真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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尻肉ライダー ぶつかけて青春
さ行
/
2022年11月21日
「
尻肉ライダー ぶつかけて青春
」(2021/制作:《有》大敬オフィス/提供:オーピー映画/音楽・脚本・監督:清水大敬/撮影:大久保礼司/録音:西山秀明 ㈲スノビッシュ/照明:藤田陽介・ジョニー行方/作曲・振付:花椿桜子/ポスター:中江大助/助監督:郡司博史/制作進行:佐々木狂介/仕上げ:東映ラボ・テック㈱/出演:ふわり結愛・成宮いろは・松緯理湖・ことり・大山魔子・銀次郎・野間清史・陣場虎次郎・川上貴史・安藤ヒロキオ・佐々木狂介・吉良星明・郡司博史・森羅万象《特別出演》)。出演者中、陣場虎次郎と川上貴史に郡司博史、森羅万象のカメオ特記は本篇クレジットのみ。斬新にも、編集のクレジットが見当たらないのは相変らず。しかし、何かあちこちちぐはぐなビリングだな。
マジ愛車のホンダCBR400Rを、ふわり結愛が始動させる。素の状態だと薄らぼんやりした、好意的にいふならば正しくふんはりした表情に、捩子の二三本外れた公開題―評価してるつもり―に比すと一層、随分あつさりしたタイトル・イン。アバンは案外こんなものなのか、あの清水大敬にしては淡白、どのだ。
明けて御馴染歌舞伎町一番街のネオンから、上村錠治と山口幸子の名前が殺風景に並ぶ表札。一番街ネオンが、以降全篇通して繋ぎのカットで執拗に濫用―あと伝統的な画角の、大通り跨ぐ高架ロング―される割に、偶さか主人公宅が其処に存するといふだけで、実は歌舞伎町に特にも何も全く意味はない。劇団「朝日」の俳優・上村錠治(安藤)が、一緒に住む同劇団の研究生で、出勤前の山口幸子(ふわり)に見るから大丈夫ではない苦渋の風情で百万の無心を切り出しつつ、とりあへず挨拶代りのパツイチ。ふわり結愛の童顔×正調美少女素材を考慮し攻め方を変へてみたのか、旦々舎に勝るとも劣らない重量級轟音の煽情性、そして天下無類の即物性を誇る清水大敬が得意のローションも一旦封印。女の裸をただただひたすらエロくでなく、比較的綺麗に捉へるお上品な濡れ場を披露。手数の多さの諸刃の剣、ザックザク切り刻む大雑把な体位移行に際しても、幸子の顔を一拍挿み込むらしくない小技を繰り出してみせる。清水大敬に普通の絡みを撮られると、それもそれで却つて物足りなさを覚えてもしまふのは、ならばどうしろといふ我儘な贅沢。
配役残り、野間清史は金槌を得物に―借りた金を返さない―上村を襲撃する、本部から派遣された「鮫島金融」の用心棒・金村。昨今、うつかりしてゐると清水大敬より老けて見えかねない佐々木狂介(ex.佐々木共輔/a.k.a.佐々木恭輔)と、先に触れた対ふわり結愛とは対照的に、従来の大敬オフィス作を力強く担保する成宮いろはは、幸子が事務員のアルバイトで働く「三原山物産㈱」の、社長の多分三原山とその夫人。同居する母親に気兼ねし自宅ではヤリ辛いとかいふ、一応道理が通つてゐるのか矢張り底が抜けてゐるのか。よく判らない方便で社内夫婦生活に日々勤しむ、仲睦まじいのは仲睦まじいファンキーな栄諧伉儷。要は概ね全員さうなるのだが恐らく額面通りの、公称151cmのふわり結愛と並ぶと矢鱈馬鹿デカく映る銀次郎は、幸子を訪ねて来る山桜高校の恩師・岡野か丘野。美人は美人の割に、色気のない男顔のことり(a.k.a.志摩ことり)は、後述する二人と「鮫島金融」を任される固有名詞不詳、金村とは懇ろな間柄。本クレで三番手に扱ひがひとつ昇格する―ポスターではことり―松緯理湖(ex.松井理子)は、ことり(大絶賛仮名)と姉妹分の堺明美で、大山魔子が明美姉貴分の鳳、即ち三人のリーダー格。国沢実2019年第二作「
