大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2016年11月23日 | 植物

<1790> 余聞・余話 「植物の分類について (2・勉強ノートより)」

      言葉とは意味を伴ひそれぞれの思ひに添へる役目とはなる

  前項においては植物界の階級による分類の仕方を見て来た。種々の植物はこのいずれかの階級に属するわけで、植物種群の分類においては科と属が重視され、殊に科による分類が一般にはよく用いられている。次は系統による区分を見てみたいと思う。

  下等植物(進化過程の低い段階にある植物)―――ユレモ、アオノリ、ゼニゴケ

  高等植物(進化段階が進んでいる植物)―――――ワラビ、アカマツ、ヤマザクラ

 具体的に言えば、高等植物はシダ植物、裸子植物、被子植物からなる維管束植物を言うが、下等、高等は相対的な表現で、被子植物のみを高等植物とする見方もある。次に言われる分類には植物体の体制から見た違いによる区分がある。

  葉状植物(維管束を有しない植物)―――――――ユレモ、アオノリ、ゼニゴケ、二ワスギゴケ

  維管束植物(維管束を有する植物)―――――――ワラビ、アカマツ、ヤマザクラ

 具体的に言えば、維管束植物はヒカゲノカズラ植物、トクサ植物、シダ植物、裸子植物、被子植物を言う。この中で、ヒカゲノカズラ植物、トクサ植物、シダ植物は下等維管束植物として扱われる。なお、維管束とは、根から水と無機養分を運ぶ管である道管と光合成によって葉などで作られた炭水化物などの有機養分を運ぶ師管を束ねたものである。この維管束を有するということは、植物中に根と茎(幹)と葉を働きとして持っていることを意味する。次は花の有無による区分がある。

                     

  隠花植物(花をつけない植物)――――――――――---ユレモ、アオノリ、ゼニゴケ、ヒカゲノカズラ、トクサ、ワラビ

  顕花植物(花や球花をつける植物――――――――――アカマツ、ヤマザクラ

 具体的に言えば、顕花植物は裸子植物(例、アカマツ)と被子植物(例、ヤマザクラ)を言う。ただし、顕花植物を被子植物に限定して用いる考えもある。また、種子の有無による区分がある。

  胞子植物(種子をつくらない植物)――――――――-----アオノリ、ゼニゴケ、ワラビ

  種子植物(種子をつくる植物)――――――――――-----アカマツ、ヤマザクラ

 種子植物の中で、心皮を持たず、種子(胚珠)が裸出する植物を裸子植物(例、アカマツ)、種子(胚珠)が果皮(心皮)に被われている植物を被子植物(例、ヤマザクラ)という。裸子植物はソテツ類、イチョウ、針葉樹、マオウ類の約700種のほか、幾種かの化石植物がある。裸子の形質は被子への進化段階にある植物と見られている。被子植物は双子葉植物と単子葉植物とに区分される。因みに、被子植物は、現在、世界に26万種と推定されている。

  双子葉植物 (被子植物中に胚における子葉が2個の植物、例外がある)――ースミレ、ヤマザクラ、キキョウ、ヤマツツジ、

  単子葉植物(被子植物中に胚における子葉が1個の植物)―――――――――アヤメ、スズタケ、サルトリイバラ

 このように分類して見ると、私が進めている「大和の花」は、主に維管束植物中の顕花植物ということになる。 写真は被子植物のヤマザクラ(左)と裸子植物のアカマツ(右)

 


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2016年11月22日 | 植物

<1789> 余聞・余話 「植物の分類について(1・勉強ノートより)」

      生きものは自然の秩序とバランスのもとにみなそれぞれにあるなり

 まず、植物は生物に当たる。生物は以下のごとく5界に分けられる。植物は葉緑素をもち、光合成を行ない、酸素を放出する生物と定義づけられている。寄生植物や腐生植物は二次的要因によって葉緑素を失った植物であり例外に当たるが、以上のような定義による。要するに、葉緑素による光合成が植物の必要条件としてある。この点からして、植物は5界のうち植物界のみならず、原核生物界、原生生物界にもわたるとされている。

 1、原核生物界=藍色藻類、原核緑藻類

 2、原生生物界=灰色藻類、紅色藻類、クリプト藻類、黄色藻類、ハプト藻類、渦鞭毛藻類、ミドリムシ藻類、クロララクニオン藻類、緑色藻類

 3、菌界

 4、植物界

 5、動物界

 つまり、1、2の藻類を植物と置き換えて呼んでもよいという。ただし、植物は植物界に属する有胚植物のみとする見解や、1、2の藻類は葉緑体の構造の違いから別の界として独立させる説も出ている。では、次に植物界の階級による分類を見てみたいと思う。最上位の分類群が界であり、次のようになっている。ヤマザクラを例に見ると次のようになる。

