弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

新審査基準発表

2007-03-25 18:23:37 | 知的財産権
この4月から施行される改正特許法に関する改訂審査基準が発表になりました

1月に審査基準案が発表になり、パブリックコメントが求められていました。私はこのパプコメに意見を送っていたのですが、結果はどうだったでしょうか。

1.意見の第1は、請求項1に係る発明が特別な技術的特徴を有していなかった場合の補正範囲についてです。
ところで、「特別な技術的特徴」は言いづらいですね。略称ができないでしょうか。「特技特」「特特」「STF」いずれになるのでしょうね。STF(Special Technical Featureの略でしょうか)は、弁理士会特許委員会の研究発表会で使っていました。ここでは特技特を使います。

請求項1:A
請求項2:A+B
明細書中に「Aは好ましくはA’、より好ましくはA”」と記載されています。

請求項1、2ともに審査され、請求項1に特技特がないと判断されたとき、請求項1のAをA’、あるいはA”に訂正する補正は認められません。

「これでは不便ではないか」ということでパブコメで意見を出したのですが、確定版審査基準ではこの意見は採用されていませんでした。

3.「発明の特別な技術的特徴」の意味について、審査基準でより明確にして欲しい、との意見を出しました。

この意見は採用されたようです。
「発明の単一性の要件」審査基準の3ページ3~10行に、後発的に特技特を満たさなくなる場合が、①~③として明示されました。

2.「新審査基準において、拒絶理由通知の中で請求項毎の発明の特別な技術的特徴の有無を明示するよう、定めて欲しい。」
4.「発明の特別な技術的特徴の有無の判断に対する反論をどのように展開することが適切であり、審査官はその反論に対してアクションの中でどのように対応するのか、という点について、新審査基準のの中に明記して欲しい。」
これらの意見は無視されたようです。


さて、1.に戻りましょう。
《今まで》
請求項1:A
請求項2:A+B
明細書中に「Aは好ましくはA’、より好ましくはA”」
と記載していました。

《これから》は、
請求項1:A
請求項2:A’
請求項3:A”
請求項4:請求項1~3にさらにBを加える
とすべきなのでしょうか。

「当初請求項1のAを補正でA’に訂正できるか」という点は、「発明Aが特技特を有しているか否か」によって変わります。たとえAに進歩性がないとされ、その判断に承服するとしても、Aが特技特を有していれば、請求項1をA’に補正することが可能となります。
今回の発明の単一性の要件についての審査基準によると、以下の①~③の場合に特技特がないと判断されます。
①「特別な技術的特徴」とされたものが先行技術の中に発見された場合
②「特別な技術的特徴」とされたものが一の先行技術に対する周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではない場合
③「特別な技術的特徴」とされたものが一の先行技術に対する単なる設計変更であった場合

従って、発明Aに進歩性がないおそれがあるとしても、①~③に該当しないだろうと推定できるのであれば、出願時請求項2にA’をクレームアップしなくても大丈夫ということになります。

出願時に、発明Aが「ダメもと」のクレームだと考えるのなら、「少なくとも進歩性は有するだろう」と思われるA’、あるいはさらにA”を当初からクレームアップしておくべきである、という方針になろうかと思います。


ところで、先日3月23日に、東商ホールで開かれた弁理士会の「特許委員会公開フォーラム」に参加してきました。
テーマ:1.改正特許法(いわゆるシフト補正禁止と分割出願制度改正)
の最後に私から質問し、上記
「請求項1:A
請求項2:A+B
明細書中に「Aは好ましくはA’、より好ましくはA”」と記載されています。
請求項1、2ともに審査され、いずれも特技特がないと判断されたとき、請求項1のAをA’、あるいはA”に訂正する補正は認められません。」
について確認した上で、「これでは不便ではないでしょうか」とコメントしました。

回答に立った方は「不便といわれても・・・」とおっしゃっていましたが・・・

フォーラムでの説明によると、今回の審査基準作成に際しては、弁理士会が当初から特許庁に意見を進言していたというのです。そのようないきさつを考慮すると、「不便といわれても」といわれても・・・、とこちらが思ってしまいました。
コメント (4)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 手嶋龍一「外交敗戦」 | トップ | 特別な技術的特徴 »
最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (EG)
2007-03-27 09:39:04
ご無沙汰してます。

請求項1:A
請求項2:A+B
の場合、
請求項1:A’
請求項2:A’+B
とする補正はいいのですよね。

返信する
シフト補正 (ボンゴレ)
2007-03-27 10:00:27
EGさんこんにちは。

Aに進歩性がなくても、Aに特別な技術的特徴が認められていれば、請求項1をA’にする補正は認められます。
しかし、Aに特別な技術的特徴が認められない場合(Aが発明単一性審査基準①~③に該当する場合)、補正が可能なのは、A+Bをさらに限定する補正のみです。従って、請求項1:A’は認められません。
補正審査基準において、
A+Bに特技特が認められる場合は審査基準の4.3.1、A+Bに特技特が認められない場合は4.3.2①が適用されます。

私はパブコメにおいて、EGさんがおっしゃるような補正を認めるべきだと意見したのですが、採用されませんでした。

ですから、この4月以降の出願については、A’を最初からクレームアップすべきか否かを真剣に検討しなければならなくなりました。
返信する
とすると (EG)
2007-03-27 12:28:13
出願時の請求項は、一つだけがいいのでしょうか?
請求項:A

そうすれば、
請求項1:A’
請求項2:A’+B
とする補正はいいのですよね。
妙ですね。
返信する
クレーム立て (ボンゴレ)
2007-03-27 22:00:22
「A’に補正できる」という1点ではそのとおりですね。
しかし、審査対応のフレキシビリティを考えると、実際には多項クレームを立てることになるのでしょうね。
返信する

コメントを投稿

知的財産権」カテゴリの最新記事