真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「OL誘拐犯 剥ぐ!」(昭和60/製作:獅子プロダクション/配給:にっかつ/監督・脚本:片岡修二/企画:奥村幸士/撮影:志賀葉一/照明:斉藤正明/編集:酒井正次/助監督:橋口卓明/監督助手:末田健・浦富真悟/撮影助手:中松敏裕・鍋島淳裕/照明助手:坂本太/スチール:田中欽一/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/挿入歌:『GIVE US THE TRUTH』作詞・作曲・演奏:リップクリーム 唄:千里/出演:藤村真美・ジミー土田・鈴木幸嗣・早乙女宏美・秋元ちえみ・瀬川奈津子・外波山文明・清水圭司・大山潤次・長尾恭平・下元史朗)。出演者中、清水圭司から長尾恭平までは本篇クレジットのみ。
 深夜、チャリンコに乗つた制服警官の沼田(多分大山潤次)が、倒れてゐるジミー土田を発見、慌てて駆け寄る。のは岩淵か岩渕達也(ジミー)と渉(鈴木)が仕掛けた罠で、渉に襲はれた沼田は、スミス&ウェッソン社製38口径―のち鑑識の台詞より―を奪はれる。その辺り、ガン考証に関しては門外漢につき潔く通り過ぎる。但し、渉の苗字は轟だらう。
 アバンが二十秒強の手短さでブルーバックにタイトル・イン、が実はブルーバックでなく、青い照明の当てられた壁といふさりげなく小洒落たカット。女(瀬川)を抱く警部補の野沢(俊介に決まつてゐる/下元史朗)に、頭を割られた沼田本人から拳銃強奪の急報が入る。女の制止を振り切り、出勤する野沢が出際に「俺のことに口を出すんぢやない」。閉められたドアに、女がクッションと投げつける台詞が「サイテー」。本篇冒頭の濡れ場初戦を四番手が飾る、電撃の奇襲作戦を鮮やかにキメた瀬川奈津子は、清々しく一幕限りの御役御免。それもそれで、潔い。
 所帯の大きさから窺ふに、結構な大企業の総務課。江藤倫子(藤村)に、サラ金から督促の電話がかゝつて来る、職場にまで。同僚の恋人・園山(高志か/清水圭司)のために、倫子は七十万まで膨らんだ、元本五十万の借金を作つてゐた。少なくとも政治的と経済的に一元号丸々ドブに捨てた、平成を経てなほこの期に潮目の全く変らない。当サイトは令和の底辺ながら七十万くらゐカード決済して呉れればなうこの瞬間返せるのだけれど、昭和の会社員が、何をそんな窮してゐるのか不思議な不自然に関しては等閑視される。のは、兎も角。こゝで衝撃的なのが清水圭司といふのが、声を聞く分には一目ならぬ一耳瞭然であるにも関らず、暫し目を疑ふほど肥えたex.清水国雄。
 金もないまゝとりあへず事務所に顔を出した倫子を、社長の佐伯(と来ると恭司/外波山文明)が―射精産業に送り込む―値踏みする、「微笑ローン」を達也と渉が襲撃。金庫のみならず、各人の机にも札束が入つてゐたりする、無防備かプリミティブな会社から三千万を二人が強奪する一方、正しくどさくさに紛れ、倫子も金銭借用証書を鷲掴みにして逃げる。突入前のエレベーター、ジミー土田と鈴木幸嗣が、バンダナを巻いて顔を隠すカットが普通にソリッド。
 またひとつ辿り着いた、配役残り。feat.千里―この人の素性は知らん―のリップクリームは、一旦達也が犯した倫子に飯を食はせるライブハウスにて、挿入歌を演奏してゐるバンドセルフ。当時既に、といふかとうにMTV文化の火蓋が切られてゐたにしては、プロモ風シークエンスの壮絶にダサい通り越して酷いカット割りはこの際さて措き。どう見てもドラムを狼狂二が叩いてゐるやうにしか見えなくて、調べてみたところLip CreamのDr.であるPILLの、役者活動時の名義が狼狂二。見える見えないではない、狼狂二が叩いてゐるんだ。更に先に進むと、現状確認可能な最も早い狼狂二の俳優部仕事は、片岡修二の九作前、昭和59年第二作の「黒い暴姦 婦警を襲ふ」(新東宝/主演:麻生うさぎ)。その映画ではa.k.a.PILLの狼狂二がLip Cream以前に参加してゐた、G-ZETが挿入歌を担当してゐる。ついでで同様に最後はVo.のジャジャと共演する、矢張り片岡修二の「地下鉄連続レイプ」シリーズ最終第四作「愛人狩り」(昭和63/主演:岸加奈子)。横道、坊主もとい終了。寝る時以外は家でもセーラー服の早乙女宏美は、倫子と二人暮らしの妹・恵。実は清水圭司の総務課ファースト・カットで一緒に見切れてもゐる秋元ちえみは、園山の二股相手・圭子。恐らく長尾恭平が、野沢の部下の革ジャン刑事・トクラ。何れにせよ、二人とも渉に撃たれ殉職する。その他総務課を皮切りに、笠井雅裕がゐるのは見切れる微ローとLip Creamがライブするハコ、捜査本部ならびあちこちの官憲部。ジャッブジャブ結構途方もない頭数が投入、されはする、見栄えするとは別にいつてゐない。
 片岡修二の買取系ロマポ第三作となる、昭和60年第五作。当年に関しては、ピンクよりも買取系の方が多い。
 同じ路地に一旦退避した奇縁で達也が赤で、渉は青。各々明確に色分けされた微笑強盗犯に、倫子が拉致。一旦脱出するも自宅をトクラに張り込まれ倫子は戻るに戻れず、結局二人と行動をともにする破目に。といふと無軌道なアクション映画の構造が、上手いことあつらへられたやうに思へなくもない、ものの。当サイトがかういふ感興を懐くのも正直珍しいが、諸刃の剣的に裸映画を一欠片たりとて疎かにしはしない分、寧ろもう少し延ばしても罰は当たるまい、ピンクと全く変らない尺。佐伯といふか外波文の過剰な造形―とex.清水国雄の贅肉―に、例によつて最終的には大雑把か粗雑なドンパチ。刹那的な凶行に巻き込まれた女が、何時しか男達を追ひ越し先頭に飛び出して行く。如何にも魅力的な物語の割に、大味なのか小ぢんまりしてゐるのかよく判らない展開が、駆け抜けも弾けもせず案外漫然と進行。序盤は再三再四投げつつ中盤暫し忘れてしまふ、“サイテー”も満足に結実し損ねるラストが逆の意味で綺麗に失速、墜落してるかも。多分似たやうな脚本を長谷部安春か西村昭五郎にでも渡してゐれば、吃驚するほどの傑作になつてゐた、のかも知れない微妙な一作。藤村真美がポップな阿亀顔に囚はれるか躓かなければ、この人ディフェンシブな絡みに実は長けるのが収穫で、一点どうしてもツッコまざるを得ないのが、担保と称して恵を手篭めにする、佐伯いはく「妹が姉の身代りになるのは合法的」。えゝと、それは何時の時代の何処の法だ。


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