大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2018年02月20日 | 植物

<2244> 大和の花 (443) クマシデ (熊四手)                                          カバノキ科 クマシデ属

       

 日当たりのよい明るい山地の谷筋などに生える落葉高木で、高さは10数メートルほどになる。樹皮は濃い褐色で、若木は滑らかであるが、老木になると裂け目が出来る。新枝には毛が密生し、次第になくなる。葉は長さが5センチから10センチほどの長楕円形で、先は細くなって尖り、基部はやや心形。縁には重鋸歯があり、側脈がはっきりしていて20対から20数対に及ぶ。1センチ前後の葉柄を有し、互生する。

 雌雄同株で、花期は4月ごろ。葉の展開直前かほぼ同時に開花する。雄花序は前年枝に垂れ下がり、長さは3センチから5センチほどで、多数の花がつく。花にはそれぞれ笠のような苞があり、下向きに咲く。雌花序は本年枝の先か短枝腋に垂れ下がる。雌花も苞をともない下向きに咲く。雌花の基部には小苞があり、花の後、大きく成長し、内側に種子を抱き、重なって葉状の果穂となる。果穂は10月ごろ熟し、茶褐色になる。

 本州、四国、九州に分布する日本固有の植物として知られ、西日本に多く、大和(奈良県)では主に紀伊山地に分布する。クマシデ(熊四手)の名は、果穂が太くて大きいのを熊に擬え、雄花序が枝々に多数垂れ下がるのを神前で用いる玉串などにつける細長い紙飾りの四手に見立てたことによる。材は極めて堅く、器具材や薪炭材にされ、こお材の堅い特徴によりイシシデ(石四手)、カタシデ(堅四手)の別名でも呼ばれる。

  写真はクマシデ。左から花どきの樹冠(枝木に花をいっぱい垂らせる)、花序のアップ、枝木に垂れ下がる多数の果穂、熟して茶褐色になった果穂群の樹冠(いずれも紀伊山地)。   そこここに春の扉を開くもの 川面の光芽吹きの草木

<2245> 大和の花 (444) イヌシデ (犬四手)                                       カバノキ科 クマシデ属

             

 山地の二次林内や林縁、丘陵などに生える落葉高木で、高さは15メートルほどになる。樹皮は濃緑褐色で、白い縦条の模様が目立つ。老木では割れ目が入る。新枝は淡緑褐色で、白毛が密生する。2年以降の古い枝は淡赤褐色で、丸い皮目が目立つ。葉は長さが5センチから8センチほどの卵状長楕円形で、先は鋭く尖り、基部は普通広いさび形。縁には重鋸歯が見られる。側脈は裏面に突起して12対から15対で、クマシデの半分ほどと少ない。

 雌雄同株で、花期は4月から5月ごろ。葉の展開と同時に開花する。雄花序は淡緑褐色から黄褐色。長さは5センチから8センチほどで、前年枝に垂れ下がる。雄花は苞の笠の下に1個ずつつき、花序には多数つく。雌花序は本年枝の先や短枝の腋から伸び出し葉芽と一緒に現われ、花が開くころには下向きになる。実は果穂となって垂れ下がるが、クマシデのように固まらず、葉状の果苞がほぐれて重なり合い、果苞の一つ一つの基部に堅果が内包されている。果苞は半長卵形で、外縁には不揃いの鋸歯が見られ、内縁には鋸歯がない特徴がある。堅果は10月ごろ熟し、果穂は淡褐色になる。

 本州の岩手県と新潟県以南、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島、中国に見られ、大和(奈良県)ではほぼ全域で普通に見られる。アカシデ(赤四手)と分布域が重なり、紛らわしいが、イヌシデは葉柄に毛の多いことで区別出来る。材質は堅く、建築や器具の部材に用いられる。 写真は左から花を咲かせる古木、垂れ下がる雄花序と葉の展開と一緒に咲き出す雌花序(雄花は既に花粉を出し終わっている)、垂れ下がる緑色の若い果穂(五條市の金剛山麓ほか)。   縁とは血縁地縁時の縁果して我らは縁のうから

<2246> 大和の花 (445) アカシデ (赤四手)                                            カバノキ科 クマシデ属

         

  山地の渓谷沿いや山間地の川岸などの少し湿ったところに生える落葉高木で、高さは15メートルほどになる。樹皮は暗灰褐色で、滑らか。老木には縦に筋状の窪みが出来る。新枝には伏毛が生え、古枝には楕円状の皮目が入る。葉は長さが3センチから7センチほどの卵形乃至は卵状楕円形で、先は尾状に尖り、基部は円形。縁には不揃いの重鋸歯が見られる。側脈は7対から15対で、イヌシデに似るところがあるが、若葉が紅色を帯びることが多く、花の時期に樹冠が赤く見えるのでこの名がある。

 雌雄同株で、花期は4月から5月ごろ。葉の展開とほぼ同時に開花する。雄花序は長さが4センチから5センチで、前年枝に垂れ下がり、雄花の苞は紅色を帯び、明るい感じを受ける。雌花序は本年枝の先や短枝につき、雌花も紅色を帯びた苞がある。実は堅果で、葉状の果苞がまばらに重なる果穂は長さが4センチから10センチほどでイヌシデの果穂に似るが、果苞が本種では基部で3裂し、熟すと赤みが強くなる違いがある。

 北海道、本州、四国、九州に分布し、朝鮮半島から中国にも見られるという。大和(奈良県)では全域に見られ、花どきには一見してそれとわかる。用途は庭木のほか盆栽にもされる。写真はアカシデ。左から山地の谷筋で春の訪れを告げる個体、花と若葉で赤く見える樹冠、枝木一面に垂れ下がる雄花序、赤褐色に色づく果穂。   まだ寒し日に励まされ梅の花