真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「覗き好きをばさん 牡の体臭に昇天」(2003『覗き!をばさんの性態 ‐午後の間男‐』の2011年旧作改題版/製作:キティスタジオ/提供:Xces Film/監督:野上正義/脚本:五代暁子・野上正義/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》/制作:野上正義/撮影:中本憲政/照明:墓架冶郎/編集:田中修/助監督:高田宝重/監督助手:北村翼/撮影助手:海津真也・堂前徹之/照明助手:溝口伊久江/協力:有限会社ライトブレーン・カップル倶楽部 藍の森/出演:高根綾・小川真実・青島ひかり・津田好治・野島誠・野上正義)。共同脚本に関する野上正義のクレジットは、五代暁子との対比を明確にすべく号数が1/3ほどに小さい。
 深夜の谷川家、雅子(高根)は一人娘の長電話に釘を刺しつつ、亭主はまだ帰らないのか、床の中で自慰に耽る。その痴態を庭から覗く、サングラスとマスクで顔を隠したポップな不審者の姿を噛ませてタイトル・イン。翌朝、夫の夏彦(野上)は和食、娘・薫(青島)はパン食といふ面倒臭さに雅子が愚痴を零す、結果論としていへばそれどころではない在り来りなディテールと同時に、夏彦のオレンジ色の携帯に微妙に怪しげな電話が入る、ここはさりげなくも十全な伏線を落とす。夫婦の会話によると高校は卒業したらしいが、その後は明示されない薫は、外出したその足で彼氏の内村智也(野島)とホテルに入る。薫の登場シーンから歴然と少ない中で、野島誠の出番はこの先一切なし。完全無欠の濡れ場要員ぶりがある意味清々しい。年頃の娘はお盛んな一方、“親子ほど歳の離れた”といふモノローグは少々言葉が過ぎるかとも思はれるが、ともあれそこそこ年長の夏彦と今でいふデキ婚した雅子は、何と七年間セックスレスの状態にあつた。そんな次第での、オナニー狂ひといふ寸法である。ここは粗雑な飛躍も大きいが、夏彦宛に届いた張形の宅配便を雅子は勝手に開けると、挙句に訝しむこともなく自身の観音様で堪能。さうかうする内に、開巻既に顔見せ済みの出歯亀・平山直人(津田)の存在に気付いた雅子は、ショックのあまり膣痙攣を起こし、バイブが抜けなくなつてしまふ。助けを乞はれた平山が室内に飛び込み、それはさういふ対処法でいいものやら如何なものなのかはよく判らぬが、兎も角出産を模すやうな形で、雅子は窮地を脱する。その場の勢ひで平山のしかも筆を卸した雅子は、以来若いツバメとの奔放な情事に溺れる。ところで津田好治といふ人は、少し面長にした河瀬陽太に見えて仕方がない、声は全然違ふのだが。
 一見何気ないが、情交時に限らず、野上正義との絡みでは惚れ惚れさせられるほどの安定感を醸し出す小川真実は、出し抜けに寄こした電話を契機に旧交を温める、雅子の友人・榊久美。ところが久美の心積もりとしてはどういふつもりなのか、女房は放たらかしにしておいて、夏彦は久美と不倫関係にあつた、その開始時期も不明。ラブホテルでの逢瀬にも飽きた為、夏彦は久美とカップル倶楽部―要はいはゆるアベック喫茶―「藍の森」に赴く。
 仏さんの仕事に難癖をつけるのは気が引けぬでもないが、一体五代暁子のベース脚本に野上正義が如何に手を入れたのだかが猛烈に解せぬ、劇的に劇の薄い劇映画。直截に筆を滑らせると、エクセスも何を考へてわざわざ今作を新版公開したものやら端的に理解に苦しむ。この期に及んで、原初的な野暮を吹くやうだが。ひとまづ役者が揃つたところで、以降は雅子が延々と自宅に上げた平山と楽しみ倒した末に、平山に連れられた「藍の森」にて、唸りを挙げる便宜的な世間の狭さのことはこの際兎も角、隣のブースで致してゐた夏彦・久美と鉢合はせ、一応オーラスの乱交に雪崩れ込むのみ。裸を抜いた素のドラマ的な展開が、特にどころか殆ど生み出されるでもないままに、重ねて、これまでそこかしこで触れたディテールの数々に加へ、ゲームセンターに於いてアレな感じで戯れる他は語られはしない平山の素性等々、そこかしこに割く尺は幾らでも見当たる割に、省略され済まされた外堀も目立つ。青島ひかりが脱ぐのは一度きりに、残りはひたすら高根綾と小川真実の裸でエモーションを持続させるには、憚りながら小生はまだまだ修行が足らぬ。何れにせよ、少なくとも四人が「藍の森」に入つてから、衝撃の対面を果たすまでの夏彦×久美戦と雅子×平山戦が、目新しいものでもない癖にそれぞれ妙に長く、クライマックスが画期的に間延びする印象は否めない。女の裸を銀幕に載せることのみを本義と成す姿勢、あるいは至誠は確かに天晴であるものの、不躾な話がオバハンの裸ばかりでは流石に些かキツいといふことと、メリハリを欠いてしまつては元も子もない一作ではある。

 劇中、別に雅子が窃視行為を働くものでは全くないのだが、“牡の体臭に昇天”とは語呂から素晴らしい。エクセスにしては久々のヒットといへるのではなからうか。


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