真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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裸の女王 天使のハメ心地
た行
/
2008年01月06日
「
裸の女王 天使のハメ心地
」(2007/制作:セメントマッチ/配給:新東宝映画/監督:田中康文/脚本:福原彰/企画:福俵満/プロデューサー:池島ゆたか/撮影監督:小山田勝治/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:中川大資/監督助手:田中圭介・内田芳尚/撮影助手:大江泰介・藤田明則/振付:小泉ゆか/スチール:AKIRA/メイク:佐々木愛・町田恭子/現場応援:山崎邦紀・内藤忠司・森山茂雄・柴田裕輔/録音協力:小林徹哉/資料提供:堀尾康之/協力:五代暁子・ジミー土田・ライトブレーン・中根敏裕・石動三六・中村勝則・広瀬寛巳、他/協力:新宿ニューアート・船橋若松劇場・晃生ショー劇場/出演:青山えりな・結城リナ・サーモン鮭山・岡田智宏・池島ゆたか・石川雄也・吉行由美・小泉ゆか・仁豊・葉山瑠菜・淡島小鞠・田中繭子)。脚本の福原彰は、福俵満の変名。出演者中由実でなく吉行由美といふのは、本篇クレジットまま。それと撮影部サードの藤田明則といふのも、朋則の誤字か。
歌舞伎町一番街開巻、ストリップ小屋「新宿ニューアート」の舞台にマリ(青山)が立つ。同じくストリッパーで、マリとは幼馴染でもあるリン(結城)が袖からマリの踊りを、厳しい目で見詰める。活況を呈する客席の中でも、かぶりつきの席で一際熱狂する山内隆夫(サーモン)と、最後列から、腕を組み冷静に場内を見やる一人の男が。だが男・若林栄太(岡田)が注視してゐたのはマリではなく、隆夫であつた。脱ぎたての下着を贈られ隆夫が驚喜する中マリは捌け、代つてリンが踊り始める。若林が思はずリンの踊りに目を奪はれてゐる隙に、隆夫は姿を消す。マリと隆夫が小屋の表で落ち合ふ他方、若林はリンを捕まへるとマリを隆夫に近付かせぬやう警告する。
全体的にソリッドな出来栄えは決して悪くはないものの、全般的に何を描きたかつたのかが今ひとつ伝はつて来ない点が弱かつた
デビュー作
に続く、田中康文第二作。何のかんのとありつつも一筋に踊りを追求する二人のストリッパーを描いた、基本線としては極めて順当な仕上がりの旅情人情喜劇である。
小屋まで借りて撮影された踊り子映画といふことで、当然に、青山えりなと結城リナがそれぞれ板の上で実際に踊る場面もある。二人とも特にはこれまで踊りの経験はないとのことであるが、ここで、図らずも地金が見えた、といふか雌雄は大きく決せられる。基本的に農耕民族体型の青山えりなは、所作も田舎ホテルのハワイアン・ダンスのやうに一々泥臭く、本人が楽しげに踊つてゐる割には、正直どんなに好意的であつたとて苦笑交じりにしか見てゐられない。対して肉感的な色気には若干欠けながらも細く長い手足を活かした結城リナは、緩やかに伸ばした腕を掲げるだけの動作にも決定力ある艶と華とが溢れ、銀幕を突き抜けて観客の心を射抜かん勢ひの眼差しには、シークエンスを完全に手中に収める強さが満ちる。青山えりなはさて措き結城リナは、カメラ抜きでガチの香盤に載せた場合は兎も角、少なくとも映画のワンシーンの“踊り”としては、極めて高い領域での成功を遂げてゐる。リンのステージは、本来の役目も忘れた若林が思はず目と心を奪はれてしまふことに対する説得力を大いに有する。掛け値なく見応へがあり、素晴らしい。マリとリンが舞台に立つ段、新宿ニューアートの客席は、募られたピンク映画ファンを中心とした有志らによつて埋められる。ここで、心がけとしては評価出来ることは認めた上で敢て苦言を呈すると、若干以上に、客席をカメラが舐める際にひとつひとつの顔を丁寧に追ひ過ぎてゐる。有志一人一人を明確に押さへておかうとする意図が看て取れるが、本来ならばこのカットでは、さういふ作業は必要ではない筈だ。そのため間が微妙に間延びし、リズムの妨げとなつてゐるやうに映る。感謝と敬意の表れなのではあらうが、ここは「タダでエキストラが集められて助かつたぜ」くらゐの勢ひで、商業映画としてビジネスライクに徹するべきであつたのではなからうかとも思はれる。
