真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「女開業医 世間知らずな性癖」(1999『三十路女医 白衣欲情』の2007年旧作改題版/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:五代暁子/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/助監督:加藤義一/音楽:レインボー・サウンド/監督助手:村石雅也/撮影助手:池宮直弘/照明助手:原康二/録音:シネキャビン/効果:中村半次郎/現像:東映化学/出演:新田利恵・林由美香・中村杏里・岡田謙一郎・山内健嗣・村石雅也・杉本まこと)。出演者中、村石雅也は本篇クレジットのみ。
 亡父を継いだ「中原外科医院」、院長の中原圭子(新田利恵)と看護婦の松崎さおり(林)、それに患者役の村石雅也を加へた診察風景にて開巻。その日の診療は終了後、後始末もさおりに任せ、圭子はそそくさとナイトライフの出撃体勢。生真面目な女医としての仕事ぶりにこれまで敬意を払つて来たものなのに、最近俄に男遊びが盛んさうな圭子に、さおりは不満を覚える。さおりの不審も余所に、圭子と、城西もとい南西大学病院時代の恩師・瀬川(杉本)との逢瀬。ここで主演女優の新田利恵、ルックスには全く華を欠きつつ、均整の取れた首から下、殊に形・大きさ共申し分なく、加へて震へるほどに柔らかさうなオッパイの戦闘力はヤバい。俺は一体、何を直截極まりなく筆を滑らせてのけるのか。裸映画的に磐石の第一撃を経て、消灯時間が目前にも関らず、臆面もなく拡げたエロ本に鼻の下を伸ばしてゐるところを如何にも潔癖さうなさおりに咎められる、足を骨折した入院患者・斎藤(山内)登場。まるでなびく気配もないさおりを、斎藤が懲りずに口説く遣り取りは、安定感に富み軽快に観させる。後日、その日はさおりを先に帰した圭子は、ギャンブル狂の元夫・辰波(岡田)を破廉恥にも診察室に連れ込んでの一戦。ここで明後日に特筆すべきは、その様子をさおりに目撃される段取り。医院の前を通りかゝり人の居る様子に気付いた私服のさおりが、小脇に抱へるのは洗面器。1999年に、さおりは銭湯通ひかよ!圭子も、風呂つきの部屋に暮らせるやうもう少し給料呉れてやれよ、といふか、このディテールの清々しいアナクロニズムは、素直に五代暁子の責に帰すべきものなのか、あるいは現場に於いての兎も角臨機応変な新田栄のアイデアなのか。もうひとつ瑣末、中原外科医院の待合室に平然と置かれてある灰皿は、そこはかとない時代の隔絶を感じさせる。
 中村杏里は、辰波に三百万の貸し金も持つ情婦・レナ、夜の女。出勤前の情事は純然たる三番手仕事ながら、再び地味に重要なのがレナ登場の前段。何処やらの場外馬券場で相変らず辰波が負ける繋ぎの一幕に際して、画面向かつて左隣に新田栄が、完全にその場の風景に溶け込んだ超絶のナチュラルさで見切れてゐる。ウォーリーならぬ、新田栄をさがせ!といつた感すら漂ふ、クイズのやうな名ショットといへよう。
 首から上は思ひきり普通の新田利恵と、明確に曲がつた中村杏里。とはいへ抜群のプロポーションを誇る二人の間で扇の要をスマートに務めるのは、ピンク映画最強の五番打者・林由美香。岡田謙一郎×山内健嗣×杉本まことと男優部にも全く穴はなく、この頃の新田栄作にしては奇跡的とすら思へるほぼ万全な布陣に支へられ、右から左にサクッと流れる良くも悪くも水のやうな物語を、元々束の間の上映時間ともいへ間をモタつかせることもなく、一息に観させる仕上がりはひとまづ素晴らしい。唯一勿体ないと感じられなくもなかつたのは、意外な世間の狭さで瀬川を元凶とする、男性恐怖症をさおりが最後まで克服出来ずに引き摺るゆゑ、サブ・プロットとはいへ魅力的に見えた斎藤発の恋愛物語が、綺麗に成就せず仕舞ひのまゝ、退院に伴なふ消滅の形で済まされてしまふ点。そのため、幾分尺も残し一体如何なる組み合はせで繰り広げられるものかと、一旦首を傾げさせられた締めの濡れ場は、藪から棒に咲き誇る百合の花が飾る。実は形式的な構成上のみでは完璧な起承転結の果てに、畳み処ではキッチリ底を抜き後にはケロッと何も残さない辺りは、娯楽映画のある意味完成形と称へ得るのではなからうか。

 当時JUNKから「三十路女医」なる、ザックリしたタイトルでビデオ・リリースされた際に抱き合はされたもう一本、勝利一の「濡れ上手 白衣の未亡人」(同/主演:永森シーナ=中村杏里)も、矢張り2007年に「未亡人女医 プライベート《秘》看護」との新題で新版公開されてゐる。ここは俄然、どうにか拾ひたいところではある。


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