真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「ロリ作家 おねだり萌え妄想」(2007/製作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/撮影:飯岡聖英/照明:佐々木英二/編集:酒井正次/助監督:永井卓爾/監督助手:関谷和樹/撮影助手:鶴崎直樹/下着協賛:ウィズコレクション/出演:藍山みなみ・神田ねおん・西岡秀記・横須賀正一・吉岡睦雄・華沢レモン)。照明助手その他ロストする。
 画期的にパッとしない風景ショットを舐めて、何処にあるのか、御馴染み山の手のハウススタジオ。出世作『世界の中心まで君に会ひに行きます』で知られる、人気純愛小説家・長瀬カノン(藍山)の自宅、兼仕事場である。商売敵とはいへ、同じ家屋に出入りするよしみといふことで、『世界の中心まで~』を出版した集談社のカノン担当編集者・竹内剛(吉岡)と、社長の娘、兼常務の妻(重役二人は何れも姿は見せず)との不倫が発覚し、社内的に花形の女性誌編集からカノンの担当に有体にいふと左遷されたオーピー出版の一条真一(西岡)とが、エールならぬ名刺を交換する。と、そこに当のカノン先生起床。ジャージの上からどてらを羽織つた色気の欠片もない格好に、おまけにドリフの爆破コントオチ並みのボサボサ頭。挙句に後に本人いはく、入るのは週に一度といふ風呂嫌ひ―更に髪を洗ふのは月に一度―で、現れただけで部屋には異臭が漂ふ。半ば愕然とする一条の目を憚りもせず、半分露にした尻をポリポリ掻いたカノンが、振り返り「よろしく」と挨拶を発したタイミングでタイトル・イン。
 カノンを一条に引き合はせるや、ひとまづ役目は済んだといはんばかりに竹内はそそくさと退場。予想される当然のやうに家事もままならぬ故、一条が作つたシチリアゴッドファーザー風エスプレッソ・パスタ―どんな味がするんだ、それ―にカノンが無作法に舌鼓を打つ中、頭につけてゐるのは兎耳なのに鳴き声は「ワン」の、カノンの同居するペットでオカマのカオル(横須賀)も登場。辟易の火に油を注がれる一条がカノンの近作、ライ麦畑もとい『お花畑でつかまへて』に目を通してみたところ、主人公は道ならぬ恋に心中を決意した女高生と教師(以下作中登場人物は延々藍山みなみと西岡秀記)。ところが服毒するつもりが女高生がバイアグラにすり替へてゐた為、俄に発奮した二人は致してしまふ、などといふ官能小説であつた。続いて手に取つた『冬のアナタ』も、交通事故に遭つた男が、女に吹かれた尺八の感触に記憶を取り戻す他愛もない艶笑譚。カノンは、純愛小説を書けぬスランプに陥つてゐたのだ。頭を抱へつつカノン宅を後にする一条の前に、問題の常務嫁・里中志穂(華沢)が颯爽と現れる。志穂によるとオーピー出版は同族経営であるといふのに、大蔵姓ではないのか。さて措きわざわざ一戦交へた上で、未だコネも利した復権を目論む一条に、志穂は華沢レモン一流のドライな距離感で三行半を叩きつける。肩を落し歩く一条の煤けた背中を、不審極まりなくも三洋電機冷蔵庫の段ボール箱が追ふ。スタンド・アップした箱の名から出て来た、渡邊元嗣前作「令嬢とメイド 監禁吸ひ尽くす」(主演:夏井亜美)に引き続き出演の神田ねおんは、一条をストーキングする素性不肖のギャル・水前寺冴子。そもそも一条と志穂の関係を社内に暴露した怪文書も、冴子の仕業であつた。兎も角、望みを繋いでゐた志穂のルートも絶たれた一条は、純愛小説で復帰させることにより自力で自身の再起も図るべく、仕方なくカノンの生活一切の改善から着手する。
 依然継続する、前回の二番手から昇格した主演女優のオーバー・ウェイトはロリータ体型といふ器の中に無理矢理押し込めつつ、ボサッとし倒した非大絶賛不調の女流作家が、完璧を自認する色男編集者の手により、徐々に女としても磨かれて行く。といふ、大雑把に括るならば「マイ・フェア・レディ」の線のラブ・コメディ。カノンがエロ小説しか書けなくなつた要因を、拗らせた処女性に求める流れには見事な機軸と大いに感心しかけたが、結局は他愛もない劇中小説試作に収斂してしまつた辺りには、一旦落胆させられた。ところがそこから、吉岡睦雄の再登場で起承転結を転がすアクセントをつけると、カノンの熱狂的なファンを装ひ長瀬家に潜入を果たした冴子の濡れ場で、行き詰まつた一条の立ち位置に風を通す。一見漫然と思へなくもない、序盤に於いて入念に主人公二人の人物設計を地均しした上で、中盤キレを見せる展開の急旋回により物語を順調に加速。終盤に及んで初めて、人の言葉を発した―チャンポンの方言はツッコミ処だが―横須賀正一にヒロインの背中を押させると、強度も十全な恋愛映画としてど真ん中のクライマックスに叩き込む。純愛官能小説『冷静と情熱の間で花と蛇が叫ぶ』にて、カノンが再ブレイクするラストの爽やかな軟着陸まで含め、何気ないやうに見せて、完成された構成が肩肘張らずに実に心地よい娯楽ピンクの良作である。ここに至つてこの期に気付いたが、アイドルあるいはファンタジー映画の雄といふ、これまで一般的であつた渡邊元嗣に関する評価ないしは理解に止まらず、実は意外と堅固でもある全体的な映画作りと、同時に緩い全般的な肌触りとからは、師弟関係は少なくとも表面的には特段どころにでもなく認められないながら、この人には深町章の後継的ポジションも認め得るのではならかうか。

 面目ない付記< 末文に関して、例によつてこの大間抜けが仕出かしやがつたので、コメント欄も併せてお読み頂きたい。


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