大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2017年04月30日 | 植物

<1949> 大和の花 (205) スズシロソウ (蘿蔔草)                         アブラナ科 ヤマハタザオ属

                        

 山地の谷沿いや山足などに生える多年草で、本州の近畿地方以西と九州に分布し、国外では中国東部に見られるという。大和(奈良県)では吉野川沿いや金剛葛城山系の山裾などでよく見かける。草丈が25センチほどになり、へら形で切れ込みのある根生葉に、さじ形から卵形の茎葉を有し、茎葉には粗い鋸歯が見られ、全体に柔軟な感じを受ける。

 花期は4月から6月ごろで、茎頂に総状花序を出し、小さな白色の4弁花を開く。角果は線形で3センチほどになる。蘿蔔(すずしろ)は漢名によるダイコンの古名で、花がダイコンの花に似るのでこの名がある。花後に走出枝を伸ばして広がり、群生することが多い。 写真はスズシロソウ。花の一つ一つが命の燃えである。   か弱きも強きもともにある命 生きるといふは意味多きこと

<1950> 大和の花 (206) カワチスズシロソウ (河内蘿蔔草)                アブラナ科 ヤマハタザオ属

                    

 スズシロソウ(蘿蔔草)の変種で知られる多年草で、金剛葛城山地に特産することから、その名にカワチ(河内)が冠せられた日本の固有変種。草丈は25センチほどになり、花も白色4弁花でスズシロソウに似るが、花後に走出枝を出さないので、盛んに走出枝を伸ばすスズシロソウとこの点が異なる。

 1995年に発表された新変種で、話題になったが、「渓流沿いの斜面下部に生育していることが多いと考えられ、河川改修、砂防工事、道路改修及び登山道の整備が生育地及び個体の減少の影響要因にあげられる」という報告があり、環境省のレッドリストに絶滅危惧Ⅱ類として加えられ、奈良県側にも稀産するため、大和(奈良県)でも絶滅危惧種にあげられている。

 写真はカワチスズシロソウ。走出枝の形跡が見られず、ヘラ形で切れ込みのある根生葉が目につく。崩れやすい崖や崩れ落ちて堆積した土に生育し、その姿は群生するというより1株1株花を咲かせている印象がある。 花の籠思へば春の奈良盆地

<1951> 大和の花 (207) タネツケバナ (種漬花)                            アブラナ科 タネツケバナ属

                 

  水辺や湿地、水田などに生える2年草で、まだ寒さの残る早春のころ、いち早く花を見せはじめ、最初のうちは遠慮がちにちらほら咲いているが、春もたけなわのころになると旺盛になり、休耕田などでは一面被い尽すほどになる。で、稲の種もみを水に漬けて苗代の準備をするころ花の盛りを迎えるのでこの名があるとされ、稲作の「作物暦だったのではないか」とも言われる。

  草丈は25センチほどになり、茎は下部からよく分枝し、奇数羽状に裂ける葉をつける。円形から長楕円形の小葉が10数個つくが、頂小葉が一番大きい。花期は3月から7月ごろで、直径3、4ミリの白色4弁花を総状につける。群生して一斉に花が咲くと雪を被ったように見えるときもある。日本全土に分布し、国外では朝鮮半島をはじめ、中国からアジア一帯、北米や欧州にも及ぶ。

 ナズナ(ペンペングサ)に似る田の雑草の1つであるが、乾燥した全草を煎じて服用すれば、利尿、整腸に効能があるとされ、民間薬として用いられて来た。 写真はタネツケバナ。   来る時と去り行く時の接点にありて移ろふ生の身のほど

<1952> 大和の花 (208) オオバタネツケバナ (大葉種付花)                   アブラナ科 タネツケバナ属

                    

 日当たりのよいところを好む2年草のタネツケバナと同属であるが、本種は山地の谷川沿いの少し湿った半日陰のようなところに生える多年草で、高さが40センチほどになり、毛の生える茎も奇数羽状の葉もタネツケバナより大きく、殊に頂小葉が大きい違いが見られ、この名がある。伊予の松山市が特産のテイレギはオオバタネツケバナを食用に改良したものである。

 花期は3月から6月ごろで、総状花序に白色の4弁花を咲かせる。同じような場所に白い花をつけるセリ科のセントウソウ(仙洞草)やオミナエシ科のツルカノコソウ(蔓鹿の子草)が見られるが、葉や花の形状によって判別出来る。なお、オオバタネツケバナはワサビ(山葵)と同じく、全草に辛みがあり、山菜として知られ、薬草としても全草を日干しにし、煎じて服用すれば、利尿、整腸に効能があると言われる。 写真はオオバタネツケバナ。 一推しの花は何処か五月晴れ

<1953> 大和の花 (209) ヒロハコンロンソウ (広葉崑崙草)                       アブラナ科 タネツケバナ属

                                       

