真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢電車 いたづら現行犯」(1994/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:双美零/企画:中田新太郎/撮影:下元哲/照明:伊和手健/編集:酒井正次/助監督:田尻裕司/監督助手:榎本敏郎/撮影助手:弁田アース・奥野秀雄/照明助手:小田求/スチール:津田一郎/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/出演:青木こずえ・杉原みさお・樹かず・平岡きみたけ・林由美香・神戸顕一・林田ちなみ・山本清彦)。何故かポスターには出演者として、劇中影も形も全く欠片も出て来ない真央元の名前がある。撮影助手の弁田アースは、便田の誤字ではない。今クレジットに於いては、確かに弁田で打たれてゐた。
 アイ(青木)は友人・ミキ(杉原)宅にて、女だけのパジャマ・パーティーと洒落込む。楽しいのは楽しいのだが、矢張り一抹の侘しさは拭ひ難い。さうした気分に追ひ討ちをかける、ミキに彼氏が出来たといふ事実に、アイが臍を曲げたところでタイトル・イン。人間が持つ体熱の総量は、電力に換算すると百ワット相当とのこと。寒くなる季節を前に、その百ワットが恋しくなりつつ通勤電車に揺られるアイを、痴漢が襲ふ。声も上げられないアイに対し、見るからな色男の雅彦(樹)が、助け舟を出し痴漢氏・徹(平岡)を取り押さへる。戯画的に男らしい雅彦にアイはコロッとなびき、三度目のデートで、自ら一線を跨ぐ。そんな、こんなで。再びミキ宅にて、ミキの彼氏も呼んでの今度はWパジャマ・パーティーだ。とかいふ次第で、アイが雅彦を伴ひミキの部屋を訪れると、そこには何故かミキの彼氏として徹の姿が。しかも、アイは徹を、一方ミキは雅彦に対してそれぞれ「痴漢!」。画期的な偶然が働くエクストリーム奇縁はさて措き、要は雅彦と徹は、コンビを組んだいはば偽装痴漢男であつたのだ。アクティブにとつちめるカットを経て、女達は男供を追ひ出す。はふはふの体の雅彦と徹、加へてマッチポンプ以前に、徹は雅彦に連れられた遊び先での浮気が露見し、彼女からはフラれてもゐたのに自業自得も省みず不平を零す。男に幻滅したアイとミキは、何時しか女同士で体を合はせる。こゝで、偶さかオーバー・ウェイト気味でもある、杉原みさおを観てゐて得た気づきがある。前々から誰かに似てゐるやうな気がしてはゐたのだが、この度目出度くもなくも判明した。この人、概ね日比野達郎と同じ顔をしてゐる。隣室の押入れから、三文作家の田辺浩一(神戸)が薄い壁越しにコップを当て、洩れ聞こえる二人の嬌声に小躍りする。かうして、オムニバス仕立ての一作はアイ篇から、田辺篇へとスムーズに移行する。
 折悪しくかゝつて来た電話に邪魔され一旦は憤慨する田辺ではあつたが、電話は雑誌編集部からの、久方振りともなる仕事の依頼であつた。翌日、嬉々として田辺は電車で打ち合はせ先へと向かふ。流石に十五年前ともなると神戸顕一も清々しく若く、縁なしメガネをかけ前髪を下ろすと、今度は太らせたうじきつよしにでも見える。車中で田辺は、サユリ(林)と再会する。遠い親戚の娘であるサユリの高校生時代、田辺は家庭教師を務めると同時に、手をつけてもゐた。後に資産家の老人と結婚した元教へ子の、御無沙汰を見抜いた田辺が体に指を這はせると、サユリは乗つて来る。田辺は仕事と誘ひをかけるサユリとを天秤にかけ、仕事を捨てる。それでこそ男だといふべきか、功名心に欠ける俗物だと難ずるべきか。一戦交へた上、自由になる金も持つサユリから愛人契約を持ちかけられた田辺は、第二ラウンドを見据ゑウハウハでシャワーを浴びる。旨く事が運びすぎで段々と観客も神戸顕一に腹を立てかけたところで、再会するまでの決して短くはない歳月の間に、女王様デビューも果たしてゐたサユリに、田辺が痛快に酷い目に遭ふのが二つ目のオチ。こゝの繋ぎは流石に少々乱暴だが、ラブホテルの一室から表の通りにまで届く田辺の悲鳴にエミ(林田)が眉をひそめ、田辺篇から、エミ篇へと力任せにひつこ抜く。
 身動きもまゝならぬ満員電車の車中、エミは別れた男の合鍵も未だついてゐる自宅の鍵を落としてしまつたものの、拾ふことも出来ずに困つてゐた。そんなエミの背後に、窮地を看て取つた風にも別に見えない、変態的な薄ら笑ひが堪らない山本清彦登場。やまきよは何故かそんなものを持ち歩いてゐるセロテープを取り出すと、立つたまゝ巧みにエミの鍵をサルベージ、礼と称して電車痴漢を展開するも、エミが悦び始めたところで生殺す。連れ込みに舞台を移し改めて仕切り直したところ、いよいよエミが生イチモツを求めるのに対し、今度はやまきよは忘れかけた営業鞄の中から張形の数々を取り出す。ここでの、一時我に帰り衣服を直すエミの芝居が、極私的には心の琴線に触れる。やまきよは、欲求不満の女をロック・オンしては痴漢電車発なにやかにやの末に、張形を売りつける大人のオモチャ屋「懇切堂」のセールスマンであつた。冗談ではないと、エミはやまきよを一蹴。その後酒でも浴びたのか、服も着たまゝ寝てゐたエミが目覚めると、傍らには再び何故か徹が眠つてゐる。激昂したエミは徹をベッドから叩き落すが、お門違ひも甚だしく、そこは本来徹の部屋だつた。捨てずにゐた合鍵で、エミは間違へて元カレの部屋へと帰つてしまつてゐたのだ。臆面もなく全篇を概ねトレースして来たが、かうしてアイ篇→田辺篇→エミ篇と連ねられた一幕一幕は、再びアイ篇へとループし、劇中世界は綺麗な連関を完成させる。エミが徹とヨリを戻すことを決めたところで抜かれる、温かく灯る百ワットのスタンドが麗しく映画を締め括る。あるいは人間一人分百ワットに触発されたラスト・ショットから逆算しての、一作であつたやも知れぬ。慎ましくも強力な脚本と、それを勿体ぶりもせず何気なく纏め上げる熟練の妙技。別に観てゐなくとも困りは全然一切全くしないとはいへ、小品ながらスマートな娯楽映画の逸品である。

今作、1998年には「痴漢電車 おさはり現行犯」と改題新版公開されてゐるが、今回ポスターだけは新しくしこそすれ、旧題のまゝ来てゐる。


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