弁理士の日々

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細野祐二「公認会計士vs特捜検察」(2)

2010-10-21 21:59:14 | 歴史・社会
10月11日の記事「細野祐二著「公認会計士vs特捜検察」」では、「公認会計士vs特捜検察」の内容について紹介するとともに、この事件において東京地検特捜部でどのような取り調べが行われ、控訴審での証人の証言で取り調べの実態が明らかにされた点について紹介しました。

特捜検察が「大手監査法人の公認会計士を立件しよう」と狙いを定め、その狙いに応じて事件のストーリーをつくり、ストーリーに従った供述調書に署名を強要し、細野氏を犯人に仕立て上げていった手口です。大阪地検での村木裁判と全く共通の構図でした。
事件の当事者であるキャッツの大友社長、村上専務、西内常務、本多弁護士らは、それぞれ“特別背任には問われたくない、早く保釈を受けて困窮する家族を助けたい、逮捕されたくない、裁判官である娘のために”という理由から、特捜検察の調べに迎合して事実に反する供述調書に署名させられていました。それらの点については、控訴審で本人らが真実を語ることによって明らかになりました。

しかしそれにもかかわらず、控訴審では「執行猶予つき有罪」とした原審は覆らず、さらに最高裁でも覆りませんでした。一体何故、細野氏は無罪を勝ち取ることができなかったのか。
似たような事例である大阪地検特捜部を舞台とした村木さんの裁判では無罪が勝ち取れたのにもかかわらず、です。
それが今回のテーマです。

しかし、結局はよくわかりませんでした。

《控訴審判決》
控訴審判決の全文が入手できていないので、詳細検討することができません。思い当たるところをいくつか列挙するに留めます。
1.一審で適切な訴訟活動を行っていないと、控訴審での巻き返しは難しい?
地裁の公判では、検察側の主要証人の尋問が終わるまでは細野氏の保釈が認められず、細野氏の訴訟活動は困難でした。保釈後も地裁判決が出るまでは関係者との接触が禁止されました。
細野氏の弁護士は、細野氏から「自分に有利な物証があるから証拠提出してくれ」と依頼されても「その必要はない」と取り上げませんでした。
どうも、弁護団は「執行猶予をもらえれば勝ち」とのスタンスで訴訟活動を行っていたように思われます。実際、地裁で執行猶予つき有罪の判決が出されると、弁護団は細野氏に成功報酬を請求しているのです。
最近何かの記事で、「一審で適切な訴訟活動を行っていないと、控訴審での巻き返しは難しい」と書いてありました。本件についても該当する可能性があります。

2.村木裁判では「文書偽造」が問われた事件であり、その文書の作成期日と村木さんからの指示日との関係などが決定的な意味を持ちました。また、“議員からの圧力”についても、検察が主張する日に議員が不在であることが公判で立証されるなど、検察のずさんさが一審で明らかになりました。
それに対し細野氏の裁判では、“物証が決定的に重要”という事件ではなく、有罪/無罪のどちらの判決をも書くことが可能だった事件かもしれません。そして高裁には、無罪判決が書けない事情があったのでしょう。「執行猶予が付いているのだからいいじゃないか」との考えかもしれません。

《最高裁の判断》
最高裁は判決ではなく決定で判断しました。裁判所のホームページに掲載されています(pdf)。
まず、決定では「違憲をいう点は,原判決が所論指摘の証人の第1審公判における供述を有罪認定の証拠に供していないことはその判文上明らかであるから前提を欠くか,実質において単なる法令違反の主張であり,その余は,単なる法令違反,事実誤認の主張であり,被告人本人の上告趣意は,単なる法令違反,事実誤認の主張であって,いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。」としており、いわゆる門前払いです。決定ですからここまでの記述でも足りているのですが、最高裁は
「なお,所論にかんがみ,本件における虚偽記載半期報告書提出罪及び虚偽記載有価証券報告書提出罪の各共同正犯の成否について,職権で判断する。」
として考え方を述べることにしました。約4ページです。

キャッツの大友社長は、会社(キャッツ)から60億円を借り受けてM&Aを試みましたが成功せず、当面現金で返済できないのでパーソナルチェック(小切手?)で返済しました。
一方、開發氏にM&Aを依頼することにし、キャッツからM&Aファンドに60億円を預託することにします。上記パーソナルチェックをあてました。
半期決算の半期報告書では上記内容を「預け金60億円」と記載しました。
その年度に、開發氏が所有していた会社「ファースト・マイル」の株式をキャッツが60億円で取得することとなり、その期の有価証券報告書に関係会社株式として「ファースト・マイル60億円」と記載されました。

最高裁は上記いきさつについて、キャッツからM&Aファンドへの60億円預託は「仮装」であるとし、またファースト・マイルの株を60億円で取得したということもできないので、半期報告書と有価証券報告書はいずれも重要な事項につき虚偽の記載をしたものと認定しました。

これ以上詳しいことは専門家でないのでわからないのですが、「何とか辻褄を合わせる行為」を行った場合、それが企業会計原則からは妥当であっても、もし裁判所が有罪にしようとの意図を有する場合、「虚偽記載」として有罪にされてしまう、ということかもしれません。

もう1点。最高裁の決定には、
「被告人は,公認会計士であり,当時,前記監査法人において,その代表社員の一人であるとともに,キャッツに係る監査責任者の地位にもあったが,・・・・・虚偽記載を是正できる立場にあったのに,自己の認識を監査意見に反映させることなく,本件半期報告書の中間財務諸表及び本件有価証券報告書の財務諸表にそれぞれ有用意見及び適正意見を付すなどしたというのである。」
とあります。
細野氏の著書によると、細野氏が代表社員の一人である監査法人において、細野氏は監査部門に属しておらず、キャッツの監査責任者の地位にもありませんでした。細野氏はキャッツの顧問であったに過ぎません。そうとすると、上記最高裁の認定は事実に反することになります。
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2 コメント

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Unknown (Unknown)
2011-02-18 03:26:16
でも¥2000万も受け取ったら同罪でしょ。
「預かった」なんて言ってますが、金額的に有り得ないでしょ。

所詮は犯罪者でしかないですよね。

まさか「疑わしきは罰せず」なんて言います?
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2000万円の意味合い (ボンゴレ)
2011-02-18 08:38:38
Unknownさん、こんにちは。

手許に書物がないので正確には確認できないのですが、こちら
http://blog.goo.ne.jp/bongore789/e/29896f9e9134412f31591a067b8dc98c
にも書いたように、細野氏の罪状は「粉飾決算の共謀」です。2000万円の授受が直接の罪状ではありません。そして、2千万円の現金が、粉飾決算の礼金ではないことが物証から証明され、控訴審判決はこの点を認めました。

取り敢えず、これ以上のことは議論するネタを手許に有していませんが。
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