真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「本番狂ひ」(1990/製作:21映像企画?/配給:大蔵映画/監督:矢竹正知/脚本:浮舟節子/企画:佐藤道子/撮影:倉田昇/照明:森隆一郎/音楽:中村半次郎/美術:最上義昌/編集:酒井正次/助監督:鈴木正人/撮影助手:高橋淳/照明助手:竹内弘一/スチール:津田一郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/小道具:高津装飾/衣装:日本芸能美術/撮影協力:料亭・松風、村山スタジオ/出演:南野千夏・神山洋子・島田さとみ・赤城玲子・南条千秋・長沢聖也・高橋隆二・橋詰哲也・西田光月・野沢純一・青松次郎・本郷竜二・藤堂五郎・海野力也・川津正雄・住吉夏男)。出演者中、高崎ではなく高橋隆二は本篇クレジットまま。
 女子大生の家庭教師・愛子(南野)が、高校二年生の教へ子・ひろし(南条)にピアノ際に追ひ詰められる。思ひ詰めた南条千秋の、マー坊みたいな髪型が堪らない。カット一転、足抜けしようとした暴走族のリンチに遭ひ半死半生のひろしに駆け寄る愛子と、パトカーが到着した気配に蜘蛛の子を散らす一同、この辺りの繋ぎの無造作さは矢竹正知の真骨頂。後のシーンではパトカーを実際に用意してゐるところを見るに、もしかすると単車も走らせてゐるのかも知れない、バンクでなければ相当本格的なチェイスに続いてタイトル・イン。お屋敷、寝つ転がつてドラクエの攻略本を読んでゐるのは、ひろしではなく貿易商を営む父親の有三(だから正しくは高崎隆二でないの?)。素行にも問題のあるひろしに家庭教師をつけることを考へた有三は、二年前に再婚した後妻・雪江(神山)の浮気を心配して、女の先生を希望する、息子のヤリたい真つ盛りは無視かよ。夫婦生活を経て、愛子が、同級生の竜介(長沢)と遅い初体験を迎へるまででマッタリと二十分を消化、漸く家庭教師に入る。エクストリームにグダグダな、残り時間僅かな終盤ではグルッと一周してスリリングに至る無頓着な尺の配分も、矢竹正知の持ち味。何処か正方向に評価可能なポイントは見当たらないものか、とかく、頑なに加点法を拒むストイックな監督ではある。
 そんなこんなでぼちぼちと矢竹正知1990年第一作、jmdbには製作は21映像企画とされるものの、配信された動画では確認出来ず。例によつてといふべきかこの際順調にと自暴自棄にさへなるべきなのか、ツッコミ処だけには事欠かない。豪快な先制パンチで見るなり観る者を秒殺するのが、タイトル・イン直後のキャスト―のみの―クレジット。よもや忘れたのではあるまいなと心配させられるスタッフに関しては、オーラスまで持ち越される。役名も併記して呉れるのは見知らぬ名前も多いこの時期のピンクにあつては非常に助かりつつ、カーセックス後族に襲はれる島田さとみが、劇中ユカと呼称されるにも関らず“若い人”と投げやりに済まされるのは、これで全然序の口。お相手の橋詰哲也の“若い男”は、男優部の濡れ場要員はそのくらゐの扱ひでも問題なからう。青松次郎以下六人が暴走集団と、〃AからEで一括られるのもいいとして、最大級のインパクトを誇るのはリーダー格・野沢純一(a.k.a.野澤明弘)の役名、

 不良番長。

 不w良w番w長w、二十四年前と考へると昔のことのやうな気もしないではないにせよ、1990年に不良番長はねえだろ、破壊力が半端ない。“不良番長 野沢純一”と並ぶ奇跡的な文字列が今作の最高潮、え、オープニングのクレジットが頂点?これはこれまで見た三作に共通する特徴なのだが、陰気な女のナレーション―主は多分赤城玲子―で心情の変化なり展開の推移を片付けるインスタントな作劇は、今回が最も顕著、より直截にいふと酷い。極端な話ダラダラした濡れ場の隙間を、ト書きで埋め誤魔化してゐる。開巻では逃走した不良番長with暴走集団が本篇では全員お縄の自由奔放な映画文法は、矢竹正知の得意技、一体何なんだこの人。最終的に、愛子と―後半は暫し退場したままの―竜介のラブ・ストーリーに収束するラストが別の意味でケッ作。愛子への想ひを胸に、辛うじて一命を取り留めたひろしの立場が全くない。

 配役残り西田光月は、警視30号のパトカーに乗車する刑事、同行する部下は不明。赤城玲子は有三が労を労ふかに見せかけて、酔ひ潰した愛子を手篭めにする赤坂の料亭の女将。


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