真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「ダブルファイナル 性力増強!! お下劣クリニック」(1994/受審:新東宝ビデオ株式会社、の筈/監督:浜野佐知、の筈/出演:田村香織・手塚莉絵・栗原良・樹かず・杉本まこと)。
 ボディコンの田村香織が黒ブリーフ一丁の樹かずと軽く乳繰つて、本格的な尺八と騎乗位。手塚莉絵がナースの白衣を脱ぎ、矢張り口唇性行と性器愛撫、こちらのお相手は栗原良。ビリング頭二人を一分強で掻い摘むと、相変らず凄まじく酷い書体のタイトル・イン。新東宝ビデオ的には、一種の社風なのかしらん。
 旧旦々舎の庭に薮中―博章―劇伴が鳴り、栗原良が「ウチでセックス出来ないんです」。三年間夫婦生活が御無沙汰といふ患者の悩みを、恐らくハーセルフの女医(田村)が聞くカウンセリング。当人のアイデンティティとしては、セックスのエキスパートといふよりも“心の専門家”らしいゆゑ、専門は精神科か。白痴に二三本陰毛を生やした造形の、看護婦(手塚)が脇に控へる、こちらは下の名前が莉絵ちやんと劇中香織センセイから呼称される。香織が口にしたセックスレスの単語に、耳慣れぬ風情で栗原良が首を傾げる時代性。
 配役残り、ダッボダボにオーバーサイズのスーツに眩暈がする―断じて褒めてはをらん―樹かずは、香織の彼氏かセフレ。杉本まことはいざ挿入、といふ段になると萎えてしまふ勃起不全の相談に訪れる患者其の弐。
 嘘か本当か知らないが、“業界初の同時引退作品”を謳つた一本。ホワイエ、もといとはいへ。如何にも引退作的な湿つぽさないし花道調の晴々しさ賑々しさ、あるいはメモリアルな何某かとは一切全然まるで無縁。あと田村香織と手塚莉絵は二人とも、ピンクとは全く関係がない。
 香織が栗原さんの検査を莉絵に振つた時点で、検査キタ━━━(゚∀゚)━━━!!出し抜けにスラックスを下され呆気にとられるリョウを、莉絵がズッポズポ吹いてのける端から底を抜いた、大らか且つ低劣な琴線を最短距離で直撃する実戦的な煽情性が、そのまゝ大人しく全篇を支配する。本職の映画といふ訳ではなく、物語なり主題なりにも振り分ける労力を潔く端折つた上で、さうなるとあとは火の玉ストレートな濡れ場に全てを賭ける。腹を括つた、浜野佐知の豪腕が痛快に火を噴く。中折れに悩む杉まこがよく見る夢の中身といふのが、観音様の中からエイリアンが覗いてゐる。俄かに起動する山﨑邦紀の気配と、結局杉まこには未だ望まぬ子作りもしくはAIDSに対する、即ち所謂ノースキン挿入に潜在的な抵抗があるとかいふ方便で、コンドームの正しく薄皮一枚で問題を克服する煌びやかに底の浅い即物性とが清々しい、素晴らしいとはいつてゐない。それでゐて、処置を施す治療ルームと称した、要は単なる寝室に連れ込まれ呆然とするリョウや杉まこが、香織と莉絵からザックザク喰はれる辺りには、旦々舎らしい攻撃的な女性優位がそこはかとなく薫りもする。絡みぶりのよりダイナミックな田村香織と、上半身を大きく使ふ尺八がエモい手塚莉絵。粒の揃つた二枚看板に、無駄で下品なメソッドに興を殺がれることもない、劇映画にも十分に耐へ得る男優部。一見他愛ないか何でもない素振りで、なかなか高水準な小一時間をサクッと見させる。

 一点、凡そ三十年を経た現代の視座から眺める分には、軽く躓かざるを得ないシークエンス。治療ルームにて莉絵に吹かれる栗原良の姿―より直截には棹―に、香織が勝手にワンマンショーをオッ始める。目を丸くするリョウに対し、カウンセラーがオナニーしてはおかしいか問ふた香織は、続けて「女医やカウンセラーも、子供を産んだお母さんも」、「同時に、性欲を持つた生身の女なの」。今時―といつてもう三年前だが―触れるだけ触れて小栗はるひは豪快に等閑視してのけた、エイセクシュアルの存在に留意するならなほさら、ヘテロセクシュアルなるよくてアプリオリな前提、故意の悪し様にいふならばひとつのドグマに、囚はれてゐなくもないのではなからうか。


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