真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「続・昭和エロ浪漫 一夜のよろめき」(2007/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/撮影・照明:清水正二/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:中川大資/監督助手:関力男/撮影助手:海津真也・関根悠太/制作:高橋亮/出演:大沢佑香・日高ゆりあ・春咲いつか・なかみつせいじ・吉原杏・山口慎次・平川直大・野村貴浩・NANA《子役》・神戸顕一)。出演者中、神戸顕一は本篇クレジットのみ。桜井明弘と大場一魅による挿入歌が一曲づつクレジットされるのだが、曲名に力尽きた。
 舞台は前作から五年後の昭和三十九年、東京オリンピックが開催された年である。東京タワーと、五輪の煙を描く五機のジェット機とを描いた、ホーム・メイド感もあんまりなCGにて開巻。どうやらこれらは、清水正二の手によるものらしい。後に纏めて採り上げることにしてひとまづさて措くと、明子(春咲)が嫁いだ後の風間家は、父・一郎(なかみつ)、母・栄子(吉原)、大学生から社会人になつた弟・茂(前作津田篤から山口慎次に変更)の三人暮らし。茂には新しい恋人の瀬戸山マドカ(大沢)が居たが、マドカは旧家出身の令嬢で二人は身分の違ひに悩むと同時に、マドカには、親同士が決めた許婚の恭助(野村)が居た。そんなある日、酒に酔つた夫・田中聡(平川)に殴られたと、大きな青痣を作つた明子が、娘・ナナコ(NANA)を連れ風間家に出戻つて来てしまふ。
 こちらも前作から連続登板の日高ゆりあは、一郎の部下・桜沢類子。茂の元カノといふ設定はギリギリ活きてゐるやうだが、前作では茂の同級生であつた筈が、今作では茂の先輩といふことになつてゐる。一郎と同じ職場といふことは、新聞記者といふ前作に於ける志望は恐らくは叶はなかつたのか。
 前作は本家公開の翌年に封切られたのに対し、今回は本家の続篇を大胆にも半年先駆けて公開された、明確にピンク版「ALWAYS 三丁目の夕日」路線を展開した、昭和三十年代を舞台としたホームドラマの第二弾である。明子の結婚問題といふ明確な映画の柱を有してゐた前作に対し、今作は茂とマドカとの許されざる恋、明子の家庭問題、更には調子のいいことこの上ない一郎と類子との不倫、の大きく三つに焦点が分散してしまひ、散漫とした続篇企画であるといふ基本的な感想は禁じ得ない。たとへば前作に於ける類子は殆ど濡れ場要員に等しい役割であつたとしても、百合子(池田こずえ)の物語は、同じテーマを抱へた明子との対比として描かれてゐた筈だ。
 大きく三つあるのは分散した焦点だけではなく、大きな穴も三つ開いてゐる。まづはビリングは大沢佑香がトップでポスターも飾るところから見ると、三つのプロットの中でも、マドカと茂との許されざる恋、といふのがメインであらうといふことになる。さうしたところで、髪をちやんと黒く染めろといふのはひとまづいはずにおくが、相手役の山口慎次が酷い、といふか稚拙過ぎる。最短距離でいふとAV嬢よりも芝居が拙い俳優とは何事か、脇にでも置いておくならばまだしも、到底映画を背負はせ得よう手合ではない。藤谷文子にかなりソックリな大沢佑香には煌きの萌芽が見られなくもないものの、これでは映画も成立しようがない。身分違ひの恋が云々、といつた主要なテーマを担ふ筈の台詞の大沢佑香を下回る棒読み具合は、シークエンスを木端微塵にしてしまふ。これが薔薇族映画であつたなら、お芝居はへべれけでも、ルックスが良ければ通る話なのかも知れないが。第二に、幕間幕間に挿入される、東京オリンピック開催を告げるアドバルーンや当時のデパート、あるいは電車等の矢張りあんまりなCG画像。バジェット云々以前の戦場でそれでもどうにかして昭和三十年代の風景を描写しようとしたつもりなのかも知れないが、それにしてもこちらも余りにも酷い。ふざけてゐるのかと思へてしまふ程にチャチく、下手糞な切り絵並みの代物である。国映風の履き違へた一般映画嗜好、もとい志向に与するつもりは勿論毛頭ないが、ピンクといふ土俵の言ひ訳に胡坐をかく訳ではなく、ピンクをピンクとして、その上で最終的には世間一般に本気で討つて出るつもりであるならば、このやうなことをしてゐてはいけない。初めから出来はしないことは潔く諦めた上で、その上でなほ、出来得る限りの正面戦を展開すべきではあるまいか。さうでなくては、これではマトモに戦へない、戦ひにならない。作家性にある程度即した、渡邊元嗣の切り絵とも訳が違ふ。更に最も壊滅的なのは、ネタも割れてはしまふが、明子の問題はそれなりに、一郎の抱へた問題はかなり等閑に処理したところで、恭助も登場しての、駆け落ちを決意し婚前交渉も通過したマドカと茂との許されざる恋物語の行く末。唐突に始まつた締めの濡れ場が、何故かマドカと恭助とのものであつたことには愕然とした。一体何がどうすれば、物語がそこに着地するのかが全く理解出来ない。展開上全く不可解といふ以前に、これでは女は分相応な相手と一緒になるべきであるといふ、パート1とは真逆な帰結になつてしまふ。破壊力すら宿したラストは、一息に今作を失敗作から迷作へと押し出してしまつた。もうひとつ小ネタに触ると、旧家令嬢である筈のマドカが、何といふこともない下宿屋に生活してゐるといふのもどういふ訳か。

 ところで。小屋で今作を鑑賞した諸兄に当たられても、判別出来なかつた方がをられるやも知れないが、キチンと本篇出演者クレジットの最後に名前を連ねる神戸顕一が、一体全体何処に見切れてゐたのかといふと。冒頭晩酌をやりながら、組合運動に熱心な聡が来(きた)る決起集会に備へてノートに鉛筆を走らせるシーン。机上に時代を演出するギミックとして中原淳一の『それいゆ』誌やビラ等が積み重ねられた一番下に、池島ゆたかの近作にて頻出する小道具、神戸顕一が表紙を飾る『AHERA』誌がそれとなく挟み込まれてゐる。さりげない遣り方自体には感心した、それ以上には敢て触れぬ。その他、広瀬寛巳や新居あゆみらが、マドカと茂がデートに使ふ、バー「スターダスト」のその他客要員に、中川大資が、風間家に出入りする三河屋の御用聞きとして見切れる。
 オーラスにひとつ与太、今作池島ゆたかが放つた危険球。偶さか一郎と栄子との濡れ場が始まりかけた瞬間には、正直肝を冷やした。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )