真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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自己紹介
福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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女復縁屋 美脚濡ればさみ
加藤義一
/
2009年04月27日
「
女復縁屋 美脚濡ればさみ
」(2008/製作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:岡輝男/撮影監督:創優和/助監督:山口大輔/編集:フィルムクラフト/録音:シネキャビン/演出助手:竹洞哲也/撮影助手:宮永昭典/照明助手:小松麻美/スチール:佐藤初太郎/ヘアメイク:吉田かおる・富田貴代/音響効果:山田案山子/音楽:レインボーサウンド/現像:東映ラボテック/出演:村上里沙・平沢里菜子・ほたる・石川雄也・岡田智宏・野村貴浩・丘尚輝・なかみつせいじ)。出演者中、丘尚輝は本篇クレジットのみ。
中年サラリーマン・高瀬恵司(なかみつ)の寡所帯に招かれた早乙女エリカ(村上)は、それとなく室内の様子を携帯のカメラで撮影し送信する。待機するワン・ボックスの中では、エリカの幼馴染で探偵の一色孝太郎(石川)が、マックのノートで送られて来た画像を受信。目下の高瀬の生活に、女の気配はないやうだ。主演女優の村上里沙、男顔に高身長が、個人的にはストライク・コースのど真ん中中のど真ん中で堪らない >
知らねえよ、タコ
ブラウスを悩ましく盛り上げるオッパイの膨らみも心の琴線を劇弾きするが、今時のAV嬢といふのは、そこら辺は裸にしてみないと中々信用出来ない。といふ訳で、速やかに村上里沙の濡れ場をヨロシクでお願ひしたいところではあるのだが、何のかんのと焦らされる。それもその筈、エリカと、コンビを組む孝太郎はヨリを戻したい高瀬の前妻・久保田早苗(ほたる=葉月螢)から依頼された、世にいふ“別れさせ屋”の発展形“復縁屋”であつたのだ。早苗から、熊本出身である高瀬の―実際になかみつせいじは熊本出身―好きな料理は団子汁と高菜ライスであるといふ情報を仕入れたエリカは、わざと鬼不味い好物を高瀬に振る舞ひ閉口させる。家事下手も装ひ、元妻から初めて贈られた思ひ出の品である硝子細工を割つてしまふと、高瀬の早苗に対する追慕を醸成する。仕上げは孝太郎仕込のチンピラ(丘)に早苗が絡まれてゐたところへ、高瀬が相討ちでノサれつつも助けに入り、元夫婦は目出度く元鞘に納まる。それはそれでいいのだが、ここは少々編集に疑問が残る。立ち去り際の丘尚輝のポップな無様さがユーモラスな、高瀬が早苗に助け舟を出す件を挿み込むのは、おとなしく再びの夫婦生活の前で構はなかつたのではあるまいか。いきなり絆創膏を貼りながらの早苗と高瀬の絡みが先に始まつてしまふので、又ぞろ関門海峡を渡るまでに、ナチュラルな NSPプリントに仕出かされたかと困惑した。丘尚輝が孝太郎の仕込である説明は、機材車もとい探偵カーの車中でギャラを受け取るシークエンスで事済むであらう。
とここまで前半部分は、基本設定のイントロダクション主体のいはばパイロット篇。映画に普通に捕らへられすつかり忘れかけてゐたが、驚くべきことに、主演女優が未だ不脱の大温存。妙技に裏打ちされた加藤義一のさりげない豪腕、畏るべし。
高瀬篇明け、とりあへず
田中康文のデビュー作
でも見覚えのある一軒家に構へた一色探偵事務所を、清水美弥子(平沢)が訪れる。離婚後にIT会社を立ち上げた元夫・青木友也(岡田)との復縁を依頼に来たのだ。美弥子にコロッと鼻の下を伸ばした孝太郎は、依頼人の素性を調査しもせずに引き受ける。新たなるターゲットの資料に目を通したエリカは、衝撃を受ける。学生時代、学内の二枚目コンテストで優勝してもゐた青木は、実は同じ大学に通ふエリカの憧れの的であつた。然し当時地味だつたエリカに憧れる以上にどうすることも出来ず、その頃から学内クイーンとして名を馳せた美弥子と、終つたとはいへ矢張り青木は結婚してゐたのだ。複雑な心境を孝太郎には秘めつつ、エリカは青木の会社に派遣社員として潜り込む。社内には山口大輔と、もう一人社員要員が見切れる。竹洞哲也であつたものかどうかは、確認し損ねた。
ミイラ取りがミイラになつたとでもいふ寸法か、ダウンした青木にウィンドウズのノートを届けるのを頼まれた、エリカは一体どういふつもりか青木と寝てしまふ。そんな次第で遅々として復縁は進まぬまゝに、美弥子が一色探偵事務所に怒鳴り込みに来る。ひとまづその場はとりなした孝太郎は、美弥子を尾行してみる。そこで登場する野村貴浩は、美弥子の情夫・夏目光。美弥子と夏目の情交、窓越しに孝太郎が覗いてゐる旨を示すための外縁ボカシが、室内視点のショットに切り替つた後(のち)もかゝつたまゝであるのは頂けない。美弥子は別れた後に成功した元夫の財産を狙ふ、いふならば毒婦であつた。尤も、金に窮して復縁を思ひたつといふ点に関しては、実は早苗も同罪ではある。
孝太郎はエリカに想ひを寄せてゐたが、日々のアプローチは、かはされ続けてもゐた。今回ターゲットの青木は、学生時代エリカの憧憬の対象であり、孝太郎が安請け合ひした仕事は、実現させるに吝かな復縁であつた。交錯する思惑、ここからこれまでカッコ悪かつた孝太郎に、俄然カッコよく舵を取らせての展開が素晴らしい。詳細は後述しての青木に接近するロング・ショットは、後述すら必要としないほどの豊かな行間に溢れ、そしてエリカに炸裂させる名台詞「俺を誰だと思つてるんだ、復縁屋だぜ」。より王道の爽やかハンサムで背も高い岡田智宏を配しそれまで三枚目に甘んじさせてもゐた、石川雄也の色男がここで満を持して火を噴く。更にそこから矢継ぎ早の、意表を突かれた正しくどんでん返しがあまりにも鮮やか。最終的にとなると、ロケットの中身も兎も角、美弥子の復縁依頼が未だ活きてゐた前提での、エリカと青木の体液交換はどうなるのよ、といふ話ではあるのだが。それは作劇上許される範囲内での、方便とでもいふことにしてしまへ。全篇を通して観客にタップリと感情移入させた主人公を、最後に最上の形で幸せにする。この、この上ない安定感、格別の銀幕を挟んだ彼岸と此岸とで共有される幸福感。オーラスのひとオチも軽やかに決まり、2007年以来然程好調であるとも世評には違(たが)へ私見では見てゐなかつた加藤義一の、本領発揮ともいふべき麗しい王道娯楽映画である。微妙に不審といふか不安であつた村上里沙も、綺麗に天然。となると、最早何もいふことはない。諸手を挙げて喝采するばかりである、万歳。
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