<2229> 大和の花 (432) カラスザンショウ (烏山椒) ミカン科 イヌサンショウ属
日当たりのよい二次林の林縁などで普通に見られる落葉高木で、大きいもので高さが15メートル、幹は直径60センチほどになり、傘を開いたような樹形の傘状樹冠で知られる。樹皮は灰褐色で、短い刺があり、古木になると、刺がなくなり、刺の基部の突起が疣状に多数残る。新枝は緑色を帯び、これにも短い刺がある。葉は長さが30センチから80センチの奇数羽状複葉で、小葉は長さが5センチから15センチの長楕円状披針形で、7対から15対つく。先は尾状に鋭く尖り、基部は円形。縁には鈍鋸歯があり、裏面は粉白色で、油点が見られる。葉は枝の上部に集まってつき、傘になる。
雌雄異株で、花期は7月から8月ごろ。枝先、つまり、開いた傘のような葉の上側に10センチから20センチの散房花序を出し、緑白色の小さな花を多数密につけ、樹冠を飾る。花弁、萼片はともに5個で、雄花では雄しべが5個。雌花では緑色の子房、柱頭が目につく。蒴果の実は3個に分果し、冬に入ると熟して裂開し、黒い球形の種子が現われる。
本州、四国、九州、沖縄に分布し、朝鮮半島南部、中国、台湾などに見られるという。大和(奈良県)では普通に見られ、冷温帯下部の深山でも見かける。森林のギャップ(隙間)などにいち早く生え出す陽樹の一つとして知られる。カラスザンショウ(烏山椒)の名はサンショウ(山椒)に似ているが、利用価がないことによると言われるが、古くはオオタラ(大楤)と呼ばれ、地方名にもクマダラ(熊楤)、オトコダラ(男楤)といった名が見られるように、幹に刺があり、葉が複葉であるウコギ科のタラノキ(楤の木)に擬せられてその名があったという。
どちらの名も然りであるが、利用価値は結構あって、黄白色の材は、キリ(桐)に似て軽く軟らかいので下駄などに利用され、ところによってはヤマギリ(山桐)とも呼ばれて来た。 また、生薬名を食茱萸(しょくしゅゆ)と称する薬用植物としても知られ、実を煎じて健胃薬に用いて来た。 写真はカラスザンショウ。左から花を咲かせた傘状樹冠、花の枝々、花序のアップ(上北山村ほか)。 春を待つものに日の差し庭の面
<2230> 大和の花 (433) イヌザンショウ (犬山椒) ミカン科 イヌザンショウ属
林縁や川筋などに生える落葉低木で、高さは1メートルから3メートルほどになる。樹皮は灰緑色で、若い枝は緑色から赤褐色まで変化がある。刺は対生状につくサンショウ(山椒)に対し、1個ずつ互生してつく違いが見られる。葉は10センチから20センチの奇数羽状複葉で、小葉は長さが2センチから5センチほど。広披針形乃至は長楕円形で、先は細くなって尖り、基部はくさび形、縁には鈍鋸歯が見られ、数対から10対ほどつく。
雌雄異株で、花期は7月から8月ごろ。枝先に長さが3センチから8センチの散房状花序を出し、黄緑色の小さな花を多数密につける。蒴果の実は3個に分果し、分果は直径数ミリの球形で、秋になると褐色に熟し、裂開して球形の黒い光沢のある実を現わす。
本州、四国、九州に分布し、朝鮮半島、中国にも見られるという。大和(奈良県)ではほぼ全域で見られるが、個体数はあまり多くないと言われる。イヌザンショウ(犬山椒)の名はサンショウ(山椒)に似るが、役に立たないと見られていたことによる。しかし、「サンショウのような芳香がないので、その代用にはならないというだけのこと」とも言われ、枝葉や実は利用されて来た。
まず、枝葉や実を乾燥し、薬用として、煎じ服用すれば咳止めによいとされ、乾燥した葉を粉末にして卵白と練り合わせ打撲傷の患部に塗布して来た。また、実からは灯火用の油も採った。 写真はイヌザンショウ。左から川岸で花を咲かせる個体、花をつけた枝木、花序のアップ(野迫川村、曽爾村、十津川村)。 乞ふ身この待つ身この身の早春賦
<2231> 大和の花 (434) サンショウ (山椒) ミカン科 サンショウ属
丘陵や低山の林内や林縁のやや湿り氣のあるところに生える落葉低木で、高さは1メートルから5メートルほどになる。樹皮は灰褐色で、刺や疣状突起があり、ごつごつとして見える。若い枝は緑色または赤褐色で、葉柄の基部に長さが1センチ前後の赤褐色の刺が対生状につく特徴がある。葉は長さが5センチから20センチ弱の奇数羽状複葉で、葉軸にはわずかな翼が見られる。小葉は長さが1センチから4センチ弱の卵状長楕円形で、先はあまり尖らず、縁には波状の鋸歯があり、若葉には短い刺がつくこともある。
雌雄異株で、花期は4月から5月ごろ。枝先に数センチの円錐花序を出し、淡黄緑色の小さな花をつける。雄花は雄しべが花被より長く外に突き出し目につく。雌花は子房が2個で、花柱は離生する。野生の雌株は非常に珍しいと言われる。蒴果の実は2個に分果し、分果は球形で、秋に赤褐色乃至は紅色に熟し、裂開して光沢のある黒い楕円状球形の種子を1個現わす。熟した実は鮮やかに見える。
北海道、本州、四国、九州に分布し、朝鮮半島、中国にも見られるという。大和(奈良県)ではほぼ全域に見られ、イヌザンショウよりも多く、植栽もとくされる。これは利用価値が大きいためで、実の大きい兵庫県但馬地方産のアサクラザンショウ(朝倉山椒)は名高い。まず、新芽と若葉は木の芽と呼ばれ、薬味として和え物、田楽などに用いられる。京都鞍馬の木の芽漬けはよく知られる。
また、雄花は花山椒、青い未熟の実は実山椒と呼ばれ、佃煮に。熟した実を粉末にしたものは粉山椒と呼ばれ、これはウナギの蒲焼きに欠かせない香辛料として広く用いられている。ほかにも、「山椒は小粒でぴりりと辛い」と言われるように、七味唐辛子にも入れられる。一方、材質は堅く折れ難いので、幹はすりこぎにされることが多い。薬用としては、健胃に果皮の粉末を服用し、水虫や皮膚のかぶれには果皮の煎汁を患部に塗布し、腐敗防止には実を用いるといった具合である。
なお、サンショウ(山椒)の名は、椒が実の辛いものを指し、山の辛い実の意によると言われる。サンショ、ハジカミの別名でも知られる。漢名は蜀椒、秦椒。 写真はサンショウ。左から花どきの雄株、雄花を咲かせる若枝、ヒョウモンチョウの来訪を受ける雄花、熟した実が紅く彩る雌株。植栽起源か(曽爾村、十津川村)。 早春賦あなたの幼きころの頬