真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「花と蛇 地獄篇」(昭和60/製作・配給:株式会社にっかつ/監督:西村昭五郎/脚本:桂千穂/原作:団鬼六『角川文庫刊』/プロデューサー:奥村幸士/企画:植木実・小松裕司/撮影:山崎善弘/照明:田島武志/録音:福島信雅/美術:北川弘/編集:奥原好幸/選曲:山川繁/助監督:北村武司/色彩計測:福沢正典/製作担当者:高橋伸行/緊縛指導:浦戸宏/スタントマン:井口浩水/擬斗:渡辺安章/操演:テイク・1/現像:東洋現像所/出演:麻生かおり・藤村真美・中田譲治・清元香代・染井真理・仙波和之・渚あけみ・平岡正明・益田愛子・平泉成・児玉謙次)。配給に関しては、事実上“提供:Xces Film”。
 羽田に向かふ高速道路を走る一台の車。急かされた車の急ハンドルに合はせられた、クレジットが小気味良い。後部座席の会社社長・遠山義隆(児玉)は、運転手・川田美津夫(中田)の目も憚らず後妻・静子(麻生)の和服を肌蹴、美肉を貪る。素行の悪い娘・京子(藤村)の教育をしつかりするやう静子に言ひつけ、遠山は洋行。静子が帰宅したタイミングで、京子が頭を張るスケバングループ・葉桜団(笑)から、京子のリンチ回避と引き換へに三百万の金を要求する電話がかゝつて来る。遠山家の老家政婦・千代(益田)は首領(実台詞ママ)がどうしてリンチされるのかと一笑に付し取り合はなかつたところへ、玄関から投げ込まれたと、川田が京子の下着が入れられた学生カバンを持つて来る。これは尋常ならざる事態と慌てた静代は、川田に運転させ銀行へ直行。金を下ろし、川田が煙草を買ひに車を離れた隙に、静代は車ごと葉桜団(渚・清元・染井)に拉致されてしまふ。山間の廃屋に連れ込まれた静代は縛り上げられる、そこへ、助ける風でもなく川田が現れる。川田は実は京子と付き合つてをり、川田が博打で作つた借金のために、二人で三百万を要求する狂言を思ひついたのだつた。更にその場へ、川田が金を借りた田代組の若頭・津山淳(平泉)が登場。美しい母娘に目をつけた津山は、調教してSMショウの呼び物とすべく、二人を組長・田代一平(仙波)の待つ山荘へと連れて行く。
 とかいふ次第でのんべんだらりと美しい母娘がお定まりの痴獄に囚はれた後は、こちらも教科書通りの責めが弛目に展開される。唯一女優として映画を背負ひ得る麻生かおりの被虐の痴態に大いに即物的には興奮させられるとはいへ、AVまで含めれば一体同工異曲の類作が果たして何臆本製作されたものやら、ゐるとするならば神ですら恐らく数へる途中で匙を投げてみせるであらう、標準的で平板な一作である。尤も葉桜団メンバーの破天荒なパーマ頭とノースリーブセーラ服(火暴)には頭を抱へさせられつつも、基本的な映画の分厚さには矢張り首を縦に振らざるを得なくもなく、クライマックス、映画は突発的に闇雲にもほどがある暴発を爆裂させる。川田は静代は呉れてやるとの津山の条件で、母娘の調教に加担させられる。も一夜が明けると、手の平を返したかのやうに津山から小遣ひ銭程度の金を渡され川田はお払ひ箱に。静かに激昂した川田は、再び田代山荘に突入。サングラスの子分(平岡)を筆頭に、田代、津山を次々凶刃で血祭りに上げる。葉桜団メンバーからウイスキーを浴びせられた上火を放たれるも、京子以外の葉桜団を全滅させ、終に力尽きる。出し抜けな川田の大暴れに際しては人間炎上スタントまで繰り出し、山荘一軒を丸々焼失させこそしないものの、轟轟と燃え盛る一室から、京子と静代がスローモーションで脱出するショットには、降つて沸くが如く堂々とした映画的興奮が煌く。かういふ辺りは成程、流石ロマンポルノならではと感服させられる。

 折角豪胆な力技で強引に持ち直したところで、ところが映画の着地は川田に手の平を返す津山よりも酷い。筆を滑らせてのけるが、何故だか途端にベタベタと、己等はレズビアンなのかとツッコミも入れたくなるくらゐ仲良くなつた静代と京子の粘着質な様子が、大オチの百合が挿み込まれるでなく、一昨日から明後日へ漫然と流れて終り。オーラスを高速道路を適当に走る車のロングで締める辺りに、半ば確信犯的に投げ放した姿勢が窺へる。


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