弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

弁理士(試験)制度の方向

2007-03-18 18:42:39 | 弁理士
この一年間、このブログでも弁理士制度(弁理士試験制度)がいかにあるべきかについていろいろと発言してきました。

昨年の3月、弁理士会が弁理士法改正の方向性という声明を出し、これについてこのブログで取り上げました(弁理士会声明・弁理士法改正の方向弁理士試験制度の方向弁理士試験制度の方向(2)弁理士試験制度の何が問題か実務能力評価試験は可能か)。

また、昨年4月以降に産業構造審議会の弁理士制度小委員会が開かれ、第1回小委員会で弁理士会は上記声明に沿って意見を陳述しました。第1回小委員会の議論内容について、弁理士試験制度弁理士試験制度(2)弁理士試験制度(3)で記事にしました。第2回小委員会については、第2回弁理士制度小委員会第2回弁理士制度小委員会(2)第2回弁理士制度小委員会(3)で議論しました。

弁理士試験制度の最近の変化に伴って、合格者の性向がどのように変化したかについて、所長Hさんのブログ記事をもとに弁理士の変貌としてこのブログで取り上げました。

以上をベースにしつつ、技術者Aさんからの問題提起をもとに私の意見を再整理してみます。

私は平成7年合格で、合格に到までの勉強の大変さを身にしみて知っています。受験期間中は実務をおろそかにすることが必然で、そうしなければ合格はおぼつきません。3000~5000時間の勉強時間を必要としました。それだけ時間をかけて勉強した成果が、実務能力の向上に直接は結びつかないという悲しさも味わいました。弁理士試験は法律の素養を問う試験であって実務能力を問う試験ではありませんから、当然のことではあります。
この経験から、私は「弁理士試験は1500~2000時間程度で合格できるようにすべきであり、受験勉強時間が減った分だけ実務能力向上の研鑽を積むべきである」と思っていました。必要勉強時間を減らす手だてとしては、毎年の合格者人数枠を増やす以外になく、その意味では最近の合格者数の増大は歓迎しているところです。

必要勉強時間が減るということは、当然ながら合格者の知識量ボーダーは低下するということです。
弁理士の大部分は工業所有権法のうちの特許法を専門とします。合計勉強時間が減ったことによって特許法の知識が乏しくなることは、ぜひとも避けなければなりません。そこで私の意見は、「弁理士試験から商標法を削除し、弁理士専権から商標法を外すべきである。」というものです。この制度の弁理士を特許弁理士と呼びましょう。これにより、トータル勉強時間が減っても特許法の勉強時間を確保し、特許法については十分な知識を得た特許弁理士となることができます。
商標法については、特許弁理士試験とは別に試験を設け、この試験に合格すれば商標弁理士となれます。商標弁理士試験の受験資格としては、特許弁理士の他、司法書士や行政書士に開放します。

それにしても、勉強時間が減ったことによって、現在の弁理士がカバーするすべての分野について権限を持たせるだけの実力があるのだろうか、という問題を考えます。
弁理士の業務分野を以下のように分類します。
工業所有権4法の審査、審判、審決取消訴訟、侵害訴訟
上記4法以外の著作権法、不正競争防止法、関税定率法関連業務、
これら法律に関する契約等の代理、相談

技術者Aさんのご意見は、「弁理士(初級弁理士)の業務を特許法の審査までとし、それ以外の業務は上級弁理士の業務とすべきではないか。初級弁理士は理系大学卒を条件とし、現在の短答式試験程度で合格とする。上級弁理士は憲法、民法、民訴法を含めた試験合格者とする。」というものですね。

私は、審判を初級弁理士の業務権限から外すのは反対です。特に最近は、いとも簡単に拒絶査定が出されるので、査定不服審判は日業業務です。初級弁理士が査定不服審判を代理できないとなると仕事になりません。
ということで、初級弁理士の試験を技術者Aさんがおっしゃるほどには易化せず、少なくとも審判までは権限を持たせるべきと思います。

審決取消訴訟の代理権限については、私も初級弁理士の権限から外した方がよかろうかと思っています。民法民訴法基礎の知識を身につけていないと、最低限の訴訟活動にも支障をきたすでしょう。今でも、特に査定系の審決取消訴訟で、代理人弁理士の資質が常に問われています。
私が弁理士試験受験勉強をしていた頃は、吉藤著「特許法概説」をそれこそ穴の開くほど読み返しました。特許法は民法の特則であり、民訴法の特則的色彩もありますから、特許法の勉強を通じて何となくリーガルマインドが身についたような気がしています。最近の少ない受験勉強時間でどこまでリーガルマインドが身についているだろうかということです。

それでは、審判までの業務権限を持たせるために初級弁理士試験をどのような試験にするのか、上級弁理士受験資格及び試験内容をどのようにしたらいいのか、という点ですが、長くなったので次回に改めます。
コメント (2)
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