弁理士の日々

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細野祐二著「公認会計士vs特捜検察」

2010-10-11 18:45:21 | 知的財産権
公認会計士vs特捜検察
細野 祐二
日経BP社

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たまたま目に止まったので、図書館で借りて読み終わったところです。
著者の細野祐二氏は公認会計士であり、キャッツという会社の有価証券報告書虚偽記載容疑で東京地検特捜部に逮捕され、一貫して無実を主張し続けながら有罪判決を受けた人です。この本は、その事件の一部始終を当事者として語ったものです。
郵便不正事件~FD改竄事件との関連で、実にタイムリーでした。郵便不正は大阪地検特捜部、細野氏は東京地検特捜部という違いはありますが、取り調べの状況などは実にうり二つ、鏡を見ているようでした。
郵便不正事件において村木さんに対して行った大阪地検特捜部の捜査が特別だったのではなく、特捜では常態的に今回のような捜査(ただしFD改竄の件ではありません。)を行っていたことが明らかになります。

細野さんは大手監査法人の代表社員でした。
キャッツという会社は、シロアリ駆除を仕事とする会社です。創業者社長である大友社長と村上専務が大きくしてきた会社です。細野さんが関与し始めた平成元年に従業員300人、売上高30億円の会社でした。
キャッツが株式公開を目指すに際して、細野さんのファームは公開指導を受注しました。しかし話を聞くと、ときはバブル崩壊の直後で、キャッツ本体、大友社長、村上専務の三者がいずれも、証券会社の営業特金で数億円~十数億円の損害を被っていることが分かりました。それを細野氏が尽力し、店頭公開にこぎ着けるまで推進します。細野氏の熱の入れようは尋常ではありません。この愛情が後に落とし穴に嵌る起因とはなるのですが。

その後もキャッツは急成長を遂げ、平成12年には売上高200億円を超え、東証一部上場を実現しました。
ところがこのときの一連の動きが、キャッツ事件における株価操縦罪に問われることとなります。平成16(2004)年2月に東京地検特捜部に呼ばれての取り調べが始まり、3月9日に逮捕されました。
細野氏は身に覚えがないので否認し続け、勾留期間は190日に及びました。地裁での公判が始まり、検察側の主要な証人尋問が終了するまで保釈されなかったのです。

細野氏を被告人とする地裁での公判では、大友社長、村上専務、キャッツの西内常務、顧問弁護士である本多弁護士が細野氏の共犯を認める供述調書に署名しており、さらに大友社長と西内常務は、公判でも供述調書と同じ趣旨の証言を行いました。村上専務は証言を拒否し、本多弁護士は法廷で否認する証言を行いました。
そして2006年3月、細野氏に対して懲役2年執行猶予4年の有罪判決が下ります。

一審判決が出るまで、細野氏は大友社長を初めとする関係者とは一切連絡しませんでした。保釈条件として接触が禁じられていたからです。判決が出たので接触禁止が解け、細野氏は関係者との接触を開始します。関係者はなぜう嘘の供述と嘘の証言を行ったのか、それを解明しなければなりません。

まず本多弁護士に会いました。本多弁護士の娘さんは裁判官をやっておられ、本多弁護士は自分が逮捕を免れることで娘さんに累が及ぶことを防ぎたかったようです。
村上氏は、今回の事件で逮捕された後、預金が封鎖され、奥さんと娘さんは大家から立ち退きを要求され、とにかく村上氏本人がはやく保釈を受けなければならない事情がありました。そんななか、調書は検察官の作ってきたものにそのまま署名してしまいました。
大友氏は、背任ではなく執行猶予がつくのであれば経営者として再起が可能なので、取り調べと公判ではこの一点で判断しました。検察官が作った調書に署名したのも、検察官が指示するとおりに公判で証言したのもそのためです。公判での証言の前に、大友氏は検事の前で40回もリハーサルをさせられたのです。
検察が作ったストーリーは、まず西内氏の取り調べの結果からストーリーを構築し、大友氏、村上氏、本多氏についてはその構築したストーリー通りの調書を作成して署名を強要したことも明らかになりました。

控訴審では、大友氏、村上氏、西内氏が、「供述調書の内容は事実ではない。真実はこうである」という証言を行いました。下手をすると自分達が特別背任で捕まる危険性を犯してです。
また、一審段階で細野氏が「ぜひ証拠請求してくれ」と弁護士に主張したのに弁護士が「その必要はない」として証拠請求しなかった2件の証拠について証拠請求し、細野氏に有利な物証を得ることもできました。
細野氏の罪状は「粉飾決算の共謀」ですが、「そもそも決算は粉飾ではない」という主張もしっかりと行いました。

しかし2007年7月に出された控訴審判決は「控訴棄却」でした。
細野氏の事務所から見つかった2千万円の現金が、粉飾決算の礼金ではないことが物証から証明され、控訴審判決はこの点を認めました。また、控訴審での大友・村上・西内証言から、株価操縦の告白などを受けたことがないことについても認められ、控訴審における事実認定からは除かれていました。
それでも有罪判決だったのです。

さらに、2010年に最高裁が上告を棄却し、細野氏の有罪が確定しました。

この本を読んでのポイントは2点です。
第1に、特捜検察が「大手監査法人の公認会計士を立件しよう」と狙いを定め、その狙いに応じて事件のストーリーをつくり、ストーリーに従った供述調書に署名を強要し、細野氏を犯人に仕立て上げていった手口です。大阪地検での村木裁判と全く共通の構図でした。

第2に、村木裁判では見事無罪を勝ち取りましたが、細野裁判では結局有罪が確定してしまったことです。
なぜ細野裁判では無罪とならなかったのか。その点については稿を改めます。
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1 コメント

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必殺仕事人待望 (中村主水)
2010-10-13 14:35:44
 こういう検事や裁判官連中は、自己の栄達や私利のために法律を最大限に利用して悪事を働いているいるわけですが、法律を悪用するプロであるばかりか、国家という強大な暴力装置を背景にしているため、いかなる個人や団体も全く対抗できません。

 そこで望まれるのが「必殺仕事人」や、ダーティハリーに描かれている「正義」の世直し人です。

 そこまで遺憾区とも、そういった悪徳検事・裁判官の家族・親族の氏名や住所などを探り出し、そういった手合いが法律を悪用して正義の名の下に如何に悪事を働いているかを世の中に知らしめる以外道はないでしょう。もちろん、家族・親族一統の氏名をも晒して徹底的に糾弾する必要があります。

 だれか、金持ちがそういった仕事に協力して寄付してくれないものでしょうかね。

 家族・親族などの氏名を晒す事に異議を申し立てる「偽善者」もいるでしょうが、主として名もなき庶民に適用される事の多かった罪九族に及ぶ昔のやり方とは違い、権力を背景とした輩にのみ行う事ですから、世人の非難は殆どないでしょう。
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