<1772> 余聞・余話 「第67回奈良県美術展(県展)によせて」
文化の日 私もあなたも文化人
このほど奈良県の美術展が県の文化会館で開かれ、昨日見に出かけた。日本画、洋画、彫刻、工芸、書芸、写真の6部門の応募の中から入選した作品と審査員や招待者等の作品が一同に展示されていた。今回も各部門の最高賞である県展賞を審査員の評を付して紹介したいと思う。
日本画は山本明美の「水に還る」。評は「白い水面が効果的な空間表現になっています。下部から上部の白い空間が蓮の配置と調和がとれ、ほのかな光を感じさせる優れた作品です。蓮の微妙な色調のマチエ―ルも画面効果を高めています」とある。画題と作品の印象がぴったりの生命の根源に通じる印象の作品に思えた。
洋画は西基良の「羅針盤南へ(KUSHIMOTO)」。評は「工夫が足りている。海の世界を愛している。「何を言わんとするか」に集中し、それを気持ち良く表現している。コラージュが観る人にイメージを高めている」とある。印象をそのままに表現する写生とは真逆な手法で、描くことによって夢を開く発想の楽しい絵の感じがあった。
彫刻は岡橋久代の「Kさん」。評は「全体的にバランスがよく、大きな構成の中に、繊細な頭部の造形に作者の息づかいが感じられる。特に、髪の毛の表現が匠である。色彩もよく調和のとれた作品です。審査員全員一致で決定した」とある。一見陶芸作品のように思える胸像である。何かを求めているような、しかし、穏やかな表情の像は作者との一体感を思わせるところが感じられた。
工芸は大西麻由の「綾織―眩惑」。評は「綾織の地紋の赤地を背景に、アクセントとしてブルーのシャープな線條がひかえめに配され、よくデザインされた質の高い美しい作品で、光の具合によって表情を変える魅力的な作品である」とある。着物の作品で、帯はどうなのだろう。着用するとどのように映えるのかと想像されたりするが、展示用のガラス越しが鑑賞の妨げになった。
書芸は藤田華苑の「君がため」。評は「前半10行を低く書き出して、力を十分にため上部の空間を支えつつ中央部への大きい動きを引きだすべく書かれている。中央部から後半の盛り上がり十分。ただ後半は少し収まりが中途半端のように感じます。落款印の位置でしっかり空間をしめた。墨色・線質共働き良い点作品効果はよかった」とある。これだけの字数、空間にあれば、一字一句の配置が要求されるのだろうと思われた。
写真は栗原義孝の「舞い降りた天使「サンピラー」」。評は「Photo-Graphy(光の絵)とは正にこのような写真のことです。サンピラーとは-25℃以下の状態で起る自然現象とは言え、瞬間のチャンスを見事にとらえ[光の絵]を描いています。「舞い降りた天使」とは作者の感性がそう表現しています。素晴らしい作品です」とある。光をとらえて表現する写真の特性を生かした作品の典型。数多の微細な氷の粒に太陽光が当たって輝くサンピラー(太陽柱)現象に神の使者である天使の想像は共感される。
写真は左から日本画の山本作品、洋画の西作品、彫刻の岡橋作品、工芸の大西作品、書芸の藤田作品、写真の栗原作品。敬称略。