       

  界 (亜界)    植物界                (有胚植物亜界)

  門 (亜門)    被子植物(モクレン)門 

  綱 (亜綱)    双子葉植物(モクレン)綱       (バラ亜綱)

  目 (亜目)    バラ目              (バラ亜目)

  科 (亜科)    バラ科              (サクラ亜科)

  連 (亜連)    サクラ連  

   (亜属)    サクラ属             (サクラ亜属)

  節 (亜節)    サクラ節

  列 (亜列)    

   (亜種)    ヤマザクラ

  変種 (亜変種)  

  品種 (亜品種)  ウスゲヤマザクラ

 「現生のわかっている植物種は必ずいずれかの属、科、目、綱、門、界に属し、学名が与えられている。そのほかの階級は、必要に応じて用いられる」(『植物用語事典』清水建美著)という。種名には命名者を付記するようになっている。例えば、日本の固有種であり、日本人の手によって記載された最初の植物として知られるアカネ科(旧ヤマトグサ科)の和名ヤマトグサ(大和草)の学名は発見者とその協力者である牧野富太郎と大久保三郎の名が付記されている。つまり、ヤマトグサの学名は「Theligonum japonica(Okubo et Makino)」となっている。なお、「大和の花」における分類は『山渓ハンディ図鑑』を主に参考にしている。  写真はカットで、ヤマザクラ(左・天川村)とヤマトグサ(右・金剛山)。


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2016年11月18日 | 植物

<1785> 大和の花 (86) ギシギシ (羊蹄)                                                    タデ科 ギシギシ属

                                                         

  全国各地の道端や川岸、原野などの少し湿り気のあるところに生える多年草で、在来と外来が見られ、最近は外来のナガバギシギシ(長葉羊蹄)、アレチギシギシ(荒地羊蹄)、エゾノギシギシ(蝦夷の羊蹄)などが勢力を広げている。在来のギシギシは高さが1メートルほど。葉は長楕円形で波打つが、在来と外来で波の打ち方が異なり、在来のギシギシでは大きく、外来の方は細かい特徴が見られる。

  ギシギシの花期は6月から8月ごろで、茎の上部に総状花序を多数出し、淡緑色の小花を輪生状に密につける。小花はそれぞれに内花被片が翼状に広がり、真ん中には実が含まれ、そこが膨らむ。ギシギシでは翼が広卵形になり縁に粗い鋸歯がある。羊蹄(ようてい)は漢名で、和名はこれをギシギシと読ませている。これは実が膨らむ内花被片の形に羊の蹄(ひづめ)を連想したのだろう。これをギシギシとは奇妙な名であるが、これも花序につく多数の花と実の姿に由来するのではないかと想像される。つまり、ギシギシは「ぎちぎち」と同じく、いっぱいで密に咲く花や実がついている「ぎっしり」の意から来ていると察せられる。

  ギシギシは仲間のイタドリ(虎杖)やスイバ(酸葉)ほどではないが、昔は暮らしに身近な植物としてよく利用されて来た形跡がある。瑞々しい若芽は食用にされ、黄色く粗大な根は羊蹄根(ようていこん)と呼ばれ、薬用植物の大黄(だいおう)の代用として下剤に用いられた時代があった。いんきん、たむしなどの皮膚病にも根を摺り下ろして患部に塗った。また、染色にも利用され、鉄媒染によってネズミ色を得たと言われる。写真は花を咲かせるナガバギシギシ(左)と花の後、翼状に広がる実を抱いた内花被をびっしりつけたギシギシ。   和のこころ障子に差せる冬日かな

<1786> 大和の花 (87) スイバ (酸葉)                                             タデ科 スイバ属

           

  路傍や田んぼの畦など身近なところに見られるギシギシの仲間の多年草で、全国的に分布し、北半球の温帯に広く見られるという。茎の高さは大きいもので1メートルほど。葉は長さが10センチほどになる長楕円状披針形で、基部はやや切り形になり、茎の上部につく葉は茎を抱く。この茎や葉にはシュウ酸が含まれ、酸っぱいので酸い葉の意によりこの名がある。多くの地方名にもスカンボ、シート、スイスイ、スイッパといったようにこの葉の酸味に由来してつけられた名が目につく。古名はスシで、これも「酸い」の古語「酸し」から来ている。学名の小種名も酸っぱい意によっている。

