弁理士の日々

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上杉隆「ジャーナリズム崩壊」

2008-11-18 20:53:50 | 歴史・社会
現在の日本マスコミ界には「記者クラブ」制度があるといいます。
例えば「外務省記者クラブ」。外務省で取材するためにはこの記者クラブに加盟していることが必須で、そうでないと外務省から提供される情報を享受することができません。私が想像するに、記者クラブにより、取材側は労せずして情報を入手することが可能であり、役所側は自分に都合の悪い取材を阻止することが可能であり、このようなもたれ合い関係が成立しているのではないでしょうか。その結果、どのメディアからも金太郎飴のように同じ記事しか出てこないことになります。
しかしマスコミ本来の役割は、役所側が隠そうとしている事実を明らかにし、正しい方向に国民を導いていく記事を提供することであるはずです。そうだとしたら、この記者クラブ制度というのは日本のマスコミをダメにしている制度であると思われます。

以下の本を見つけたので、早速購入してみました。
ジャーナリズム崩壊 (幻冬舎新書 う 2-1)
上杉 隆
幻冬舎

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著者の上杉氏は、NHK記者をスタートに、鳩山邦夫議員の公設秘書を経験し、ニューヨークタイムズ東京支社取材記者を経て、2001年からフリーランスのジャーナリストとなった人です。

ニューヨークタイムズ記者時代、上杉氏は記者クラブに加盟せずに取材を行っていました。本書は、このときの経験を中心に、日本のマスコミと日本以外のマスコミの相違点をクローズアップした内容といったらいいでしょう。

私としては、「記者クラブ」に依存する日本マスコミの病理を、内部から描写してくれるとありがたかったのですが、そうではなく、ニューヨークタイムス記者、フリーランス記者として記者クラブを外部から観察した書物になっています。それでも、外部からみたときに、日本の記者クラブ制度というものが、いかに世界の非常識になっているのか、という点についてはよくわかりました。

ニューヨークタイムスは記者クラブに加盟していません。そのため、記者クラブ主催の記者会見には出られないか、出られても質問できないオブザーバーとしてだけです。記者クラブに加盟するためにはスタッフをクラブに常駐させなければならず、ニューヨークタイムス東京支局規模ではそれは不可能です。

ニューヨークタイムスのクリストフ東京支局長が、ときの小渕総理とのインタビューを試み、首相官邸は単独取材を了承します。ところが最後の段階で小渕事務所が「内閣記者会にはそちらから連絡し、了解を取ってほしい」と言われるのです。この国では、首相インタビューの際になぜか同業者の許可がいるのです。内閣記者会は了解を出しませんでした。クリストフ氏は日本嫌いになって帰国しました。

このように、日本のマスコミ界は海外の同業者の足を引っ張ることしかしません。日本びいきで日本にやってきたジャーナリストが、帰国するときには日本嫌いになっている、ということです。

大手メディアの社員である記者は、そのメディアが記者クラブに所属していますから記者クラブを通しての情報にアクセスできます。そのような記者が権力に立ち向かうような記事を書いて「出入り禁止」になったらどうでしょうか。本来なら記者の勲章の筈ですが、大手メディアではなぜか「ダメ記者」の烙印が押されてしまうのです。当然ながら、批判的な記事を書く政治記者は減り、当局と一体化した者が幅を利かせるようになります。

記者クラブ問題については当のメディアがほとんど情報発信しないので、その実態は闇に包まれています。記者クラブの実態を内部からえぐるような書籍があれば読んでみたいです。

また、上杉著における日本と欧米の記者比較は面白いです。
ニューヨークタイムスの記者は、「ジャーナリスト」として大成することを目標としています。決して新聞社の経営者になりません。もしニューヨークタイムス経営者になるのであれば、「記者」としての資格を捨てる必要があります。記事は、必ず記者の署名がなければなりません。
事件報道の速報を競うのはAPや共同通信の仕事であり、ニューヨークタイムス記者は速報を追わず、事件の深層を探ることに注力します。

これに対し日本メディアの記者は、昇進してデスクから経営者への道を目指します。また、政治部であれば担当する政治家を出世させることが目標となります。従って、ジャーナリストとして優れた記者は政治部では生き残れません。「日本の記者はジャーナリストではない」ということになります。
日本の記者は常に迅速に記事にすることが要求されています。
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