真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「未亡人銭湯2 入口濡らして」(1999/製作・配給:大蔵映画/監督:小林悟/脚本:三河琇介/撮影:柳田友貴/照明:ICE&T/編集:フィルムクラフト/助監督:堀禎一/スチール:大崎正浩/タイトル:ハセガワタイトル/録音:シネキャビン/現像:東映科学[株]/監督助手:竹洞哲也・城定秀夫/出演:一ノ瀬まゆ・風間今日子・港雄一・篠原さゆり・坂白直・馬場秋子・清水史鯉・井鳥かおり・前川勝典・平川ナオヒ・坂入正三・牧村耕二/客演:桜たまき)。
 右斜め上の結構遠い、あるいは高いロングで、橋を渡る寅さんルックの港雄一を捉へる。「あれが極楽湯か」、港雄一の背中越しに煙突を抜いてタイトル・イン。凡そあの“大先生”柳田友貴の仕事とは思へない、手間をかけたのと凝つた構図に軽く驚く。入り婿と三年前に死別した未亡人女将・亜矢(一ノ瀬)が一人で切り盛りする銭湯「極楽湯」に、亜矢の叔母か伯母で蒲田の「千代の湯」の女将に紹介された、派遣番頭―何だそれ―の湯川英機(港)が現れる。極楽湯の常連は、インポの癖に亜矢に言ひ寄る「RiZ」―当時小林悟夫人の店―のマスター・豊田(牧村)と、豊田に不能治療薬を都合するに止(とど)まらず、助平男のコンビを組む格好の薬屋のセンセイ(坂入)。格好から推察するにホステスぽいセンセイと懇意の女(桜)に、坂白直から井鳥かおりまでの女湯要員。桜たまきは風呂に入るほか、センセイとの絡みも後々披露。更に、愛和短大二回生で銭湯研究会の静香(風間)と宮内こずえ(篠原)が極楽湯を訪ね、気に入り通ひ始める。こずえは極楽湯への道すがら出会つた、この人も極楽湯の常連で牛乳屋の野方(平川)に、一足飛びで初心な恋心を寄せる。ところで今回発見したトゥルース、平川直大はキャップを前後ろに被ると、窪塚洋介に似てる。
 最新作待ちで未亡人銭湯目下最終戦は、小林悟1999年第一作にして、ナンバリング第二作。大先生に続き、大御大もらしからぬスタート・ダッシュ。湯川がセンセイと桜たまきに差し出した名刺の長大な肩書が、全日本浴場組合連合会公認互助会湯の華会員。銭湯は庶民文化の広場と語る亜矢は銭湯讃美を、ああ見えて小林悟は―どう見えてだ―核保有国ゆゑ反中込みの平和主義者らしく、ポリティカルな小ネタをサカショーの口を借り、ともに散発的に放り込む闇雲な情報量。尤も出し抜けなスケ番ないしは女囚映画のノリで、浴場で桜たまきに因縁をつけられたこずえがリンチ紛ひの暴行を受ける辺りから、御大映画は順調にグダり始める。今回珍しく極楽湯の経営は問題を抱へてをらず、再婚を、希望する気配さへ窺はせない亜矢の結婚問題。イタリア製新薬「ハリーアップ1000」―何で英語なのか―を入手しての、センセイも併走する豊田の回春狂想曲。野方も多分に洩れず亜矢のファンであることに、大雑把な邪推を拗らせるこずえの恋路。三題噺が、単に適当に混線する様はグルッと一周して最早清々しい。個人的には、全盛期を思はせる硬質の透明感美人・篠原さゆりと、手放しで爽やかハンサムの平川ナオヒの2ショットが普通に映画を支へ抜く魅力なり威力を有してゐただけに、こずえと野方のラブ・ロマンスの扱ひが最も軽かつたのが、篠原さゆりの本格的な濡れ場が十全に見られなかつた点が重ね重ね残念。ハイライトは実は伯母か叔母の密命を受け、亜矢を見合話に応じさせる為に極楽湯に潜入した湯川が仕掛ける“最後の手”。センセイと豊田の亜矢への夜這ひを金も取つた上で手引きし、最終的には己もちやつかり女将を頂戴するだなどと貫禄の極悪番頭ぶり。尤も何をされても何故だか絶対に目を覚まさない女に、男供が好き勝手し倒すといふ底の抜けたシチュエーションが絶妙にエロく、底の浅い低劣な琴線に触れる。結局何だかんだでこずえは野方と結ばれ、豊田は男性自身を取り戻し、亜矢は「千代の湯」女将が紹介する縁談を受ける。何はともあれ万事が目出度く片付いたとなると、大御大二本・渡邊元嗣国沢☆実池島ゆたかと五本連なるシリーズ中、最も危険な球を放つて来たのはまさかよもやのナベだつたといふ予想外の歴史が確定してしまつた。

 開巻では目をうたg・・・いや見開かされた大先生が、真価を発揮なさるのは女湯脱衣場にて、亜矢が静香とこずえのいはば取材を受ける件。後方には仏頂面で団扇を扇ぐ女湯要員の何れかが見切れる画が、不意に、あるいは全く無駄に右から左にスライドする。当サイト命名の柳田パンといふよりも、最早柳田スライダーとでもいふべき切れ味に草を生やしながら拍手喝采した。
 一応本筋?に掠らなくもないものの、殆ど木に竹を接ぎぶりに忘れてた。配役残り前川勝典は、遺影さへ登場しない旦那に先立たれ浴場でしかも喪服で悲嘆に暮れる亜矢を、強姦する鬼畜な従兄弟。確かに、あるいは幾ら“未亡人銭湯”とはいへ、出発点から凄いシークエンスだ。


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