スペース・エロス 乳からのメッセージ
」(高橋祐太と共同脚本/主演:南梨央奈)以来、箆棒に間隔が空いてもゐないが、再びのピンクとなる継戦自体に軽く驚いた吉良星明は、幸子の山桜高校演劇部の先輩・大山健二、岡野が顧問。ちなみにこの人、吉良星までが苗字、目出度えな。ある意味十八番芸ともいへるのかスチール出演の郡司博史は、息子の意に反し酒屋を継がせた健二の父。主役を得る条件のチケットノルマ百枚に窮し、上村が鮫島金融から借りた四十万は、文字通り法外な利子で忽ち百万に膨らむ。返済と引き換へに強ひられた、といふか断れば顔をボコボコにすると鳳らに脅された、ブツを届ける聞くからイリーガルな仕事を、上村の苦境を救はうと幸子が引き受ける。全体何がしたいのか鍵はかゝつてゐない檻の中で悠然と待つ川上貴史は、幸子から厚封筒を受け取り、植木鉢の陰だなどと、人を馬鹿にしたやうな隠し場所に金を置いて行く頓珍漢な強面、家の鍵か。油断してゐると吹き荒ぶ、清水大敬のプリミティブなフリーダム。陣場虎次郎は朝日の演出家、金で役を売る腐り倒した劇団の体質には反し、別に幸子を手篭めにしたりはしない。そして最早判で捺した如き定位置にドッカと座る森羅万象が、鮫金の上位組織「鮫島興業㈱」の社長・鮫島、どうせ下の名前は権造か権三。カメオではあれ、一幕を堂々と仕切る。改めて数へてみると、森羅万象の鮫島フィルモグラフィーが今作で足かけ六年の七本目。七百本はありさうな気がしてゐた、大御大・小林悟でもそんな撮つてねえ。
近年は年三本撮らせて貰へてゐた、大蔵の何気な寵愛ぶりを窺はせる清水大敬も、コロナ禍の被弾は流石に回避し損ねたか2020年の二本を更に割り込み、2021年は一本きり作。郡司博史が演出部で、佐々狂も制作部兼任。フィジークばりに絞り込まれた制作プロダクションにも、地味に苦境を覗かせる。景気の悪い話はさて措き、今回上野が大敬オフィス作を公式に、ボリウッドの要領で“ダイウッド”と銘打つてゐるのが爆発的に可笑しい。“尻肉ライダー”に止(とど)まらず、オーピー絶好調すぎるだろ。
単車乗りのヒロインが、自堕落な同棲相手の身代りに運び屋の危ない橋を渡る。と来ると愛しのCBR400Rと一緒なら勇気百倍、可憐な尻肉ライダーが卑劣な悪党どもと丁々発止渡り合ふ、痛快な娯楽活劇を期待、したかつたところが。普段が常に起き抜けみたいな、寧ろ脱いでからの方が面持ちの安定する心許ない主演女優に、たとへば海空花のやうな骨太のアグレッシビリティを端から望みやうもなく。重ねて、あるいは火に油を注ぐのが。見える見えないの問題ぢやない、危ないんだよボケといふ至極全うな理由で、ふわり結愛がリアルでは絶対にミニスカなんかで運転する訳がない、CBR400Rはそろそろ発進して、おそるおそる停止するのが関の山。正味な話、それでもふわり結愛は無防備な御々足がスースーするのが怖かつたらう。尻肉ライダーといふ画期的にファンタスティックな機軸を謳ひながら、さういふ、実際には情けない体たらくゆゑ、井上真愉見らが単車をバリバリ駆つてゐた、西村卓昭和61年第四作「
暴走レイプ魔
」には到底遠く及ばず。西村卓にも―“にも”とは何事か―出来てゐたことが何故出来ぬ、といふ遥か原初的な以前に。だから、そもそもバイクを太股も露に運転させる前提なり選択に根本的な無理がある。走らせたら走らせたで、何れにせよオートバイがカッコよく走つてゐる画を、果たして清水大敬に撮れたのか否か甚だ怪しいともいへ、大人しくバイクスーツをフェティッシュに舐める順当な方法論を採れなかつたものか、本質的な疑問は如何せん拭ひ難い。