  漢名は酸模(さんも)で、漢方では根を干したものを酸模根(さんもこん)と呼び、これもシュ―酸を含む酸っぱい意による。これを煎じて服用すれば便秘に効能があると言われ、生の根を摺り下ろし、たむしなどの皮膚病の患部に塗ることはギシギシに似る。また、若芽をゆでて酸味を除き、和え物などにして食べた。スイバは今や全くの雑草であるが、昔は薬用食用にして来た身近な植物だったことが言える。ただ、生のものを多量に食べると下痢や嘔吐などの中毒症状を来たす恐れがあるので注意が必要とも言われて来た。戦後間もないころ、岡山の我が実家ではスイバの酸っぱい茎や葉を刻んで、潰した牡蠣殻に混ぜてニワトリに与えていた。

  花期は5月から8月ごろで、ギシギシに似て茎の上部に総状花序を出し、多数の小花を密につける。雌雄異株で、花どきには花序が淡緑色に見えるものと、赤っぽく見えるものとがあり、赤っぽい雌株は果期に入ると実を含む内花被が翼状に張り出し、その部分が鮮やかな紅色になるので美しく見える。花は夏が主であるが、季題は春である。

 写真は棚田の畦を被って咲くスイバ(左)。多数の花を咲かせる雌株(中)。ともに御所市で。内花被が翼状に張り出し赤味を帯びて美しい雌株の花序(右)。  冬日差す障子明かりに花図鑑開けば春のたけなはの花

<1787> 大和の花 (88) イタドリ (虎杖)                                                タデ科 タデ属

                             

  再びタデ属の紹介。全国各地の山野に見られる大型の多年草で、朝鮮、中国、台湾に分布。高さは1.5メートルほど。茎は中空で、表面には紅紫色の斑点が見られ、成長すると木質化し、低木状になる。葉は卵状楕円形で先が鋭く尖る。雌雄異株で、花期は7月から10月ごろ。分枝した多くの枝先や葉腋に花序を出し、小花を多数つける。小花の花被は白色から淡紅色まで微妙な違いが見られる。雌雄は見分け難いが、雄花では雌しべが小さく、雌花では雄しべが小さい。花の後、雌花は花被片3個が翼状に張り出し、実を包む。花や実が赤味を帯びるものはベニイタドリ(紅虎杖)、またはメイゲツソウ(明月草)と呼ばれる。

  アスパラガスの若芽に似る紅紫色の斑点があるイタドリの若い茎は春の山菜としてよく知られ、少し酸っぱいが、生で食べたり、塩漬けや味噌和えにして食べたりする。現代短歌にも「すかんぽのくきをかみつつともがきと明日香の里をたずねゆくなり」(松村健一)というような歌も見える。薬用としても認められ、「イタドリの名は痛取りから」という説があるほどである。転んで擦り傷をしたときなどに若い茎の汁を患部につけると出血が止まり、痛みも取れると薬草図鑑にはある。また、漢方では根を掘り取って干したものを虎杖根(こじょうこん)と称し、煎じて服用すれば、便秘やじんましんに薬効があると言われる。

  このようにイタドリは古来より有用植物として親近感を持たれて来た身近な庶民派の植物で、地方名の多いのも群を抜き、前述の短歌に見られるスカンポをはじめ、スカンボ、スッポン、カッポン、イタズリ、イタズロ、イッタンコ、スッポ、セージ、タンジ、サシトリ等々、植物の地方名をまとめた『日本植物方言成集』(八坂書房)によれば、その名は七百以上に及ぶ。まさに、その多いのはギネスものと言えるほどである。 写真は花を枝木いっぱいに咲かせるイタドリ(左)、ベニイタドリの若い実(中)、地中から伸び出した春の若芽(右)。   咲き残る花も枯れゆく時の瀬に

<1788> 大和の花 (89) イシミカワ (石見川)                                          タデ科 イヌタデ属

                                                  

  全国的に分布し、東アジア一帯に見られるタデの仲間のつる性1年草で、道端、田の畦、林縁などに生える。茎は2メートルほどに伸び、鋭い下向きの棘によって他の草や木に絡みつく。葉は三角形で互生し、葉柄は葉の基部に楯状につく。茎につく托葉鞘は葉のように広がり茎を囲んで円形になる。

