真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「制服日記 あどけない腰使ひ」(2014/製作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/原案・監督:加藤義一/脚本:鎌田一利/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/助監督:小山悟/監督助手:江尻大/撮影助手:酒村多緒/音響効果:山田案山子/音楽:友愛学園音楽部/協力:ゾンネンプロ/出演:桜ここみ・ほたる・あずみ恋・柳東史・松本格子戸・紅森伐人・東京JOE・GON・井尻鯛・山内大輔・本多菊次朗)。出演者中、東京JOEから山内大輔までは本篇クレジットのみ。
 チクタクぼんぼん時計が、午後十一五十分を指す。情夫・和泉賢(柳)を連れ込んだ母・芳子(ほたる)の憚りもせぬ嬌声を肴に、父違ひで、事故に遭ひ体と言葉の自由を失つた車椅子の兄・太一(紅森)を、木下恵(桜)がいはゆる手コキする。日付を跨ぐと、その日は恵十八歳の誕生日。小さなケーキに一本だけ立てた蝋燭を、吹き消してタイトル・イン。オナニーによる裸と、翌朝高校の同級生・山内雅子(あずみ)の長めの顔見せ挿んで、仕事をするでもなく家に居る和泉に手篭めにされかけた恵は衝動的に家出。繁華街にて、柄の悪いナンパ師(多分東京JOE?)に付き纏はれてゐるところを助けた団厚作(本多)に恵は謎の勢ひでコロコロ懐き、殺風景な一人住まひに転がり込む。街で出会つたJKが、インスタントに家まで来て呉れる、ある意味ファンタジーに思へなくもない。
 観終つた後猛烈にくたびれる、加藤義一2014年第一作。家庭を放棄し男に狂ふ母親と、片端の義兄の介護。ポップに不幸な女子高生を拾つた渋めの色男は、無職のスケコマシ。在り来りな悲劇を、スッカスカに描く。途中で俺は、気が付いた。紅森伐人“かうもりばつと”だなどと取つて付けた変名感を迸らせる名義の正体は、何のことはない鎌田一利。桜ここみとは下手すれば親子ほど歳が離れてゐるどころか、一歩間違へばほたる(ex.葉月螢)よりも年上だ。誤魔化しもしない髪に混じる白いものを見てゐると、別に事故に遭つた義兄でなくとも、単に芳子が匙を投げた亭主で話は全然通る。パッキパキに顔の出来上がつたまるであどけなくはない桜ここみと、地味にキャリアを重ね貫禄もついて来たあずみ恋がよもやのJK二人組。人を喰つた、キャスティング。正体不明の一途さで厚作に入れ揚げた恵は易々と現役女子高生売春婦に身を落とし、何故か重ねて転がり込んで来た友人―の筈の雅子―も、平然と売る。無体を木に竹すら接ぎ損なふロマンティックで和へた奇怪なラストまで、観客の感情移入を端から拒んだが如き展開。大御大・小林悟が壮絶な戦死を遂げて久しく、今上御大・小川欽也は近年第一線を退く。次代を目される関根和美は未だ遠慮か未練があるのかすんでで踏み止まり、渡邊元嗣・浜野佐知・池島ゆたから現役大ベテラン勢はそもそもそんなつもりもなく、国沢実と荒木太郎は終にその器にはあるまい。即ち、オーピー映画がピンク映画最後の牙城―の本丸―として五十優余年の歴史を死守する上で、その極北たる御大枠が現状空いてゐる。そこに、デビュー十年といふ魔速で若御大・加藤義一が何時の間にか―あへて特定するならば、周年記念の次作「主婦《秘》不倫 後ろから出して」(2012)辺りか―飛び込んで来てゐたのだ。さう考へた時初めて合点が行くといふか、さうでも思はないと理解出来ない。

 配役残り、井尻鯛(=江尻大)と、加藤映像工房から電撃大蔵第一作、兼2010年代依然最強の一作「あぶない美乳 悩殺ヒッチハイク」(2011/監督:森山茂雄/脚本:佐野和宏)以来となるみづなれい復帰作「欲望に狂つた愛獣たち」を発表し話題を呼ぶ山内大輔は、誰からも祝はれはしない恵のバースデーに雅子が贈つた、表札大の訳の判らない大きさの蝙蝠のペンダントを、バカにする通りすがりの二人組。一応振り返りもする江尻大に対し、山内大輔は終始背中しか見せない。このペンダントの件もペンダントの件で、女子高生が友達にこんなダサい品贈るかよといふ頓珍漢さに加へ、恵がその場で一言も断りもせずに包みを開け始める無造作さ、徹頭徹尾の薮蛇ぶりが最早清々しい。松本格子戸は厚作とは長い付き合ひと思しき、射精産業従事者・堺幸夫。不完全消去法で恐らくGONは、恵を買ふ客。
 忘れてた、厚作宅の冷蔵庫に、昨年末に封切られたほたる監督・脚本・出演作「キスして。」のフライヤーが見切れる。


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