シビル・ウォー


Z9 + NIKKOR Z 50mm f/1.2 S

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映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』を観てきた。
以下ネタバレありで書く。

映画は近未来のアメリカで起きた内戦を描いている。
強権を振りかざす連邦政府の大統領に対し、19の州が合衆国から離脱、テキサス州とカリフォルニア州が組んだ西部勢力WF(ウエスタンフォース)と、連邦政府との間で内戦が勃発する。
やがてWFが政府軍を圧倒し、ワシントンD.C.に迫っていく。
危険地帯を移動しながら、その様子を取材していくジャーナリストたちの話である。

保守的なテキサスとリベラルなカリフォルニアが組むこと自体、現状では考えられないが、ファシストを前にしたら、右派とか左派とか言っていられないはずだ・・という監督の思いもあったようだ。
いずれにしても、予想外の事が起きるのが戦争であり、かえってリアリティを高めている。
もともと民間に大量の武器が流通している国なので、あちこちで戦闘が勃発する。
民間人同士が殺し合うのだ。

近未来の世界とは言っても、現状でも国内を2分する対立が起きており、どちらか一方の立場に立って描くのは難しい。
そのため、右派と左派の連合とし、あくまでジャーナリストの目を通して起きたことを淡々と追う・・という形にしたという。
映画製作陣が、そうせざるを得ないこと自体が、既に恐ろしいことではある。

「一般の」日本人には、少し分かりにくい映画なのかもしれない。
映画館で鑑賞後に、劇場の中をぞろぞろと歩きながら周りを見ると、戸惑った顔の人が多く、「もっと状況を説明してくれないと何だかよく分からない」と言う不満の声も聞こえてきた。
面白い戦争活劇を期待してきた・・ということらしい。
映画としての出来は標準的で、中だるみに感じられる演出もあったので、訳が分からなければ、不満を感じる人もいるだろう。

しかし実のところ、そんなことを説明する必要が無いほど、本国では切実な状態に陥りつつある・・ということなのだろう。
日本は平和ボケとよく言われるが、ハリウッド製のファンタジーばかり見せられてきて、それがアメリカという国なのかと思い込んでいる。
実際にははるか昔から、あの国においては、映画は現実からの逃避・・という側面が強くあった。
そしてその現実の世界では、驚くほど急速に状況が悪化しているのだろう。

一見普通に見える人達が武装し、民間人を大量に殺して、その死体をダンプから地面の穴に落として処分しようとする。
相手に出身地を聞き、アメリカ人以外なら、問答無用で射殺していく。
どちらの勢力なのか分からない「誰か」から狙撃を受け、生き残るためにこちらも相手を射殺する。
そういう混沌とした中を、何度も命を危険に晒しながら、ジャーナリストたちが進んでいく

大統領選挙の会場での、一見華やかなお祭り騒ぎを、我々はテレビで目にする。
しかし実際には、その会場で大統領候補の命が狙われる場面も、続けざまに見せられた。
あの華やかさの裏には、常に死が隣り合わせにあり、一瞬で血生臭い世界へと暗転する。
この映画でも、そういう場面が描かれており、スーツを着た人たちと死との組み合わせが、妙にしっくりくるのも、何だか恐ろしかった。

実のところ、内戦ほど国民の心を傷つけるものはない。
何しろ親しかった隣人と殺し合いをするのである。
負けたほうは国内で敗北者となり、生き残ったとしても影響は一生続く。
そしてその怨恨は、末代まで残ることになるのだ。
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