  花期は7月から10月ごろで、茎の先端や葉腋に短い総状花序を出し、淡緑色の小花を10数個つける。花序の基部には葉のような円形の苞がつき、よく目につく。5裂する小花の花被は多肉になり、痩果(そうか)を包んで直径3ミリほどの球形になる。これが集合し淡緑色から紅紫色に移り、青藍色に変化して熟す。痩果は光沢のある黒色である。

 漢名は杠板帰(こうばんき)と称し、薬用植物として江戸時代のころから知られているが、イシミカワの語源については定かでない。杠板帰は中国で広く知られ、全草を日干しにし、煎じて服用し、利尿、解熱、下痢止めに用いて来た。また、腫れものには患部をこの煎汁で洗うのもよいという。 写真はイシミカワ。緑白色の花(左・茎には刺が見られる)と青藍色の花被に包まれた集合果(右・葛城山の林縁)。 霜月や刈田にありて鴉二羽

 

 

 


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2016年11月17日 | 写詩・写歌・写俳

<1784> 余聞・余話 「冬の月に寄せて」

       この月は果してデモの頭上にも戦火の頭上にも輝ける

 十二月十四日は月が最大に見えるスーパームーンの日だったが、残念ながら大和の空は一面雲に被われ、見ることが出来なかった。昨夜、台所に立っていた妻から大きな月が出ていると声がかかり、二日後の立待ちに当たる月を東の空に見た。完璧な冬晴れではなかったが、薄雲の間から見えた(写真)。意識していた所為か、少し欠けて歪な月に見えたが、何とはなし大きく感じられた。その月に冒頭の短歌が思い浮んだ。

                                  

 デモとはいま繰り広げられている韓国のデモであり、米国のデモである。ともに権力の横暴に居たたまれない国民や民衆が行動しているもので、大きなうねりとして騒然たる様相を呈している。この二つのデモには似て非なるところがあるが、根本には大統領という最高権力者の資質を問う共通点がある。韓国の方は朴大統領が深く関わる金権塗れのスキャンダルという現実への失望と怒りであり、米国の方は思慮に欠けた次期大統領トランプ氏の発言内容に対する未来への不安が起因している。選挙も一種の闘争であるが、デモも一種の権力に対する闘争の一面がある。

  韓国の場合は大統領が辞任すれば収まるし、米国の場合はトランプ氏が発言の撤回をして柔軟な政策に向えば、これも収まるデモである。だが、闘争の頂点にある権力者というのは権力を翳して戦う。その権力にノ―を突きつけて行なうデモが大きければ大きいほど闘争は激しさを増す通例、韓国の場合はまさにそれが言える様相にある。

 何にしてもこの騒動というのは人間関係に生じていることで、人間同士が何とか折り合いをつけなくてはならない問題であり、如何なる権力者たるも国民が納得しない非が大統領にあるからはそれを認めて然るべき措置をとらなければことは納まらない。韓国の場合、騒動を収める最善の方法は大統領の辞任しかあるまい。米国の場合は政策への訴えであるから政策如何によってデモは大きくも小さくもなる質のものであるからは、根本が同じデモでも、米国のデモは韓国のデモとは様相を異にするところがある。

 どちらにしても、関わりのない月は、何の思惑もなく私たちの頭上にあって私たちを照らしている。日本の月も韓国の月も米国の月も戦火に曝されている中東の月もみな同じく頭上にあって照り輝いている。スーパームーンは時が過ぎ、和の心において言えば、私が昨夜見上げた月は立待ちの月であり、今夜は居待ちの月である。地球人の中で、穏やかな気持ちで日々が過ごせ、この照り輝く月を見上げていられる穏やかな心持ちの持ち主がどれほどいるだろうと、そういうことも思われたりする次第である。

     冬の月心に抱くべし我ら

     騒擾の地球おもへば冬の月


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2016年11月13日 | 植物

<1780> 大和の花 (82) タニソバ (谷蕎麦)                                      タデ科 イヌタデ属

        

 山地の湿り気のある溝などに生える1年草で、全国的に分布し、朝鮮、中国、台湾、ロシア、東南アジア、アフガニスタン、インド等に見られるとう。大和(奈良県)で私が出会ったのは、標高800メートルほどのところから標高1500メートル付近の道端であった。タデの仲間だろうとは思われたが、はっきりしなかったので図鑑で調べ、タニソバ(谷蕎麦)とわかった。

