弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

裁判所の意見(特技懇)

2006-06-15 00:00:40 | 知的財産権
Nbenrishiさんのブログで、2つの論文が紹介されており、私もさっそく読んでみました。
いずれも、特許庁技術懇話会(略称「特技懇」)会報で昨年11月に発表された論文です。
第1は、知財高裁から見た特許審査・審判(知財高裁の篠原勝美所長)です。
第2は、東京地裁知財部から見た特許審査・審判(東京地裁 市川正巳判事)です。

特技懇の論文ということで、特許庁の審査官・審判官を読者に想定しての論文ですが、知財高裁(主に審決取消訴訟、侵害訴訟の控訴審を担当)と地裁(侵害訴訟の第1審を担当)で活動する裁判官の生の声を表明したものであり、特許実務者には有益です。審決取消訴訟は弁理士が単独で訴訟代理人を受任する機会も多く、そのような人には特に有益と思います。

1.知財高裁から見た特許審査・審判
(1) 請求項の発明の解釈(侵害訴訟と審決取消訴訟の違い)
この点は裁判関係者から繰り返し説明されている事項ではありますが、よく理解しておく必要があるでしょう。
・特許侵害訴訟 → 「特許発明の技術的範囲」
・審決取消訴訟 → 「発明の要旨」
と言葉を使い分けています。
審決取消訴訟における発明の要旨の認定は、リパーゼ判決を受け、特許請求の範囲の記載に基づいて認定され、発明の詳細な説明の参酌は例外的にしか許されません。
一方、侵害訴訟における特許発明の技術的範囲の認定においては、広く解釈されたり(例えば均等論)、狭く解釈されたり(例えば機能的抽象的クレームの解釈)されます。

(2) 集中審理、計画審理
「平成14年に審決取消訴訟事件が数年前の2倍以上に急増した事態を踏まえ、・・・協議、研究を行い、その結果を集中審理方式として公表し、すでに実践に移している。」
ということで、事件数の増大に対応することが目的だったのですね。
この点については、ぜひとも拙速で誤った判断を下さないように、知財高裁には慎重な対応をお願いしたいと思います。何しろ審決取消訴訟は実質的に「一審制」ですから。

(3) 大合議制
「従来、東京高裁では、各部ごとの独立性が高く、いわば「チャイニーズウォール」(情報の壁)があって、蛸壺状態とも揶揄されていたが、大合議制が導入された知財高裁では、これが変容し、透明性が高くなったことも、新制度のもたらした大きな収穫といえよう。」
そういう事情があったのですか。それは良かったです。

(4) 審決取消訴訟における差し戻し決定(特許法181条2項)
無効審判で特許を無効にする審決が出され、特許権者が審決取消訴訟を提起し、訴え提起から90日以内に訂正審判を請求すると、裁判所は差し戻しのために審決を取り消すことができます。
差し戻しの審判で再度特許を無効とする審決が出され、二度目の審決取消訴訟が提起され、再度訂正審判が請求されると、またまた差し戻し決定がされます。これではきりがありません。この点について知財高裁篠原所長も問題視しています。
「繰り返し訂正審判請求が許されるのかという問題も想定される。
特許庁の運用にもよるが、知財高裁としては、改正法の趣旨・目的を踏まえつつ、早晩、適切な実務を形成していくことになろう。」
この点はぜひお願いしたいです。

2.東京地裁知財部から見た特許審査・審判
審査官・審判官に対し、侵害訴訟に配慮した審査審判をお願いしたいとの観点から、以下のことを書かれています。
「機能的クレームについても、これだけ少ない実施例でこれだけ広いクレームでよいのかとの疑問が当然生ずるはずである。」
「クレーム解釈に当たり・・・、出願経過を考慮するのが実務である。
対立が激しい事件で拒絶理由通知やそれに対する意見書を読んでいると、拒絶理由通知に対して意見書が十分答えていないにもかかわらず特許査定されているのではないかと思われる事例がある。」
「化学の広い範囲のクレームなのに、それを裏付ける実施例がわずかしか記載されていないなど、特許法36条違反ではないかと強く争われる事件が依然として存在している。」

進歩性を中心とする特許性判断については、地裁・知財高裁あわせて、別に述べることにします。
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