真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「派遣ナース おまかせ速射天国」(2004『ナース裏治療 舌で癒して』の2007年旧作改題版/製作:小川企画プロダクション/提供:オーピー映画/監督:小川欽也/脚本:水谷一二三/撮影:図書紀芳/照明:寺田緑郎/音楽:OK企画/助監督:加藤義一/監督助手:竹洞哲也/撮影助手:川島周/効果:東京スクリーンサービス/応援:佐藤竜憲/出演:立野まゆ・新堂真美・小川真実・なかみつせいじ・兵頭未来洋・平川直大)。脚本の水谷一二三と入院患者役で見切れるノン・クレジットの姿良三は、小川欽也の変名。照明助手に関しては力尽きる、もうボロボロだ。
 東西病院理事長の浜崎京子(小川)は、夫は既に亡く、自身の病院に勤務する精神科医の小山祐二(なかみつ)とは男女の関係にもあつた。京子の一人息子・剛志(兵頭)は極度の女性恐怖症をこじらせ引きこもり、小山が担当してゐた。京子は小山に、剛志のため誰か通ひの看護婦を見繕つて呉れることを求める。一方、仲良し看護婦二人組の宮田信子(新堂)と河合由紀(立野)はともに、若手医師の立花良夫(平川)を狙つてゐた。立花は年上の事務員・和子(全く登場せず)と結婚してしまふが二人は未だ諦めずといふか懲りず、信子と立花が夜勤の夜、立花が仮眠を取る宿直室に盗録テープを仕掛ける。図らずも、立花は和子と大胆なテレフォンSEXを仕出かす。天衣無縫、といふ言葉もが想起されることは兎も角、聞き耳を立てる内に思はず催し自慰に溺れた信子は小山に見付かり、何だかんだの勢ひで浜崎家に剛志の看護で通ふことになる。さういふ次第で暫く病院には出て来れない信子から盗録テープを譲り受けた由紀は、それをネタに果敢なアプローチを立花に展開する。詰まるところは一種の、といふか明白な脅迫でしかない訳だが。
 改めて数へてみたところ、感想を書くのも都合二十本目にして、漸く小川欽也の映画手法の要点に辿り着き得た、やうな気がする、気を迷はせただけなのかも知れないが。話を戻すと小川映画法を理解する際の肝とは、流れる水の如き、自由さでも味はへば?といふものである。それは要は物語が一定の形を保ち得ないといふことと、限りなく常にに近く概ね高きより低きに流れるといふだけである、などといふいはずもがなはこの際等閑視してしまへ。今作に於いても、ビリング自体は確かに立野まゆがトップの筈なのだが、立花との濡れ場一度きりの由紀に対し、対小山戦もこなすことに加へ、浜崎家に入つてからがたつぷりと尺も費やされる、信子役の新堂真美の方が断然実際の活躍度は高い。信子との心も体ものふれあひを通して次第に快活を取り戻して行く剛志に対し、他方では実は未だ子離れ出来ぬ京子が自分の手の中から息子が飛び出して行くことへの焦燥に駆られる、といふ対照的な展開は小川欽也にしては上出来過ぎて何だか気味が悪い、なんて感心してみたりなんかしたのは見事に束の間。明言こそ避け看護婦風情を息子の嫁には認められぬといふ傲慢な京子の意のままに、剛志が結婚まで切り出しておきながら信子はといふと二つ返事で別れを受け容れたりする辺りは、矢張り何時もの小川欽也だ。引き裂かれた二人、といふ悲恋物語にすら演出せず、徹頭徹尾剛志が放り出されたままで終りといふ呆気なさは、グルッと回つて最早感動的でさへある。観客のエモーションを一体何処へと誘導したいのか、などといふ以前に、そもそもさういふ要を認識すらしてゐまい。そんなこんなで信子は病院に戻り、由紀と再会する。首尾よく立花との一夜を過ごし御満悦の由紀に対し、信子はひとまづ剛志を快方に向かはせた功を買はれ主任に昇進してゐた。といふ御機嫌なシンメトリーは、そこに至るまでの物語の軸足は全く定まらないが、幕の引き方単体としては、画期的にスマートな部類に入らうか。それでいいのか?といふ疑問に関しては、だからさて措くべきだ。

 そんなこんなで。実も蓋もケシ飛ぶが直截にいつてしまへばルーズな今作にあつて、信子と由紀双方に対し、バランスの取れた活躍を見せるのが平川直大。信子の箍の外れた誘惑に対し、立花はまるで取り合はない件。信子は自らナース服の裾を臍の辺りにまでたくし上げ、階段を上がつて来る立花を待ち伏せする。すると立花は、「おいおい、宮田君丸見えだよ」とかいひながらあつさり通り過ぎる、だからそれどころぢやないだろよ!無作為が前衛の領域にまで到達しかねない点については、最早立ち止まつた方が負けだ。まんまと今回も、私は小川欽也に負けてしまつた訳だが。連敗記録も絶賛更新中である。他方、由紀に対しては。由紀は信子の盗録した和子とのテレフォンSEXの模様を収めたテープをダシに、立花に一夜の関係を迫る。すると立花は「参つたなあ」と困惑してみせる素振りを見せながらも一呼吸すら置かずに、「参つたなあよし!」。何が「よし!」なんだよ!ただここで、字面からのみではてんで伝はらぬかとも思へるが、この「よし!」の一言に込められる不思議な納得すら喚起させかねない妙な力こそが、平川直大持ち前の突進力であることを、さりげなくここに主張したい。もうひとつ、立花の好きな台詞。立花は由紀と過ごす夜を、和子には手術と偽る電話を入れる。何の手術なのかと由紀にからかはれた立花は、ニタ~と笑ひながら「女体解剖」。かういふベタな台詞もそれはそれとして定着せしめる桃色のポップ感も、平川直大の主力装備のひとつ。
 小川欽也の、流れる水の如き自由なピンク。観る者をストレスフリーな状態にさせて呉れる映画ではなくして、ストレスフリーを体現した映画。ブンポー、何それ美味しいの?キショーテンケツ、誰それ書道の上手い人?小川欽也の映画みたいに生きられれば、もう少しは楽になれるのかも知れないのにな。そんな風にでもいへば、限りなく困難にして殆ど唯一の、小川映画積極的評価への途が拓けても来ようか。何でそこまで、生暖かい歪曲を骨折らねばならないのかはよく判らないが。
 ところで新題、“速射”してちや駄目だよな。何処から何処までツッコミ処に事欠かないのか。


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