真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「女子プロ志願 乳固め卍くずし」(1998/製作:国沢プロ?/配給:大蔵映画/監督:国沢実/擬斗・脚本:樫原辰郎/制作:宮川裕/撮影:小山田勝治・岩崎智之/照明:多摩三郎/助監督:瀧島弘義/録音:シネ・キャビン/監督助手:石野朝子/主題曲:東京KAZ/ネガ編集:フィルム・クラフト/現像:東映化学/フィルム:愛光/スチール:佐藤初太郎/タイトル:道川昭/協力:喫茶シャローム・出馬康成・光石冨士郎/出演:七月もみじ・原田なつみ・相沢知美・銀冶・田中あつし・ときわ金成・竹本泰史・長沼英樹・大田始・梶原金七)。太くなく大きい大田始といふのは、当方の誤記ではない、初めて見た。大田始もかなりクサいが、協力の冨士朗ではなく光石冨士郎といふのは多分シンプルな誤植。
 雑多に物が溢れ、退廃的な空気漂ふ「シャローム」店内。捻りハチマキの常連客・梶原(ヒムセルフ=樫原辰郎)が静かにグラスを口に運び、カウンターの中には三十年続く店を伯父か叔父から継いだオカマのママ(竹本)。これ全部モンローか?壁に所狭しとピンナップの貼られたボックス席では、キョーコ(七月)がヒデさん(ヒムセルフ/ゲーム音楽作曲家とは同姓同名の別人)を接客する。頻りにボディ・タッチを繰り返すヒデさんに、キョーコ激昂。店から追ひ出すとここを打(ぶ)つてと差し出された頬ではなく、キョーコがアッパーを叩き込んだヒデさんを、最終的に梶原がパチキで止めを刺し、どさくさに紛れて勘定は踏み倒す。業を煮やしたママに終に馘にされたキョーコの帰り路、梶原に引き摺られ「浪曲子守唄」を歌ひつつ、やをらシャドーを始めるロングにゴングが鳴るタイトル・イン。どうしたんだ国沢実、この頃はこんなに充実してたぢやないか。
 売れない役者のギンジ(ヒムセルフ)とダラダラした同棲生活を送るキョーコはある日、女子プロレスを目指してゐた筈なのに、二十歳の癖にセーラ服姿で援交相手(ときわ)と連れ立つ旧友・ユリカ(相沢)と再会。終に奮起したキョーコは、ユリカ共々プロテストを目標に梶原の道場でのトレーニングを開始する。
 配役残り大田始は、開巻の一夜潰れたキョーコを事実上保護する格好となる、レス・ザン・ホームでナチュラル・ボーン・ドランカーな人。原田なつみはキョーコの姉で女子プロレスラーのアケミ、劇中ではアジャともタッグを組んだとされる。ギンジから女子プロを勧められたキョーコが、あんな飛行船みたいなガタイになりたくないと虚仮にした次のカットで、仁王立ちの当の飛行船が飛び込んで来る繋ぎは完璧。挙動不審なハンサムの田中あつしは、トップロープから落ち―プロレスラーとしては―再起不能の大怪我を負つたアケミの主治医。その他国沢実が、ギンジの現場に助監督役で見切れる、監督は出馬康成?
 P-1グランプリ2000一回戦で瀬々敬久の「アナーキー・イン・じやぱんすけ 見られてイク女」(1999/主演:佐々木ユメカ)を撃破した金星も今は懐かしい一作、因みに二回戦で田尻裕司の「OLの愛汁 ラブジュース」(1999/主演:久保田あつみ)に負けた。故福岡オークラで観てゐた記憶はありつつ、中身は全く頭になかつた。総合―格闘技―の経験がある樫原辰郎が擬斗も担当し、何処の道場―時期の離れた「OL空手乳悶 奥まで突き入れて」(2009/主演:成田愛)は勿論、「人妻陰悶責め」(2002/主演:橘瑠璃)とも別物件―かまでは判らぬが、実際のリングも登場する。休業日かあるいは潰れたのか、無人のゴルフ練習場でアケミがプラプラしてゐるキョーコを締める件や、梶原が鬼教官に扮してのキョーコ・ユリカの特訓風景に際しては、結構エグい関節技が原田なつみか樫原辰郎から七月もみじに仕掛けられる。それでもちやんとお芝居してゐるところを見るに、相当体が柔らかいのであらう。勝気な造形まで含め、七月もみじがキャリア・ハイを思はせるハマリ役。一度は自分で背中を押しておいて、走り始めたキョーコの背中に、焦りを覚えるギンジの姿も的確な一手。ただ三番手まで尺が回らないのはある意味仕方がないにせよ、それ自体は全然悪くはないアケミと田中先生の物語が終盤を大きく占拠してしまふのは、太るくらゐなら死んだ方がマシだといふ人生観で生きてゐる人間には些かキツい。オリジナル技として“乳固め卍くずし”を、結局繰り出せなかつた画竜点睛を欠いた感も否応なく響く。らしくないことをいふやうだけど、今の俺があの時の中野武蔵野ホールに居たとしたら、多分瀬々に上げる。


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