大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2021年10月03日 | 創作

<3546> 写俳百句 (83) モズ 鵙 百舌鳥

            百舌鳴けり聞こえよがしの天下かな

            

 晴れ渡った空の下、木の枝や電線などにとまって鋭い声で鳴くモズの季節がやって来た。その鳴き声は聞く者の耳に響き、その存在を意識させる。同じように枝先にとまって囀る春のホオジロとは春秋の違いにもよるが、全く趣を異にする。

 それは、一つに食の違いによるのだろう。嘴を見ると何となくわかる。草木の実や虫などを啄むホオジロと昆虫のほか両生類や爬虫類も食べる肉食のモズの違いがその嘴に現れている。モズのそれはタカやワシのような猛禽類に近く鋭い。この違いが鳴き声にも現れているのだろう。麗しいホオジロに比べ、モズのそれは猛々しく聞こえる。

 ともに留鳥で、年中見かけるが、ホオジロは春から夏、モズは秋から冬にかけて活発な感がうかがえる。ところで、モズは『万葉集』に登場するが、ホオジロは登場を見ない。モズが詠まれた歌は、例えば、巻十の「鳥を詠む」の中に見える。2167番の歌で、「秋の野の尾花が末に鳴く百舌鳥(もず)の声聞くらむか片聞く吾妹(わぎも)」とある。独特の鳴き声を詠んでいる。麗しい声のホオジロの姿は見えない。

 モズは繁殖期以外単独で過ごし、猛々しいけれども、孤独な一面も見せる。激しく囀ったり鳴いたりするのはオスという認識があるが、モズはオスもメスも猛々しく鳴くというのを知った。それにしても、鳥の鳴くという行為は鳥の意思の現れと思える。それが本能的なものであろうが、なかろうが、そう思える。秋はモズの鳴き声とともに深まって行く。 写真は左がオス。右がメス。

 鵙の声大和国中晴れ渡る