真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「BODY TROUBLE ボディ・トラブル」(2014/製作・配給:株式会社旦々舎/監督:浜野佐知/構成・脚本:山﨑邦紀/企画:鈴木佐知子/撮影:小山田勝治・猪本太久磨/照明:守利賢一・蟻正恭子/録音:沼田和夫・小林理子/助監督:北川帯寛・菊嶌稔章/応援:田中康文/編集:金子尚樹/音楽:中空龍/MA:シンクワイヤ/整音:若林大記/音響効果:吉方淳二/グレーディング:東映ラボ・テック/協力:新日本映像株式会社/参考文献:植島啓司『男が女になる病気 -医学の人類学的構造についての三〇の断片』/クラゲ提供:アクアショップ マリンキープ/出演:愛田奈々・加藤ツバキ・齋木亨子・里見瑤子・みおり舞・なかみつせいじ・津田篤・ダーリン石川・竹本泰志・荒木太郎、他四名・宝井誠明・菜葉菜)。クレジット終盤に力尽きる、照明の守利賢一はガッツの本名。
 プカプカ漂ふクラゲと、水槽越しに覗き込む菜葉菜と宝井誠明を抜いてタイトル・イン。私称第二ミサト屋根裏のオタク部屋、そこに棲む引きこもり男の佐藤裕美がある朝か昼に目覚めると、裕美は絶世とまでいふと大袈裟だけれど結構な美人(愛田奈々)になつてゐた。この本篇開巻、裕美が寝返りを打つと津田篤をスッ飛ばしていきなり愛田奈々が現れるのは、初見の観客には甚だ判り辛いと思ふ。一方クラゲ部屋では、アイデンティティ・カウンセラーの海月(室井)が、男であることを否定し自らの意志で女に輪廻転生した、ダライ・ラマも吃驚の菜葉菜と対峙する。新規配役他四名は、津田篤時代の裕美に飲み会で疎外感を爆裂させる、リア獣四人組。それと齋木亨子といふのは、a.k.a.佐々木基子。
 古巣電撃帰還作兼、デジタル・エクセス第四弾「僕のオッパイが発情した理由」(2014)と並行して撮影。濡れ場をサッ引く代りに素のドラマ部分を上積み、最終的に尺が二十分強伸びた、浜野佐知の「百合ダス」(2011)に続く一般映画第五作、R-15指定。あれれれれ?何処かで聞いた話だなといふのは、決して気の所為でも迷ひでもない。今回浜野佐知が編み出した戦略を、オーピーがOP PICTURES+に際して完全にパクッてゐる。落とし前をつけるべく旦々舎がテアトル新宿に乗り込むカウンターアタックを、激越に希望するものである。
 映画の中身はまづ裸目線では、幾分薄めたとはいへ何せ元々が浜野佐知につき、元来個別には疑問の多いレイティングともいへ、これでR-15なのかと膨らんだカリ首を傾げたくなるほど―今直ぐデスればいいのにな、俺―十二分にどギツい。何より衝撃的なのが、「僕のオッパイ~」では不脱の里見瑤子が相談に訪れた裕美と百合の花を咲かせてみせるのには度肝を抜かれた。しかも、棹がなくなつてゐるのを忘れた裕美が、腰で虚空を突く描写は勿体ないくらゐに面白い。大体、ピンクで脱いでゐない女優が一般映画版では脱いでゐるなんて現象自体があり得ない。一介の観客としては流石浜野佐知だ、やることが違ふと草を生やしつつ感心してゐれば済む話なのかも知れないが、製作費の半分を出したエクセスにとつては、なかなか複雑な心境でもあつたのではなからうか。
 劇映画的にもユニーク、そもそも鬼のやうにエロいと同時に、自身の生涯とリンクした華麗か苛烈な女性主義をピンク映画に於いて叫び続け今なほスティル・ファイティングな浜野佐知だけに、キモオタから美女に文字通り生まれ変つた裕美が小冒険を潜り抜け決然と決別するに至る過程は、実は「僕のオッパイ~」で既に十全に描かれてゐる。そのためピンクで物足りなさを感じさせた物語を一般映画で補完する―それもそれで本末転倒臭が爆裂する話に過ぎないが―どころか、裕美が三人目の助言者として海月を訪ね、菜葉菜が大杉漣に続きなかみつせいじも撃破する見せ場で上手く「僕のオッパイ~」世界と新たに参戦したクラゲ部屋との融合も図られてゐるとはいへ、「僕のオッパイ~」があれば事足りる感は正直否めない。とりわけ、「僕のオッパイ~」では一人きりで取り残された裕美を菜葉菜が救済、一旦より爽やかに更に力強く風呂敷を畳むかに見せかけて、佐々木基子のアシスト噛ませ出し抜けに捻じ込まれるまさかよもやの消失エンドは、紛ふことなきここぞといふ時に繰り出される山﨑邦紀の秘密兵器にして必殺技。要は間違ひなく浜野佐知の映画である「僕のオッパイ~」に対し、双子の姉妹作であるにも関らず今作は山﨑邦紀色の印象が強く、折角の一般最新作にしては、あの竹を手刀で叩き割る浜野佐知が窺はせるらしからず奥歯に物の挟まつた風情も、大いに肯ける。


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