弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

平成18年度法改正説明会テキスト

2006-06-27 00:02:54 | 知的財産権
特許庁から、平成18年度法改正説明会テキストが発表になりました。
法律の名称は「意匠法等の一部を改正する法律」ですが、特許出願を主な業務とするわれわれに関係するのは特許法の改正部分です。
以前にも1回、特許法の改正内容を紹介しました
今回のテキストに沿って見ると、実務に特に影響するのは次の3点です。
(1) 分割出願可能時期が増える(特許法44条)
(2) 分割出願での補正可能範囲が狭まる(特許法50条の2、17条の2第5項)
(3) シフト補正が禁止される(特許法17条の2第4項)
以下、順番に見ていきます。

(1) 分割出願可能時期が増える(特許法44条)
特許査定・拒絶査定から30日以内についても、分割出願が可能となります。
従来、拒絶査定を受けた後、拒絶査定不服審判を請求して併せて補正を行おうとしても、限定的減縮範囲でしか補正ができませんでした。分割出願するだけのために審判請求することもありました。
これからは、審判請求せずに分割出願のみを行うことが可能となります。

やはり以前触れたのですが(ここここ)、審判請求時の補正が限定的減縮要件を満たしていないと審判の中で認定されたとき、審判請求が棄却され、この場合は改正法でも分割出願のチャンスも与えられません。
拒絶査定不服審判は、審判請求時の補正可能範囲が狭いし、補正要件違反をすると取り返しがつかないということです。それであれば、新法のもとでは、拒絶査定を受けたら審判請求するよりも分割出願した方が賢いかもしれません。要検討です。

今回、新法の適用時期が明らかになったのですが、査定後の分割出願が認められるのは、新法施行後の出願からなのですね。これは意外でした。新法施行前の出願について適用を認めても不都合はないように思うのですが。

(2) 分割出願での補正可能範囲が狭まる(特許法50条の2、17条の2第5項)
「この審査官は厳しすぎるから、拒絶を受けているクレームについて分割出願で最初から審査し直そう」と考えて分割出願することがあります。これからはこのような場合、分割出願での審査でいきなり「最後の拒絶理由通知」相当がされてしまうことになります。

(3) シフト補正が禁止される(特許法17条の2第4項)
これがなかなか厳しいです。
[類型1]
(特許請求の範囲)請求項1:発明A
(明細書)発明Aと発明B(AとBは「単一性要件」に違反)
発明Aについて拒絶理由通知を受けた場合、Aを削除して明細書中からBを持ってきてクレームアップすることができません。

[類型2]
(特許請求の範囲)請求項1:発明A
         請求項2:発明B
(明細書)発明Aと発明B(AとBは「単一性要件」に違反)
拒絶理由通知で、「発明Aは進歩性なし、発明AとBは単一性要件を満たさないので、Bについては審査していない」との通知を受けた場合、Aを削除してBのみを残す補正が許されなくなります。

ここで「単一性要件違反」とは、「発明Aと発明Bは違いすぎるので、ひとつの出願の中で特許を与えることができない」とされるような場合です。

今回の法改正の趣旨はわかるのですが、それであれば、米国のように「選択指令」を出して欲しかったです。
類型2の場合、「発明AとBの両方を1出願に入れることができない」と判断されるのであれば、発明Aの特許化はあきらめ、発明Bのみを特許にしたかった、という場合は十分にあり得ます。
ところが、新法では、発明Aを削除して発明Bで特許を取ろうと思ったら、補正では対処できず、新たに発明Bについての分割出願をしなければならないのです。

これが米国であれば、審査の最初に発明AとBが単一要件を満たすかどうかの審査がなされ、満たさないと審査官が判断すると、「AとBのいずれかを選択しなさい」という指令が出されます。ここで出願人がBを選択すると、Bについて特許性の審査をしてくれるのです。
米国の方がずっとユーザーフレンドリーですね。
コメント
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