真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「未亡人銭湯3 覗いちやつた」(2001/製作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/撮影:飯岡聖英/照明:岡宮裕/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/監督助手:田中康文/撮影助手:川島周/スチール:佐藤初太郎/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:高橋千菜・西藤尚・ささきまこと・十日市秀悦・山信・工藤翔子)。女湯要員の水原かなえ・間宮ユイ・里見瑤子は狭義の文字クレジットこそないものの、トメの工藤翔子とオーラスの渡邊元嗣との間に、三人揃つてのショットが挿み込まれる。
 七色の余光煌く中、在りし日の夫婦生活。入念に五分消化、霧島か桐島梨子(高橋)の夫(山信の二役)は、達するやポップに腹上死する。チーンと遺影を抜き、梨子の合掌がフェードしてタイトル・イン。ちんここれ股、もといこんちこれまた―デスればいいのにな、俺―下町の銭湯「桜湯」。番台に座る司法試験十浪生・瀬戸健太郎(ささき)に常連客の詩織(西藤)が、店長が夜逃げ―銭湯の経営者を店長ていふのかな?―した件に喰ひつく隙を突いて、婆に扮装した出歯亀の宗田(十日市)が金も払はずに番台を突破。脱衣場にて女湯要員の水原かなえ・間宮ユイ・里見瑤子にちよつかいを出した末に、詩織に発覚、こちらは露出狂泡姫の美帆(工藤)も浴場から参戦し大騒ぎとなる。終にキレた健太郎が辞める辞めないでほのぼのと揉める絶妙なタイミングで、亡夫の実家から桜湯を相続した梨子登場。舞台に集ふバラエティに富んだ面々がイントロダクション代りの愉快な騒動を繰り広げる最中に、掃き溜めに鶴感を身に纏ふヒロインが現れる、この辺り序盤の構成は完璧。話は違ひ、桜湯は物件を売つ払つたとてなほ残る大赤字。一体、何をどう拗らせればそこまで膨らむのか。おまけに来月隣町には健康ランド「神泉の湯」がオープンと、新女将就任早々八方塞がる桜湯に風呂を浴びに来た、亡夫ソックリの全国を渡り歩くアダルトグッズの訪問販売員・折口(山)と出会つた梨子は一目で心を奪はれる。サクサク日曜日のデートの段取りが整ふと、女将さんが色男に口説かれたと詩織は色めきたち、健太郎は気を揉む。うん、中盤の展開も何ら問題ない。
 未亡人銭湯現状全五作をコンプする上で、どうせ各個全然違ふお話なのだから馬鹿正直に順番に見る必要もあるまい。とかいふ次第で2を飛ばして渡邊元嗣2001年第一作、ルーズでフリーダムなDMM戦の愉悦。全く以てm@stervision大哥仰せの通り、エキゾチックなパキパキッとした美貌と、幾分腹周りが緩くはあれ抱き心地のよささうな肢体まではいいとして、噛み合せが悪いやうにも見えないのに主演女優のへべれけな口跡は大いなる御愛嬌。デフォルトの如く傾いた銭湯が、プロフェッショナルたる美帆指南の下、公衆浴場が大絶賛特殊浴場に突入する湯女サービスで盛り返す。新田栄ばりに底の抜けた展開も兎も角、実際にベートーヴェンの交響曲第五番を劇伴に使用する、運命のジャスト・フィットを果たした巨根の折口と巨穴の詩織。そしてここの論理がエクストリームに麗しい、露出狂の美帆と出歯亀の宗田。そしてヒロインと、出し抜けに純情青年ぶる健太郎。と三本柱の恋路が銘々目出度く成就するハッピーでピンクなエンドは磐石、と一旦思はせかけて。あまりの衝撃に堂々と書いてしまふが、結局梨子は桜湯の赤字を健太郎に押しつけ、収支が正常化するまで己は気楽か気儘に旅に出る。だなどと大団円に砂をかけた後足をそのまゝ回して踵を叩き込む、大御大・小林悟をも易々と凌駕する破壊力が爆裂するラストには度肝を抜かれた。確かに、梨子が銭勘定に細かい描写は、何気に積み重ねられてゐるとはいへ。これから見る2で大御大が小林悟の名に懸けて度派手にブッ放して下さらなければ、地味に良作の並ぶシリーズにあつて、恐らく最強の飛び道具といへるのではなからうか。

 もう一点驚かされたのが、湯女サービスに驚喜し桜湯に殺到する助平客要員中、「素敵なサービス有難ね」といふ台詞つきで番台を駆け抜けるニコニコ顔のナベ。少なくともナベシネマでは、初めて見た。


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