付かず離れず―全部の組み合はせ離れてないか?―といふか入れポン出しポンを、経時的に描く。と来た、日には。何となく覚えた既視感は、決して気の所為ではない。大体同趣向の増田俊光昭和59年第一作「
ONANIE 24時間
」(脚本:しらとりよういち/主演:沢田かほり)を想起するに、去来する思ひは
やりやがつたな白鳥洋一
。臆面もないレベルの焼き直し具合が、却つて量産型娯楽映画らしくさへある、ないかいな。問題は展開の経糸を繋ぐ犬のジュリーもゐなければ、実は一作を通して男女が一度も絡まない、結構離れ業のコンセプトも不在。燻るだけ燻り倒した銘々が、誰一人満足に爆ぜもせず。明確に起こる関係性の変化といふと二度目の堕胎―父親は何れも江口―挿んで、秋子と細山が偶さか交錯するくらゐ。両作並べてみると異快24時の小粒ぶりが際立つ、仕方のない縮小再生産加減が年を跨いで、新東宝と大蔵を股にかけた24時デュオロジーのハイライト。
本作単体に背、もとい目を向けると。尺的には四十分前、第一次モア・パートの火蓋を切つて以降が、実は女の裸が暫しお留守な豪快仕様。一応、和代が腹を括つた風情を匂はせる、夫婦生活を締めに置きこそすれ、概ね佐藤靖と、伊藤清美のカップリングで終盤を支配する。二人が最初に接触を果たす際の会話が、細山から秋子に机上電話をかけ、「どうかしたんですかお嬢さん、今にも死にさうな顔して」。それでミーツが成立する途轍もないファンタジーに畏れ入るほかないが、無論不審がる秋子に対し、火にニトロをくべるエクスプロシブな名ならぬ迷台詞が、「貴女の寂しさうな横顔に、一目惚れしちやつた男ですよ」。えゝゝゝゝ!殺傷力の高いダサさに、太陽は隠れた戦慄を禁じ得ない。子供を堕ろして来た秋子と推定田島政明にボコられた細山とが、秋子が置き忘れた定期入れを接着剤に、何時まで開いてゐるのか深い時間のモアにて再会。再会後の第二次モア篇も第二次モア篇で、藪から棒に口火を切るゲーム方便が、茶も濁し損なふ他愛ない体たらく。アバン尻で火を噴きはした、伊藤清美の捨て鉢なエモーションなんて完全に不発。どころか、純粋無垢にそれきり、金輪際のそれきり。これぞ木に接いだ竹の極致、極めて呉れなくていゝ。詰まるところが、茶店で捕まへた主演女優を人質に展開をジャックする、佐藤靖の佐藤靖による佐藤靖のための俺様映画といふ色彩が最も色濃い。山科薫と熊谷孝文を足して二で割つた程度の、佐藤靖のファンであれば必見といへる、のかも知れないけれど。ところで佐藤靖クラスタが何処にゐるのとかそもそも現存するのか否か、といつた疑問を当サイトには訊かないで。
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