配役中小泉ゆかから淡島小鞠までは楽屋の踊り子の皆さん、淡島小鞠が、最も明確に見切れる。吉行由美は、マリとリンの“大”先輩ストリッパー・トシ子。一線を引き気味のトシ子は、熱く踊りへの情熱を口にするマリとリンに、客は―踊りなんて別にどうでもよく―若い女の裸を目当てに観に来てゐるだけなのだ、といふ現実をやさぐれた風情で突きつける。対してマリとリンは、確かにさうであるのかも知れないけれども、なほかつその上で裸だけではなく踊りを以てして原初的な欲求を超えた真の感動を観客に与へたい、とする理想を語る。さりげない遣り取りながらもこの上なく判り易く、田中康文は自らがピンク映画に抱いたであらう想ひを、マリとリンとに仮託する。短い一幕ではあれ、思はずグッとさせられる。ここの会話を通して、マリとリンがともに憧れる、伝説の踊り子・マサエの名前が投げられる。小泉ゆかからトシ子まで、因みに裸はなし。
マリは、山梨の老舗旅館の跡取りであるといふ隆夫から求婚される。一方、リンは金を無心するホスト・田丸義男(石川)の鼻を折り、東京に居られなくなる。渡りに舟といふ訳でもないが、リンはマリを焚きつけ、姿を消した隆夫を追ひ二人東京を離れ山梨へ向かふ。マリに挿入を試みるも度を過ぎた早漏の為度々果てる隆夫の姿を、汽車を始めとする多彩なSEで盛り上げるマリと隆夫の絡み。山梨に到着した二人が戯れに下着になつて水遊びをしてゐると、何者かに洋服から一切荷物を盗まれてしまふロード・ムービー的展開。田中康文は前作の硬さがまるで別人かのやうに、柔軟な演出が活き活きと光り、快く流れる映画に身を委ねてゐられる。
隆夫の実家は老舗旅館などではなく、古びた安旅館、例によつて水上荘であつた。田中繭子(ex.佐々木麻由子)は隆夫の母・真弓。若林は、真弓の命を受け隆夫の様子を監視する目的で上京してゐた水上荘の番頭であつた。隆夫の父で本来ならば水上荘の主人・隆英(池島)は、かけてゐたメガネに被雷して以来、気がふれてゐた。マリとリンはマリの隆夫との仲は反対されつつも、ひとまづ下働きといふ形で水上荘に逗留することになる。
一体何処から持つて来たのか金ラメの度派手な衣装を纏ひ、エキセントリックにUFOからのメッセージと宇宙人による人類の脅威とを叫ぶ池島ゆたかは、やり過ぎといふか田中康文はもう少し制御出来なかつたものかと思へなくもないが、後に再び雷に打たれ正気に戻つてからの落差も鑑みると、プログラム・ピクチャーといふものは、このくらゐ判り易くてちやうどいいのかも知れない。だとするとひとつ惜しいのは、マリとリンの二人で“マリリン”といふ折角のネタが、明示して語られることが終に一度もない点。踊りの稽古に励む二人が意外な伝説の踊り子・マサエ本人に遭遇する件は、ベタであるが故に鉄板。ここでも矢張り、青山えりなの泥臭さは披露されるのだが。以前に青山えりなの
メリハリの“ハリ”だけでなく“メリ”の実装
を論じたこともあるが、実際にコメディエンヌとしての“メリ”演技に触れてみたところ、青山えりなといふ人には元々の素材に最終的な未洗練が拭ひきれない分、余程小気味よくカットを切らない限りどうにも地べたを摺り足で歩くかのやうに、鈍重にモタモタしてしまふ感は否めない。どうしても、軽やかに舞へない。その辺りに少なくとも今は、たとへば故林由美香や華沢レモンらとの間に、越えられぬ壁があらう。
互ひに素直になり切れぬ性質(たち)のリンと若林が、森の中で結ばれる濡れ場には締めの濡れ場としての充実が感じられるものの、そこから先の、マリとリンが隆夫―と若林も―を残し水上荘を後にし、再び踊りの世界に戻つて行く幕引きは、流れとして間違つてゐまいが具体的な仕上がりとしては些か詰めが甘いか。隆夫は詰まるところはコメディ要素担当で、リンと若林の物語にもつと明確に、もつと強く移行出来なかつた点もその弱さに作用したやうに思へる。舞台の上で踊る画と、それまでの各場面を鏤めてのフラッシュ・バック風エンディングは、そこに辿り着く過程が弱いだけに、殆ど蛇足に堕してしまつてゐる。序盤中盤の快調な勢ひを維持した加速が祟つてか、肝心要で頂点を捕まへきれずにそのまま映画が流れてしまつた感は残念である。とはいへ焦点が明確な物語を全篇を通して軽快に描いた今作は、代り映えはしない反面、代り映えしないからこそ、安定感の高い正調の娯楽映画として高く評価出来よう。一年に一本などとしみつたれたことをいはずに、田中康文が今作の水準で量産態勢に入れた暁には、昨今質的にも量的にも停滞が否めない新東宝の、大いなる起爆剤たり得るに違ひない。
ところで最後に、あまり大きな声ではいへない蛇足。森の中でのリンと若林の濡れ場。リンが尺八を吹くところで、一瞬確かに岡田智宏の何かが見切れてしまつてはゐないか。何が?ナニだ(*´∀`*)
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