真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「若妻売春の罠」(1989/製作:21映像企画?/配給:大蔵映画/監督:矢竹正知/脚本:浮舟節子/企画:佐藤道子/撮影:伊東英男/音楽:中村半次郎/照明:森隆一郎/美術:最上義昌/編集:酒井編集室/助監督:夏季忍/撮影助手:佐久間栄一/照明助手:佐野雅俊/メイク:山野恵/現像:東映化学/録音:銀座サウンド/小道具:高津映画装飾/協力:村山スタジオ/出演:一の瀬真美・ジミー土田・倉沢マリナ・山岸めぐみ・結城杏奈・山崎さちこ・朝田淳史・島袋浩・山科薫・長沢聖也・久須美欽一・峯丘直樹・城海峰・西田光月)。助監督の夏季忍は、久須美欽一の変名。
 相変らずパトカーの助手席に乗車する西田光月刑事に、本部から赤色灯のみならず、ヘッドライトも落として現場に近付く指示が出る、危ないだろ。兎も角到着、螺旋階段を駆け上がる西田刑事と、一方上からは一の瀬真美が何故か半裸で駆け下りて来る。出くはした一の瀬真美が、手錠をかけられタイトル・イン。斯くもシークエンスが全然見えない、開巻といふのもグルッと一周してこの際見事である。どの際かと問はれるならば、今際の間際的な。
 女優部二人が同じやうな髪型と服装なのが大問題なのと、出鱈目なイメージ・ショットを無理矢理例によつて陰気な女のモノローグで片付ける序盤を整理すると、周囲の反対を押し切り職場の上司と結婚した―反対された理由は謎―恵子(一の瀬)は、御近所・富江(山岸)の勧めでOL時代の貯金を元手に、株式投資に手を出す。ビギナーズ・ラックか、購入した情報産業の株価が上がり恵子はこの世の春を謳歌する。尤も、部下のユミコ(ビリング推定で倉沢マリナ)と浮気する、夫の朝田淳史課長とはレスに悶々とする日々を送る。またこのユミコが美の少ない女といふ意味での美少女で、一の瀬真美を放たらかしにする朝田淳史が一欠片たりとて理解出来ない。ところが株が大暴落、多額の借金を抱へた恵子は、恐らく学生時代の先輩・藤崎(山科)と再会。藤崎は藤崎で画期的に頼りにならない先輩で、抱くだけは抱いておいて、結局恵子は藤崎が経営する池袋西口のラブホテルにて主婦売春を始める羽目に、何だこのクソみたいな展開。そんな最中、恵子は電話ボックスの中に落とした黒革の手帳を、ジミー土田に拾はれる。
 何処から手を着けたものか、正直攻めあぐねるほどへべれけな矢竹正知1989年第一作。どうにもかうにも整理がつかないのが、出演者のクレジットと、実際劇中の登場人物との頭数が合はない。仕方がないのでひとまづ大体配役残り島袋浩は、恵子宅に出入りする三河屋。ピンクにも出演暦があるんだといふのは、ひとつの発見ではある。多分城海峰が、会ふなり恵子こと一の瀬真美を捕まへて、“フランソワーズ・アルヌールに憂ひのあるところが似てゐるなあ”だなどと名台詞を叩き込む買春社長。乳尻は見せないもののそこそこ絡むとなると、ここもビリング推定で結城杏奈が、ジミー土田と男女の仲にある飲み屋の女。但し、関根和美2001年第一作「現役女性記者 淫らな体験レポート」(脚本:小松公典/主演:里見瑤子)の三番手とは別人ゆゑ、もしかしたら山崎さちこかも知れないし、当然、時期が一回り離れてゐる以上、同姓同名の線も残る。久須美欽一は、売春人妻と客として驚きの再会―それは確かに驚く―を果たす、博打で借金をこさへた挙句、家を出たユミコ夫。当然、ケロッと元鞘に納まる夫婦生活に突入する。問題が、女優部五番手と、長沢聖也・峯丘直樹の役が見当たらない。再び但し、西田光月の連れの刑事が計二人―満足に首から上は抜かれない形で―見切れはするのと、ジミー土田は、どうも長沢聖也のアテレコ―アテレコであること自体は間違ひない―に聞こえなくもない。女優部五番手に関しては、本当に手も足も出せず白旗を揚げる。忘れてた、背中しか見せない証券会社社員がもう一人登場する。
 外堀で既に途方に暮れた果ての本丸は、畢竟更に深い霧の中、霞むどころでは済まずに沈む。漫然とした濡れ場を無造作に羅列した末に、実は本筋らしき恵子が手帳をジミー土田に拾はれるのは漸く終盤。重ねて数百万もの対価を強請られた、手帳に一体何が書かれてあるのかは終に語られない、ひよつとしてマクガフィン?残り尺も僅かな土壇場に至つて朝田淳史V.S.ユミコ第二戦が捻じ込まれるので呆れ果ててゐると、恵子が売春とジミー土田殺害の現行犯でお縄を頂戴するのは亭主が仕掛けた罠だとかいふ、本当に予測不能のサプライズ。お化け屋敷ぢやないんだからさ、吃驚させれば勝ちつて話ぢやないんだよ。加へて、あるいは勿論、アバンタイトルと、本篇とで異なる展開は最早お家芸、そんなに観客を煙に巻くのが楽しいか。グダグダ過ぎてエクストリームな始終に、何処から湧いて出たのか恵子を連行するパトカーに追ひ縋る三河屋が止めを刺す。直截にいふと、こんな酷い映画見たことない、滅多に。ピンク映画の最終兵器・関良平を被弾した上では少々の惨状は怖くないつもりではあつたが、なかなかどうして、量産型娯楽映画の奥は深い、あるいは闇か。


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