弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

IPDLの有料化

2006-06-09 00:04:34 | 知的財産権
6月8日の朝日新聞に特許出願「量より質」厳選を知財本部提言へという記事が載っています。

その要旨は「日本の企業は何でもかんでも日本で特許出願し、その中で特許を得るのは少数、外国で権利化するのはさらに少数である。一方ですべての特許出願は原則出願から1年半で公開され、特許庁ホームページ(IPDL)からダウンロードできる。中韓の企業からのアクセスは一日5万件以上に達し、中韓企業が製品化に利用している事実も確認している。特許出願による技術流出を防ぐため、特許出願を厳選しよう」というものです。

公開公報を特許庁ホームページで公開していることが日本の産業発達を阻害しているのだとしたら、公開の形態そのものを見直すべきです。特許法第1条の法目的から逸脱する結果を招いているのですから。
一方で、公報をインターネットで入手できる現状は、日本の産業発達にも大いに寄与しているし、発明を志す個人に計り知れないメリットを与えているのも間違いないと思います。
ここは、外国企業にアクセスされるデメリットと、自国民が得ている利便とを天秤にかけ、最適な方向を見つけていくべきでしょう。
もしデメリットの方が大きいという結論に至るのであれば、IPDLダウンロードを有料化するというのはどうでしょうか。

IPDLの有料化によって外国企業のアクセスが減ることによるメリットと、有料化によって自国民が被るデメリットのバランスはどうなるのか、その辺をシミュレーションしながら料金が決まることになるでしょう。

一つ問題があります。日本の公開公報がただで閲覧できるのは、特許庁IPDLのみではありません。EPCのサイトでもダウンロードすることができます。だとすると、日本特許庁だけ有料化しても問題は解決しないかもしれません。

そもそも、「自由公開することによって日本国民が得る利益が、外国企業に見られることによる日本国民のデメリットを上回っている」という結論に至る可能性も高いのですから。

知財本部の提言は、「外国で権利取得しない発明については、日本に特許出願するのを止めよう」ということです。IPDLから外国にダウンロードされる弊害を防止する対策としては、ちょっと違うのでは、と思います。
出願を減らして審査の遅れを回復することが真の目的で、隠れ蓑として技術流出の弊害を主張しているだけではないか、という気もします。

また、今年の法改正の内容として昨年話題になった「先使用権の拡大」(特許庁に発明を届けておけば、その届け出より後の他人の出願に係る特許権(おなじ発明)に対して実施権を有する)についても、その提案の動機はやはり出願公開が外国を利する、というおなじ理由でした。
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