大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2016年11月11日 | 写詩・写歌・写俳

<1778> 余聞・余話 「米大統領選、トランプ氏の勝利に寄せて」

       個も全ももがく姿の日々にして絶えざるニュース今日もこの身に

 米国の大統領選は選挙人の過半数を獲得した共和党のトランプ候補が勝利し、米国は将来をトランプ氏に委ねることになった。連邦議会の両院議員選挙も同時に行なわれ、上院も下院も共和党が過半数を占める政治体制に移行することが決定的となり、8年続いたオバマ大統領による民主党政権にピリオドが打たれるに至り、大きな政治的変化が予想される状況になった。トランプ氏には批准の段取りで進められているTPP(環太平洋パートナーシップ協定)の破棄を宣言していることなど既に政治的変動の先行きを示す動きがあり、日本にも影響がもたらされる。

 この大統領選の結果は、無謀とも思われる数ある発言等によるトランプ氏のマイナスイメージにもかかわらず、既存の政治、或いは社会の状況に不満を抱く米国民の変化を求める思いがトランプ氏を選ばせたと見て取れる。クリントン候補の不人気もトランプ候補の勝利に繋がったが、根底には既存政治に対し変化を求める米国民の意向が強かったこと、これが選挙に反映したと見て取れる。選挙の結果は、クリントン候補の勝利を予想していた人々に米国民の真意というものが読めなかったことを示すところとなったわけで、これは一つの問題として問われなくてはならず、その要因は探る必要があると思われる。

                               

 現在、竜巻のごとく巻き起こっている大統領が深く関わる韓国のスキャンダル事件は、韓国社会の慣れ合った体質、即ち、民主主義から言えば、その病的とも思われる社会体質の表面化であり、病巣を取り除いて改造することが望まれる大問題だと言えるが、見方によっては韓国が真の民主主義国に脱皮するこの上ないチャンスとも受け止められる。このようなチャンスを生かさず終われば、韓国の未来はなお暗いと言わざるを得ない。混乱という産みの苦しみは免れないが、スキャンダルをスキャンダルに終わらせず、社会の進歩に繋げることが韓国には求められ、望まれることを韓国民自身認識しなければならないところに来ている。

 一方、最近話題になったのは、トランプ氏と同類のような見方をされているフィリピンのドウテルテ大統領の動向がある。何と言っても、ドウテルテ大統領には米国との政治的決別宣言を発したことが大きい。これは南沙諸島問題を含む隣接する中国への融和政策を言うものにほかならないが、大統領は中国を訪問してその意向を実行に移した。言わば、米国との蜜月関係を白紙に戻し、中国と仲良くすると意思表示したのである。これは国境の領土問題において中国と緊張関係にあるよりも、これを棚上げにし、仲良くした方がフィリピンには得策であると考えたからである。米国嫌いのドウテルテ大統領の心証が大きく影響していると見て取れるが、小国フィリピンの立場が垣間見られる決断でもあるように思える。

  このドウテルテ大統領の外交戦略は対立する南北の接線上に位置する我が国を含む国々における一つの試金石のようなもので、小国の外交的知略が見て取れる。大国の思惑によって国を二分し戦わねばならない世界の小国事情を見て来た経験則からして言えば、これは一つの考え方であると察せられる。どのように展開するのかわからないが、これはドウテルテ大統領のフィリピンが小国であるという認識と同時に、「一寸の虫にも五分の魂」的、国と国民を思う勇気であり決断であると見て取れる。この決断も世界情勢の中の一つの変化を求める姿だと受け止められる。

 先進国でも、その変化を求める様相は既に表面化している。英国のEU(欧州連合)からの離脱が示すように、現状の政治に国民は納得していない。まだ離脱には時を要するが、離脱後の欧州というのは不透明であると言わざるを得ない。グローバル化の世界において融和が進まず、民族や国家の意識が芽生え、自国本位や民族本位の仲間意識が強くなり、同時に排他的傾向が台頭し始めている。これは矛盾めくところであるが、世界はグローバル化とグローバル化による人種、民族、国家間の格差とともに個人間にも格差が拡大し、その状況に沿って仲間意識が同時進行の形で顕現し、世界の情勢に変化をもたらして来た。保護主義的なトランプ氏を選んだ米大統領選の結果はこの世界の傾向を示すものである。

 これはグローバル化を押し進めて来たネットの影響力が、これまでの政治体制の問題点を焙り出すことにも結びつき、韓国のような事態を引き起こすと同時に、こうしたグローバル化の自由の下で作り上げられる格差という不条理を社会にもたらす結果に繋がった。また、その結果なども作用する要素になってネットはその反面において国境を越えたグローバルな世界の中で、仲間意識や同等意見の集合体を作り上げる力ともなって来たことが思われる。トランプ氏の勝利が予想出来なかった米国をはじめとするマスメディアの情けない調査事情は、このネット社会において繋がりを持つ個々人の国民心理というものが読めなかったところに起因していると言わざるを得ない。

  トランプ氏を選らんだ米国に対し、「病んでいる」という評があるが、病んでいるのはトランプ氏やトランプ氏を選んだ国民に向けられるべきではなく、既存政治や既存社会自体に向けられるべきであり、国民から乖離してその既存政治を容認して来た票の読めなかったマスメディア自身にもあると言わざるを得ない。トランプ氏を選んだからは、トランプ氏を育てて行かなくてはならない。これは世界に影響力を持つ米国の責任であり、マスメディアなどはその責任の一端を負っている。

 どちらにしても、世界はグローバル化の中にあって、個々の国も個々の人々ももがいている様相が見て取れる。今回の米大統領選の結果もその現れと見てよいように思われる。共和党のトランプ氏が大統領選に勝利したことは日本にも影響の必至であることは間違いのないところであり、安倍政権のあたふたとした状況がこれをよく示しているが、これについてはまたの機会に触れたいと思う。 写真は米大統領選において勝利宣言をするトランプ氏(赤いネクタイの人物。テレビのニュースによる)。