半ば潰へるべくして潰へた、バイカー映画は潔く諦めてしまへ、日本も印度だ。一方、ダイウッドに関しては。親子喧嘩の末郡司博史殺害を早とちりした健二は、幸子を追ひ東京に出奔。ツバメかバター犬的に、明美に拾はれる。片や、アル中の父親が粗相した便器を掃除させられた幼少期のトラウマで、鳳は強迫的な衛生観念の持ち主に。自白曰く僅か二滴手洗にヒッかけた―だけの―健二に対し、激昂した鳳は左右にことりと明美を従へ、“お前のためのショータイム”を宣告。グルッと一周したペラッペラさが満更でもないバンド演奏に乗せ、踊り歌ふのが「急ぐ膀胱、急ぐ肛門」、「心静かに、心静かに」。「手を添へて、手を添へて」、「外に漏らすな、外に漏らすな、外に漏らすな」、「松茸の、露!」なる画期的な歌詞の珍曲。ど、どわはははは!うん、言葉を選ぶと頭おかしい。清水大敬は天才にさうゐない、紙一重で惜しい御仁でなければ。ところが、よもやまさかの万が一。もしかすると惜しくないかも知れないんだな、これが。例によつて都合のいゝ奇縁に、足を洗つたことりと、金村の恋路の行方は等閑視される点を除いた全てが自動的な勢ひで導かれる、ピタゴラスイッチ大団円。皆から可愛がられるヒロインが棚から降り注ぐ牡丹餅を浴びるばかりで、実は殆ど全く一件の収束に寄与してゐない万事・エクス・マキナな結末に、斯くも壮絶な迷トラックが重要な呼び水として機能する。余人の追随を許さないプログレッシブ作劇こそが、音楽の富を奇想天外な遣り方で奪取してのけた、ダイウッドのダイウッドたる所以。そこまで見据ゑてのダイウッド命名であつたとしたら、オーピー超絶すぎるだろ。
最も肝要な、裸映画的にはふわり結愛相手に一旦緩めたかに思へたアクセルを、ビリング後ろ三人で何時も通りベッタベタにベタ踏み。目新しいめりはりを生じさせた返す刀で、隙あらばたとへ敵が大山魔子であつたとて間断なく弾幕を張る、寸暇を惜しんだパンチラと胸の谷間とで画面を埋め尽くす。何よりエクストリームなのが、ことりと金村がアツい一戦をキメた事後、なほシャワーを浴びエモいトランジスタ爆乳を重ねて丹念に堪能させた湯上がり。鮫島周りの外堀をぼちぼち埋める会話がてら、その間もことりがわざわざオッパイにクリームを塗る最早神々しいまでに麗しい、是が非ともお塗りして差し上げたくなる無上のシークエンス。ジャスティス!さう尊ぶ以外に、如何なる讃辞も不要である。必然性だ、リアリティだ片腹痛い能書で、棹が勃つのか。否、勃つものか。観客の、見たいものを見せる。そこに乳尻がある限り、なければ連れて来ればいゝ。清水大敬が貫くまこと漢の姿勢ないし至誠は、断固として正しい。
「生きてさへゐれば、きつといゝことがある」。かつては木に暗転極大スーパーを接ぎ観客を呆れ返らせてもゐた、鉄の信念は確かに鉄の信念と思しき他愛ないオプチミズムも、別れ際の岡野に幸子と健二には聞こえぬやう独り言ちさせる形で、思ひのほかスマートに処理、褒めすぎたかも。主演女優をまるで孫娘のやうに愛でる清水大敬は、へべれけな雪崩式ハッピー・エンドをも、持ち前の尋常ならざる熱量で力技の南風に無理から固定。下らない詰まらない拙い、ついでに折角のCBR400Rは走らない。然様なあれもこれも、もといあれやこれや、清水大敬にはどうでもいゝ、よかないんだけど。大いに清々しいのが、俺達の清大映画ぢやないか。メイビナットでない、褒めすぎた。
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