真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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熟女ヘルパー 癒しの手ざはり
浜野佐知(的場ちせ)
/
2014年05月03日
「
熟女ヘルパー 癒しの手ざはり
」(2013/製作:旦々舎/提供:オーピー映画/監督:浜野佐知/脚本:山﨑邦紀/撮影:小山田勝治/撮影助手:赤池登志貴/照明:ガッツ/助監督:永井卓爾・北川帯寛/応援:田中康文/編集:有馬潜/音楽:中空龍/録音:シネキャビン/ポスター:本田あきら/タイトル:道川昭/現像:東映ラボ・テック/協力:ラ・カメラ、株式会社我樂/出演:咲本はるか・水希千里・牧村耕次・なかみつせいじ・荒木太郎・竹本泰志・あきら・山﨑邦紀・大城かえで)。出演者中、あきらと山﨑邦紀は本篇クレジットのみ。
床に臥す老人の淵川(牧村)は介護ヘルパーの咲本那美(咲本)に、あの世に逝く前にこの世でイカせて呉れるやう乞ふ。応じた那美は裸身を捧げ、俗にいふオナホで抜く。淵川が達し、那美がニンマリと微笑んでタイトル・イン。冥土の土産なんだから生身でヤラせてやれよ、といふのは一旦呑み込んで後述する。
末期の患者に性的サービスを施した咎で看護士と介護福祉士の資格を剥奪され、今は下半身専門のタクシー風にいふと白ヘルパーとして流れ歩く那美に、新たな依頼が入る。一方、大城さやか(大城)の自主ヌード撮影会。見られることによる欲望や体感の変化、といふと実存主義も二、三口齧つてゐるのか、カメラに痴態を晒しながら、さやかは独自のセックス論を摸索してゐた。あきらと山﨑邦紀が、ここでのカメコ。少なくとも山﨑邦紀は声の馴染まないアテレコで、あきらといふのは恐らく本田あきらか。因みに撮影会会場が協力のラ・カメラであるのはいふまでもなく、株式会社我樂は、GALAKUブランドのジョイトイが那美の商売道具の中に提供される。那美が辿り着いた先は、女性専用シェアハウス長良。今作が、
在りし日の旦々舎が登場する最後の映画
となる。現旦々舎は、静岡にあるらしい。閑話休題、事故以来車椅子の身となつたオーナー・長良(なかみつ)の尺八を吹いた那美が逗留を希望したシェアハウスに、さやかが帰宅。互ひにセクシャルな我が道を往く二人は、忽ち意気投合する。
配役残り水希千里が、もう一人のシェアハウスの住人・鏡子。流れ作業に厭き店への在籍を拒んだ、フリーのトルコ嬢。要はホテトルと変らないやうな気がするのは兎も角、“伝説のマットプレイヤー”と称へられる。どの辺りが伝説なのかよく判らないが、松葉崩しの体勢から足の親指で男の肛門を刺激する、
ポスチョーナージュ
を披露する。ほんで荒木太郎が、鏡子の絶技に心酔する岡倉泰安。動因を担ふやうで然程でもない竹本泰志は、準教授でさやか元指導者、兼婚約者でもあつた塩田。未練を残すさやかの、変貌なり加速を理解出来ず困惑する。
エクセス電撃復帰作が関西先行で既に封切られ、並行する自主映画版も完成間近の今、過日を惜しんでゐる場合ではない。浜野佐知2013年唯一作にして
オーピー最終作
は、よくも悪くも手堅く纏まつた裸映画。那美の下半身介護とさやかのヌード撮影会に、鏡子はマットプレイ。単純にギミックとして三者三様であるだけでなく、各個人のバックボーンにも沿ふ形を採用した、三花繚乱の裸の見せ方は裸的にも映画的にもあまりの磐石さに何気なさすら錯覚させかねないほどに安定してゐる。旦々舎のトメの座を完全に手中にした大城かえでを扇の要に、ビリング頭二人は仲良くルックスは微妙ともいへ、浮世離れまではしない適度なプロポーションは絶妙、三本柱は問題なく機能する。泰安の伝統芸能保存云々といつた件は、鏡子の自分はまだ現役だとする至極御尤もな反発を除けば薮蛇気味でもあるものの、穴のない男優部も物語の進行に粛々と奉仕する。浜野佐知映画のひとつの常として、漂泊のヒロインは何処かへと去りつつ、さやかと鏡子の高齢者と障害者向けのヌード撮影会とマットプレイを売りに、実は資産持ちらしい淵川の支援も受け長良の女性専用シェアハウスは、高齢者と障害者のシェアハウスその名も残照へと発展的に展開する。返す刀で回春に伴ひすつかり回復した淵川に続き、長良も十年ぶりに直立二足歩行を取り戻すとあつては全く順当な、実に綺麗な綺麗な風呂敷の畳みぶりである。ただ、些かお上品にも過ぎまいか。極大のエモーションの前髪を、掴みかけた瞬間は間違ひなくあつたやうに思へる。
さやかを追ひシェアハウスに乗り込んだ塩田に、那美はさやかと自身を―それぞれ象牙の塔と白衣の園からの―“はぐれ者”とした上で、要介護者等弱い立場にある、社会から“弾き飛ばされた者”に相対する決意を語る。久々に採り上げるが、福田恆存が残した文学と政治について、文学と政治各々果たすべき役割について論じた必殺中必殺の名評論「一匹と九十九匹と‐ひとつの反時代的考察」(昭和二十二年二月)。「なんじらのうちたれか、百匹の羊を持たんに、もしその一匹を失はば、九十九匹を野におき、失せたるものを見いだすまではたずねらんや」、と新約聖書ルカ伝の一節を引用した後に、福田はかう述べる。「文学にしてなほこの失せたる一匹を無視するとしたならば、その一匹はいつたいなにによつて救はれようか」。この時確かに、那美ははぐれるでなく社会の中に留まる九十九人のことはさて措いてでも、弾き飛ばされた一匹に飛び込む、文学の―淫らな外延を、福田は到底呑まぬにせよ―映画の音楽の、即ち全ての思想の核となる領域に到達し得てゐた。純然たる極私的な志向なり嗜好でしかないのは千も承知、そのまゝそこから形振り構はず突つ込む覚悟ないしは馬力が、浜野佐知から今回感じられなかつた。商業娯楽作としての体裁と、映画の、あるいは思想の本質。両者を天秤にかけた際に迷はず後者を選び、臆することなく卓袱台を粉砕して済ます苛烈な咆哮を、勝手に望んだ心は残す。
鏡子に縋りシェアハウスまでついて来る泰安が、二人して駅から出て来るカット。正直かなり際どい別の二人連れが映り込んでゐるのだが、作品テーマに対する妥協を排した結果か、撮り直すなり何なりするでもなく使つてある。単なる、時間なり労力の問題に過ぎないのかも知れないが。流石に、まさか狙つて捉へた訳ではなからうな。
>ダウン症児と母親
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