真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「ハイミスOL 艶やかな媚態」(1991『ハイミス本番 艶やかな媚態』の2011年旧作改題版/製作:伊能竜/配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:周知安/撮影:稲吉雅志/照明:田端一/編集:酒井正次/助監督:山崎光典/監督助手:渋谷一平/撮影助手:村川聡/照明助手:小田求/スチール:津田一郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:橋本杏子・石川恵美・早瀬瞳・芳田正浩・南城千秋・池島ゆたか)。製作の伊能竜は向井寛の、脚本の周知安は片岡修二の変名。照明の田端一が、ポスターでは何故か伊和手健に。
 窓の外からロングで抜かれる喫茶店、入社八年ハイミスOLの江藤倫子(橋本)と、上司兼二年来の不倫関係にある野沢俊介(池島)が逢瀬の日程を調整する。来週の日曜日に迫る倫子二十九回目の誕生日といふ、展開の鍵を握るイベントに関してさりげなく投げられる。何の変哲もない津田スタの日本間を、障子越しの劣情を煽るドギツイ照明で無理から連れ込み風に見せる一室にて、倫子と野沢の一戦。事後、倫子は部下兼従順ないはゆるアッシー君の、轟渉(芳田)を呼びつける。後腐れない相手を次々に変へ奔放なセックス・ライフを楽しみながら、自身に明確な好意も寄せよう轟を便利な存在としていひやうに扱ふ倫子の姿が、モノローグを通して描かれる。役者がひとまづ揃つたところで、完璧なタイミングで飛び込んで来る早瀬瞳は、橋本杏子より年上に見えないか、とまでいふのは流石にいひ過ぎかも知れない、倫子の妹で女子大生の由美。由美が姉に遊ぶ金を無心する、冒頭とは別の喫茶店に遅れて現れた大学の先輩で彼氏の岩淵竜也(南城)に、倫子は何気に目を留める。
 登場順はビリングと前後して石川恵美は、倫子の元同期で現在は野沢の妻・明子。明子との兼ね合ひでどうやら日曜日に野沢は捕まへられさうにもない中、倫子は一人のところを出くはした岩淵を、妹のボーイフレンドにも関らず戯れに喰ふ。例によつて事後は轟を招聘しつつも、倫子は徐々に空しさを覚えて来るのも禁じ得ない。
 詰まるところは、初めからそのつもりでもあつたらうに、自由気儘な放埓の果て、当然の如くやがて訪れる偶さかな寂寥に俄に駆られた三十路も目前の女が、変らず周囲に留まつてゐた真心とやらと結ばれる、端的には都合のいいことこの上ない一作。とはいへ、入念な脚本と意図を汲み平素とは明らかにギアを前に入れた叙情的な演出に、最初に“最後のピンク女優”と呼ばれた、当時天下御免の看板女優・橋本杏子の静かな名演とが合はさる、主として独白を通した倫子の心境の変化が丹念に描かれた上で、倫子基点では兎も角、逆に轟目線からはストレートな純愛物語は、意外と素直にエモーショナルに観させる。考へてみれば、それはそれでこの世界には絶対に必要なものであるとも出鱈目な確信で断じ得るが、冴えないダメ男にセクシーなカワイコちやんが挨拶代りにヤラして呉れる底抜けが存在する他方で、かういふ女の側からの、悪し様にいふならば自堕落な物語といふのも、時にあつていいのではなからうか。絡み合ふ倫子と轟を画面奥に置いたラスト・ショット、カメラのピントが合はせられると同時に下にパンした先のバースデー・ケーキに、無造作に立てられる火の点つたローソクの、十三本―直前のカットから、一本減つてゐる―といふ適当な本数が量産型娯楽映画をらしく締め括る辺りは、深町章の膨大な戦歴を何となく物語る。

 轟を呼び出す倫子が手鞄から取り出す、絶対に懐の中には携帯出来まい携帯電話の尋常ではない巨大さに、時代がいはずもがなに感じられる。


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