真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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熟女ラーメン おつゆは熱々
さ行
/
2015年09月17日
「
熟女ラーメン おつゆは熱々
」(2014/制作:《有》大敬オフィス/提供:オーピー映画/脚本・監督:清水大敬/撮影:井上明夫/照明:小川満/音楽:清水大敬/録音:シネキャビン/編集:酒井正次/助監督:関谷和樹/撮影助手:宮原かおり/照明助手:福地賢治/演出助手:西谷雄一・原口大輝・田原賢治/制作:大海昇造/出演:加山なつこ・竹本泰志・柳東史・なかみつせいじ・若林立夫・野村貴浩・清水大敬・青山真希・倖田李梨《特別出演》・岩切武彦・生方哲・中村勝則・高木高一郎・周磨ッ波、その他大勢・香西咲)。出演者中清水大敬と岩切武彦、周磨ッ波とその他大勢は本篇クレジットのみ。
美味しさうな醤油ラーメンを作る行程と、常時五人で詰めかける常連客(生方哲・中村勝則・周磨ッ波ら五名)。ヤクザ上がりの加山武(竹本)と、妻のなつこ(華麗にハーセルフ)が切り盛りするラーメン店(ロケ先は田無の中国飯荘山城)。汁まで飲み干すやう強要する武に完食する常連客、なつこが礼を述べタイトル・イン。明けての夫婦生活、完成された繋ぎが麗しい。事後、武の元兄弟分・沢木の名を口に出すなつこを、武は遮る。元々武は沢木(柳)に誘はれ加藤組の盃を貰つたものだつたが、関西の大組織との負け戦を前に、沢木は組を捨てる。武も沢木の勧めに渋々従ひ、家族が居ることもありラーメン屋に足を洗つたものの、元舎弟の山川(若林)が、親分が殺されたと飛び込んで来る。激昂した武は手放してはゐなかつたチャカを取り出し、娘・咲の寝顔(子役?)を見納める。見納めた十二年後、が劇中現在時制。シレッと序盤を丸々回想に費やす、大胆な構成には結構吃驚した。
配役残り何と清水大敬アテレコのなかみつせいじは、咲が所属する芸能事務所社長、兼なつこ公認の恋人でもある石田。ティラリラリンとポップな美人のSEとともに登場する香西咲が、女優を目指すハーセルフ。目下草鞋を脱ぐ山川と倖田李梨、その他十人前後が見切れる沢木の事務所に、現れる青山真希(
ex.逢崎みゆ
)は沢木の正妻か情婦なのか微妙な明美。なかみつせいじに声をアテた結果誰が声をアテてゐるのか不明な清水大敬は、咲がオーディションを受ける「奈落の愛獣」監督、野村貴浩が清水組助監督で自身の監督作の主演に咲を見初める山口。全体何者なのか、俳優部正規部隊以外で一人クレジットの号数が大きい岩切武彦は、仮出所した武を山川と迎へに行く馬鹿に不遜な運転手。
「
熟妻交尾 下心のある老人
」(2006/監督:新田栄/脚本:岡輝男)以来八年ぶりのピンク映画復帰といふだけで既に十分なのに、「
美巨乳・はさみこむ
」(1994/監督:川井健二=関根和美/脚本:乃武良=佐々木乃武良)とピンク次作以来何と二十年ぶりの大蔵帰還といふ加山なつこを主演に擁した、
デジエク
二本
を経ての清水大敬大蔵里帰り作。外堀的には流石に加山なつこのトピックがデカ過ぎて、デジエクの火蓋を切つた清水大敬の新日本映像出稼ぎも霞まうといふもの。
映画本丸に関しては、なかみつせいじの声をある意味選りにも選つて清水大敬がアテる爆裂する違和感が、面白いといへば確かに面白いけれどもあくまでそれは枝葉に属する事柄。幹の部分で興味深いのが、清水大敬がかつての
カサベテしてた頃の比類ない破壊力
には流石に及ばずとも、それなりに気を吐く、もとい仕出かしてゐたデジエクを経て、監督デビュー十六年にして漸く辿り着いた、2012年第一作「
巨乳理髪店 乱れ揉みくちや
」(主演:中居ちはる)以降の一応王道娯楽映画路線に再び回帰してみせてゐる点。武と沢木の男同士の激突、咲と石田のロマンス、そして仁義を通した結果家族を犠牲にした格好の、武と妻娘の愛憎。諸々定番の要素を詰め込んだドラマは、かといつて類型的かつ詰めの甘い展開に終始。竹本泰志と柳東史といふ現代ピンク最強の組み合はせに支へられ、俳優部主導で単独走行可能な武と沢木の義兄弟パートを除けば、特段ワーキャー騒ぐほどのこともない。殊に、幸せの黄色いハンカチばりの浅草仲見世の提灯なる必殺ギミックまで持ち出しておきながら、逡巡するところから咲が首を縦に振るに至る過程を丸々オミットしてのける豪快作劇には、随分おとなしくなつたとはいへ、それでも今なほ清水大敬だと一昨日に感心した。最終的に映画を救ふ今作の切り札は、全編を通し端々で放り込まれる本当に美味しさうな醤油ラーメン。武と沢木がラーメンの汁と同時にわだかまりも飲み干し、大団円に雪崩れ込むラストはさう振り返ると大雑把にも思へ、実際の感触は案外盤石。豚骨ではあれ現に小屋の帰りに食べて来たのだが、ラーメンを食べたい気分にさせただけでも十二分に成功といへるのではなからうか。食欲誘ふラーメンの香り漂ふ賑々しい正調下町人情譚で、群雄割拠する中清水大敬が地味に存在感を示す。
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