 高さは40センチほど、暗紫色を帯びた茎はよく枝分かれし、横に広がる特徴がある。葉は互生し、卵形で基部はくさび形であるが、葉柄には翼があり、耳状に広がって茎を抱く特徴がある。花期は8月から10月ごろで、葉腋に小花が集まってつき、花は葉に乗っかるように見えるものが多い。小花の花被は4裂し、うっすらと紅色を帯びる。 写真は分枝して花をつけるタニソバ(左・中・大台ヶ原山で)と花のアップ(右・葉裏や花柄に点々と腺毛が見える。曽爾高原で)。     落葉散る落葉は役目を終へて散る

<1781> 大和の花 (83) ミヤマタニソバ (深山谷蕎麦)                              タデ科 イヌタデ属

                                                   

  山地の半日陰の地に群生して見える1年草で、本州、四国、九州に分布し、国外でゃ朝鮮半島に見られるという。大和(奈良県)では標高800メートルから1500メートル付近でよく見かける。高さが50センチほどになる足許の草花で、先が長く尖ったカイトのような三角状の葉が群がるので、登山道などで出会っても、間違うことはなく、それとわかる。葉の表面には八の字状の黒斑が入るのも特徴の1つである。

  花期は8月から9月ごろで、葉腋から二又の柄を出し、白色のミリ単位の小さな花を1~数個咲かせる。花弁はなく、白い萼が5裂した花をつけ、葉の上に乗っかるように咲くものが多い。この写真を見てもわかるように、まことに小さな可愛らしい花である。天川村の大峯奥駈道の標高1500メートル付近で撮影。    草も木も千差万別 花もまた地上における営みにあり

<1782> 大和の花 (84) クリンユキフデ (九輪雪筆)                            タデ科 イブキトラノオ属

                           

  山地に生えるタデの仲間の多年草で、茎は真っ直ぐ伸びて30センチ前後になる。根生葉と茎葉が見られ、根生葉は長い柄を有し、卵状心形。茎葉は柄がなく、茎を抱くようにつくものが目につく。花期は4月から6月ごろで、茎の先には3センチほど、葉腋には短い穂状花序を出し、白い小花を密につける。小花に花弁はなく、萼が5裂する。雄しべは萼より外に突き出る。

  クリンユキフデの名は、この白い萼の花を雪に見立て、穂状花序を筆と捉え、葉腋の花それぞれを合せて塔の九輪をイメージしたことによる。本州、四国、九州に分布し、朝鮮半島、中国に見られるという。大和(奈良県)では大峰山脈の標高1300メートルより上部の冷温帯落葉樹林下に自生しているが、自生地、個体数とも少なく、奈良県のレッドリストに絶滅危惧種としてあげられている。減少要因ははっきりしないが、シカによる食害が懸念されている。 写真はクリンユキフデの花(ともに弥山の登山道)。

    孤と自由 自由と孤の身や冬の室

 

<1783> 大和の花 (85) ハルトラノオ (春虎尾)           タデ科 イブキトラノオ属

            

  山地の林内に生える多年草で、冬場は日差しが当たるが、夏場はほとんど日の当らないようなところに小群落をつくって生える。高さは10センチから20数センチほど。くすんだ濃緑色の卵形の根生葉を有し、ときおり登山道の足許に見られる。花期は4月から6月ごろで、花は葉と別に独立した茎を伸ばし、先端に出した数センチの花穂に白い小花を集めて咲かせる。クリンユキフデと同じく小花には花弁がなく、5深裂する白い萼が目につく。雄しべが萼より外に伸び出し、花の姿を特徴づけるのもクリンユキフデに似るところである。

 本州の福島県以南、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では標高1000メートルから1500メートル辺りで見受けられるが、シカの食害や森林の伐採などの影響による環境の変化が減少の要因とみられ、奈良県のレッドリストには絶滅危惧種として見える。なお、名にトラノオ(虎の尾)とある草花は、花序にトラの尻尾をイメージしたもので、ほかにもタデ科の仲間のイブキトラノオ(伊吹虎の尾)があり、別種にサクラソウ科のオカトラノオ(岡虎の尾)、ノジトラノオ(野地虎の尾)、ヌマトラノオ(沼虎の尾)、ゴマノハグサ科のルリトラノオ(瑠璃虎の尾)、ヒロハトラノオ(広葉虎の尾)、ヒメトラノオ(姫虎の尾)などがある。 写真は葉の群がる中から花茎を出して白い花を咲かせるハルトラノオと花穂のアップ(ともに金剛山の山頂付近)。

  冬の室 開く図鑑の春の花