真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
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悶々不倫 教へ子は四十路妻
荒木太郎
/
2009年03月21日
「
悶々不倫 教へ子は四十路妻
」(2008/協力:静活/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督・出演:荒木太郎/脚本:吉行由実/撮影・照明:長谷川卓也/編集:酒井正次/音楽:宮川透/助監督:金沢勇大・三上紗恵子/撮影・照明助手:大江泰介・広瀬寛巳/協力:佐藤選人・ハリウッドカフェ/タイミング:安斎公一/出演:佐々木麻由子・浅井舞香・佐々木基子・野村貴浩・岡田智宏・淡島小鞠・なかみつせいじ・みやまい・ドンキー宮川、他多数・野上正義)。ど頭に協力の静活が別立てで入るのは、本篇クレジットに従ふ。出演者中他多数は、本篇クレジットのみ。
「野上正義50周年記念」、「佐々木麻由子10周年記念」と続けざまに打ち出しての開巻。ところで佐々木麻由子にとつては、今作が田中繭子からの名義戻し作ともなる。
元高校教師の大崎(野上)は定年退職後、妻(佐々木基子)からはいはゆる熟年離婚を申し渡され、ピンク映画館(静岡小劇場)に通ふ侘しい鰥暮らしを送る。淡島小鞠は、会社のパーティーで余つたエビチリを、離れて独り住む父親に届けに来る大崎の娘・晴美。佐々木基子と野上正義の、流石に決して小さくはない歳の差は、申し訳程度の短い絡みまで含め佐々木基子の登場は8ミリによる回想シーンのみ、といふ形で―ガミさんは、若作りで押し通す―回避される。ここでの趣味性と論理性との結合は、平素は荒木太郎を嫌ふ身とはいへ輝かしい。ある日、何時ものやうに大崎がぼんやりと小屋の暗がりの中に身を置いてゐたところ、迷ひ込んだかのやうに静岡小劇場の敷居を跨いだ女が、場内に不意に現れる。早速、痴漢師(ドンキー宮川=宮川透)が女を迎撃。背もたれを大きく越え身を仰け反らせ悶えた女の顔を見た大崎は驚く、女は教師時代の教へ子・旧姓中原咲子(佐々木麻由子)であつたのだ。大崎から声をかけられた咲子は、慌てて小屋を後にする。帰りしな、同じく教へ子である高木(岡田)が経営するスナックを訪れた大崎は、高校時代咲子のことが好きであつたといふ秋山(野村)から、咲子が夫の中原(なかみつ)とは、別居中で離婚も迫られてゐるといふ近況を耳にする。複雑な想ひを抱(いだ)いた大崎は、秋山に教へて貰つたアドレスで、晴美からは覚えるやう促されてもゐた携帯メールを用ゐて連絡を取る。誰なんだみやまいは、大崎と咲子が待ち合はせる、今はもうバターホットケーキは出さなくなつてしまつた喫茶店のウェイトレス、キチンと正面から捉へられるショットはない。思ひ出のホットケーキについては、時の移り変りを表現するアイテムといふのは酌めるが、粉と卵を牛乳で溶いて簡単に焼けばいいだけのものを、初めから出してゐなかつた訳でもない茶店が、改めて出すも出さないもないのではなからうか。
残念ながらメガネは実装してゐない
浅井舞香は、咲子―今のところ―夫婦が不妊治療中に出会つた看護婦で、今は離婚を見据ゑ中原と同居しもする奈美。濡れ場要員ともいへ、中々捨て難い達者なお芝居を見せる。初期装備のいやらしさも申し分なく、監督松岡邦彦の主演作も半秒でも早く観たい。荒木太郎は高木のスナックの客で、咲子とは中学時代の同級生でもある薬剤師・坂田。静岡の街はそんなに狭いのか、といふツッコミは禁止だ。
全国小屋ロケ行脚御当地映画シリーズ
、未見の「ふしだら慕情 白肌を舐める舌」(2007/脚本:吉行由実/南映画劇場)が多分第七弾にならうかと思はれるので、恐らく第八弾。大崎と咲子の静岡小劇場での驚きの邂逅シーンに於ける、如何にもな様子の痴漢師の蠢動ぶりと、藪から棒に実際に女が悶え始め俄かに色めき立つ場内の空気とには―そもそも大崎がその場に吸ひ寄せられる様まで含め―抜群のリアリティーが溢れ感心させられたが、そこから先が、お話が十全には膨らまなかつた。似たもの同士といふ境遇の相似を超え老元教師と最早間違つても若くはない教へ子とが、何故に男と女として惹かれ合ひ、一度は別離しながらも、最終的には結ばれるに至るのかといふところのドラマ乃至は段取りが、どうにも薄い。その薄さを捻じ伏せる演出の力強さも、今回荒木太郎は終に発揮出来なかつた。総じて丁寧な作り映えながら、殊にクライマックスの大崎と咲子の濡れ場でその傾向が顕著となる、撮影意図を感じさせない長谷川卓也のカメラも、どうにも弱い。我々の人生に於いての寄す処とならう美しい思ひ出を愛しき人との記憶とを、映画と小屋とに託した
シリーズ随一の第四作
を直前に通つたことも災ひしてか、派手な綻びもないものの、大いに物足りなさを残す一作ではある。三上紗恵子(=淡島小鞠)ではなく、吉行由実脚本には事前には期待をしてゐたものでもあつたのだが。全国各地のピンク上映館を捉へた写真の数々に被せられるクレジットは超絶に風情があるが、舞台仕立てもしくはモチーフとしてはさて措き、テーマとしては、劇中に小屋が登場する意味は概ねない。その中でなほ、坂田が精神の平定を乱す咲子に薬を処方し、そのまま事に及んでみせるロケーションが、静活所有の一般映画館ロビーであるといふ不自然さを拭ひやうもない安普請は、矢張り殊更に響く。
出演者中本篇クレジットのみの他多数は、静岡小劇場と、高木のスナックのその他客要員か。咲子が二度目に小屋を訪れる件、痴漢師を摘み出すモギリは暗がりの中でのロングのみだが淡島小鞠の二役で、大崎を案じる推定支配人は、妙に抜かれる点をみるに佐藤選人?
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