真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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自己紹介
福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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人妻淫行 むさぼる
あ行
/
2009年03月31日
「
淫行妻の本性 絶頂体験
」(1996『人妻淫行 むさぼる』の2008年旧作改題版/製作:シネマアーク/提供:Xces Film/監督:大野正典/撮影:下元哲/助監督:瀧島弘義/脚本:岡輝男/編集:田中修/監督助手:高田宝重・徳永恵美子/撮影助手:
便田あーす
・田中益浩/スチール:トニー藤沢/ポスター:佐藤初太郎/音楽:ピッコロ音楽研究所/効果:東京スクリーンサービス/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:山崎まりあ・河名麻衣・杉原みさお・倉岡恭平・荒木太郎・頂哲夫・水永久美子・ヴェルデ上北沢・丘尚輝・椙浦塁・ステップアップ浅倉・野上正義)。出演者中水永久美子からステップアップ浅倉までは、本篇クレジットのみ。大野正典が野上正義の変名であるとする説もあるが、真偽のほどは不明。
何はともあれ開巻まづは銀幕に主演女優の裸を載せる、それはピンク映画として実に誠実な態度である。入浴をしつかりと見せた若妻・伊藤彩子(山崎)が風呂から上がると、ラップをかけ食べて呉れる人を待つ料理が並ぶ食卓には、通勤鞄が置かれてあつた。彩子は気づかぬ間に、夫・修司(荒木)が帰宅してゐたのだ。疲れ果てた風情の修司はとりあへず背広を脱ぐと、彩子の相手もそこそこに、風呂に入らず飯も食はずに寝てしまふ。「けふもお疲れなんだつてさ」、「安全日だつたのにね」と独り言を呟きつつパジャマをはだけ体に自らの手を這はせる彩子は、観客に判り易い欲求不満を手短に伝へる。
野上正義は、魔が差してコンドームを万引きした彩子を手篭めにする、コンビニ店長・高橋弘志。万引きする人妻の渇望を看破するところまではいいとして、彩子の女陰が臭い臭いと余計な劣等感を植ゑつけるのは、別に不要ではないか。
高橋との一件、加へてその夜無理強ひ気味に修司に抱かれたことも胸に黄昏る彩子を、そこそこの地震が襲ふ。揺れが止むと彩子が凭れてゐた木の上方には、黄色の丈の短いワンピースに金髪のウィッグ、化粧も今時のギャル目に派手な謎の女・リカ(河名)が。因みに苗字は、残念ながら香山ではなく松尾。一昔強といふ歳月を差し引いたとて恐らくは明確に、失敗したヴィジュアルに火に油を注ぎ、甘つたるい口調の上に無闇に両手を体の前でクロスしては小首を派手に傾げさせてみせる―最早全然小さかねえし―リカの造形は、殆ど破綻すら来たしてゐる。幼馴染であるといひ事実過去の詳細にも明るかつたが、彩子にリカの心当たりはなかつた。リカの強引さに押し切られ、彩子が実は未だエクスタシーを知らない悩みを打ち明けると、それならばリカは一肌脱ぐといふ。
とかいふ次第で、リカの滅茶苦茶には先が進まないので一旦筆を措くと、そんなリカの彩子に対する絶頂指南が、ひとまづの本筋として起動する。倉岡恭平は、カット明けるとリカが連れて来る胡散臭い東洋医術師・奥寺誠。ここでの濡れ場で舌の根も乾かぬ内に、彩子の不感設定は御丁寧に揺らぐ。開巻には手堅さも感じさせたものの、以降が一貫して纏まらない。杉原みさおは、修司の元同僚でアフター5は風俗でバイトもする相原ミサキ。ミサキといふのは、源氏名であるやも知れない。元同僚といふのは、彩子にはいひ出せないまゝ、修司はリストラの憂き目に遭ひ職を失つてゐた。修司は、偶さかミサキによろめく。頂哲夫は、リカに淫具を装着された状態で外に連れ出され悶える彩子の姿に目を留め、そのまゝ巴戦に雪崩れ込む破目になる早大生・吉田浩之。
奥寺・吉田との絡みは展開の彩りの内に数へて通り過ぎると、修司は修司で親切極まりなくもミサキに背中を押して貰つた上で、やがて直面した夫婦は互ひの秘密を打ち明け、喪はれかけた絆を取り戻す。その場面が順当にクライマックスとして設定されたであらう節は素直に窺へるのだが、重ね重ね悲しいかな、ここも出来の方は芳しくはない。果たして馬鹿正直な不貞の告白は必要なのか、とかいふ些末なリアリズムの以前に、劇中最大の峠を越えるには積み重ねられた手数は些か足らず、一篇を締める夫婦生活自体の力も、特別に強くはない。そして修司と二人の彩子を再び襲ふ二度目の地震で、意外といへば確かに意外ではあるファンタジーの種は明かされる。とはいへ、それもそもそもリカがアレなので、満足に形にならう相談ではない。重ねてそもそもそもそも、岡輝男がかういふ手を繰り出して来た点に関してはそれはそれとして興味深いともいへ、それをいつてしまつては実も蓋もなくなるのかも知れないが、要は敢てこのお話で突つ込むならば、せめて渡邊元嗣に渡すべきネタなのではなからうか。等々と言ひ募ると、全方位的な残念作であるのはほぼ疑ひない筈の割に、あまりにも明かされるネタが微笑まし過ぎるからなのか、全般的な感触は、何故だか悪くはない。常ならざるリカの出没を地震が司るといふアイデア以外には、ほぼ何処にもいいところなんて見当たらないのに、不思議な一作ではある。本来不思議たるべきリカの描写は、不可解を斜め上に通り越して奇怪ですらあれ。
本篇クレジットのみ俳優部は高橋のコンビニの客、一度目の地震に見舞はれる二人らか。リカに誘はれた彩子が戯れる、ノーパンでの自転車騎乗に垂涎する釣人三人組のうち、一人は丘尚輝。改めて繰り返すが、岡輝男の別名義である。残り二人のいい感じの
デブもとい
巨漢は高田宝重、この人は実に画になる風貌をしてゐるのは結構だから、そろそろいい加減ピンク第二作を撮つては貰へまいか。
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