弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

弁理士(試験)制度の方向(3)

2007-03-22 22:53:52 | 弁理士
技術者Aさんの「良く見渡せば、実務能力または法律能力に欠けた弁理士はちょくちょく見かけます。」という問題提起について。

この問題は、試験合格に何を求めるかという①試験制度と、弁理士登録に必須とする②新人研修と、既存の弁理士に必修とする③登録後研修をどうするかという問題と捉えました。

実務能力のうち、技術知識については、まず弁理士受験資格に理系学部卒業か技術系選択科目合格を必須とするかどうかです。必須とするという意見もあり、弁理士の情報開示さえしっかりすれば必須としなくて良いという意見が拮抗しています。
弁理士会が実施する研修で技術知識が身につくことはあり得ませんので、この選択肢は最初から考えません。
技術者Aさんは、研究経験や論文作成経験が多い人に弁理士になって欲しい、従ってそのような人が受かりやすい弁理士試験であって欲しい、というご意見ですね。しかしこのような方向を試験制度によって担保することはやはり困難でしょう。受験資格を理系出身者と理系選択科目受験者に限るとしても、最低限のレベルを担保できるに過ぎず、技術レベルの優秀な人を優先することにはなりません。
技術者Aさんがおっしゃるように弁理士試験をより一層易しくしたからといって、技術レベルの高い人が集まってくるものでもないでしょう。むしろ、弁理士の最低レベルが低下すると、特許事務などの専権を有している意味がなくなります。

技術知識以外の実務能力、例えば明細書作成能力について、現在の試験制度はこのような実務能力を担保する試験ではありませんし、今のところ、「このような試験を行うとよい」というアイデアも持っていません。また、このような実務能力について、私は短時間の座学研修で身につくものではない、という意見の持ち主です。結局はOJTで身につけるしかなく、利用者にとってこのような実務能力を有する弁理士を選別することはとても困難だとは思いますが、とにかく「使ってみて駄目だったら他の弁理士に変える」としていただくことでしょうか。

法律能力に欠けた弁理士について
この問題は、弁理士試験合格直後から能力に欠けた弁理士の問題と、試験合格後年数が経って能力が摩耗した弁理士の問題に分けて考えます。

合格直後の能力について、特許法の審査、審判、審決取消訴訟単独代理、侵害訴訟の共同代理に関しては今まで述べたとおりです。

合格後に知識が摩耗する点については、人間ですから当然に知識は摩耗します。私は2003~2004年に民法民訴法の勉強をずいぶんしましたが、それっきり使う機会がなかったこともあり、最近はほとんど忘却の彼方です。
知識を維持するためには基本的には各自が研鑽するしかありません。弁理士法の改正により、5年間に70時間程度の研修が義務づけられるようになりそうです。この義務研修でどれだけ能力維持が図れるのか。どのような研修が行われるかにもよりますが。

以上、特許法の権利取得と侵害訴訟共同代理のみについて述べました。

商標法については、商標法について試験を受けることによって商標弁理士資格を取得します。受験資格は、初級特許弁理士、司法書士、行政書士に門戸を開放したらよろしいと思います。
例えば行政書士に門戸を開放するといっても、受験資格を与えるというだけです。合格した暁に行政書士として商標を扱うわけではありません。あくまで経産省が主管する商標弁理士であり、弁理士会に登録してはじめて弁理士と名乗ることができます。

最後に
工業所有権4法以外の著作権法、不正競争防止法、関税定率法関連業務、
これら法律に関する契約等の代理、相談
についてです。

工業所有権4法以外の著作権法、不正競争防止法、関税定率法関連業務については、実際に各弁理士が業務依頼を受ける可能性がどのくらいあるのでしょうか。私はこのような業務依頼を受けたことがないし受ける予定もありません。弁理士業務範囲をこのような業務範囲まで広げた結果として、弁理士試験の範囲が広がりました。むしろそれによって大事な特許法の勉強がおろそかになることを心配しています。なぜかというと、合格人数が決まれば合格までの必要合計時間数が決まり、試験範囲が広いということは各科目毎の必要勉強時間が短くなると思っているからです。
私は、弁理士業務範囲を広げるために弁理士試験に著作権法まで入れてしまったのは、得策ではなかったと思っています。

契約等の代理について
これこそ民法の知識を必要とする分野ですね。私自身はこのような業務範囲を弁理士業務範囲に入れてもらわなくても困りませんでした。これが入っているために、初級弁理士試験の中に憲法・民法を入れるべきだ、ということになるのだとしたら、返上してもよろしいと思っています。

技術者Aさんがおっしゃる英語能力についてはどうでしょうか。
弁理士試験の必須科目とするのではなく、やはり弁理士に関する公開情報に基づいて依頼者が選択するということでよろしいのではないでしょうか。
コメント (1)
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