  山地の渓流や滝の傍、あるいは溝などの水湿地に生える越年草で、草丈は60センチほどになる。茎は無毛で稜があり、葉は奇数羽状複葉で、卵状楕円形の小葉が5個から7個つく。花期は5月から6月ごろで、茎の先端部の総状花序に白い4弁花を咲かせる。ハンカチの花の別名で知られる花弁様の萼片が純白のコンロンカ(崑崙花)と同じくこの白い花に中国の雪を頂く崑崙山に因んでこの名がつけられたと一説にある。

  ヒロハコンロンソウはコンロンソウとよく似ているが、長い葉柄の基部が耳状に張り出し茎を抱くようにつく特徴がある。コンロンソウは全国的に分布するのに対し、ヒロハコンロンソウは本州の中部地方以北とされている日本の固有種であるが、大和(奈良県)には葉柄が茎を抱くヒロハコンロンソウが稀産し、自生地、個体数とも限られて少なく、レッドリストに絶滅危惧種としてあげられている。 写真は白い花が印象的なヒロハコンロンソウ(左)と茎を抱く葉柄(右)。  五月とは平和憲法高々と   

<1954> 大和の花 (210) マルバコンロンソウ (丸葉崑崙草)                   アブラナ科 タネツケバナ属

                                    

  コンロンソウ(崑崙草)の仲間で、コンロンソウに比べ小葉が丸いのでこの名がある。山野の林内などあまり日の当たらないような湿り気のあるところに生える越年草で、草丈は20センチほど。全体に白毛があり、地を這うように茎を伸ばし、長い柄のある奇数羽状複葉を互生する。前述したように小葉は円心形で、ほかの仲間より丸い特徴がある。

  花期は4月から6月。茎頂部に総状花序を出し、白色4弁花を数個開く。実は長角果。本州、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)にも自生するが、私は奈良市の春日山でしか見ていない。 写真はマルバコンロンソウ。オオバタネツケバナとの違いは、小葉に丸みがあり、頂小葉と側小葉の大きさにオオバタネツケバナほど差異がないこと。 健やかなことは何より子供の日

<1955> 大和の花 (211) ワサビ (山葵)                                               アブラナ科 ワサビ属

                           

 清流が見られる山地や山間地の渓谷などに生え、太くなる根茎を香辛料にすることで知られる日本原産の多年草で、和食には欠かせないものとして今も大いに用いられ、植栽による生産も盛んに行なわれている。産地としては静岡県や長野県が有名であるが、大和(奈良県)でも紀伊山地の山懐に当たる野迫川村などで栽培されている。

 沢山葵とか水山葵と呼ばれる自生種は北海道から本州、四国、九州までほぼ全国的に分布し、大和(奈良県)では吉野地方の一帯に多く自生しているが、シカの食害などで減少していると見られ、レッドリストの希少種にあげられている。なお、上北山村にはワサビダニという深い渓谷がある。私はまだ入っていないが、ワサビが多く自生していたのだろうと想像される。

 草丈は40センチほど、長い柄を有する根生葉は直径10センチ前後の円心形で、波状の鋸歯を有し、表面に光沢が見られる。花期は3月から5月ごろで、茎頂部の総状花序に長さ6ミリほどの倒卵形の花弁4個の白い花を咲かせる。雄しべは6個で、葯は黄色。実は長角果。

 ワサビの名はワサとビの合体によるとされ、ワサは早春に花を咲かせる早生(わせ)の転訛であり、ビはひりひりと辛いヒビナのビという説などがある。また、山葵はワサビの葉がアオイ(葵)の葉に似るからと言われる。なお、香辛料のほか、食用には茎、葉を漬けものや浸しものなどにする。一方、薬用にもされ、根茎を摩り下ろしたものをリュウマチや神経痛の患部に当てると効能があると言われる。

 このように利用価値が高く、古くからよく知られていたようで、平安時代前期に出された『延喜式』には若狭、丹後、但馬、因幡、飛騨の諸国から宮廷に献納されたことが記録され、当時の『本草和名』や『倭名類聚鉦』には和佐比として登場を見る。学名はWasabia jyaponica。 写真は花を咲かせる自生種(五條市西吉野町)。右端は水が滴る岩間のもの(天川村)。

  清らかに水滴れる新緑下岩間の山葵も濡れて新し

 

<1956> 大和の花 (212) ユリワサビ (百合山葵)                               アブラナ科 ワサビ属

                                        

  山地の湿り気のある渓谷沿いなどの礫地に生えるワサビの仲間の多年草で、根茎がユリ根に似るのでこの名がある。茎は地を這い、斜上して高さが25センチ前後になる。葉は根生葉と茎葉からなり、根生葉は長い柄を有し、卵円形または腎円形で、直径5センチほどになる。茎葉は小さく互生する。

  花期はワサビと同様、3月から5月ごろで、茎頂の総状花序に小さな白色の4弁花を開く。実は長角果で長さが1.5センチほど。日本の固有種で、本州、四国、九州に分布し、大和(奈良県)では山地の渓谷や川沿いで小形の個体をよく見かける。ほかの草木が生えないような礫地の環境下に生えるので、小さいながらも目につくところがあり、シカの食害により減少しているとされ、レッドリストの希少種にあげられている。 写真はユリワサビ。   夏は来ぬ妻の素足のかはいらし

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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