<1581> ザイフリボクとヒトツバタゴ
似て非なる日々の営み積み重ね移り変はりてゆく世のならひ
草木を問わず植物にはよく似たものがあって間違いやすいところがある。花にも言えることで、判別がつかないものに出会うことがある。こういうときには図鑑が頼りになるが、植物の細部にわたる観察が必要で、写真による比較が一つの方法としてある。最も確かな方法は標本をとることであろうが、貴重な植物ではそこまでの勇気が湧かない。スケッチするのもよいが、信頼性が問われるし、面倒だというのが先に立つ。
ということもあって、私は専ら手っ取り早い写真に収めて図鑑と対比するやり方をしている。大方はこれで賄えるが、写真だけでは判別出来ないときもある。このほど馬見丘陵公園で花を咲かせるヒトツバタゴに出会ったのであるが、まだ若い木で、ザイフリボクと間違えた。公園の樹木には名前を書いた札が立てられているので間違いに気づいた。
この二つはよく似た白い花を樹冠いっぱいに咲かせる。花期が晩春から初夏のころであるのも間違いの元になった。もちろん、知識が豊富で観察が行き届いていれば、間違うことはないが、遠目には間違うおそれがあるザイフリボクとヒトツバタゴの若木ではある。
では、二つの木を見てみよう。まず、ザイフリボクはバラ科の落葉小高木で、高さは十メートルほどになる。葉は互生し、楕円形で、先端は尖り、縁に細かい鋸歯がある。花は白い線形の五弁花で、四月から五月にかけて咲く。花が神前に捧げる玉串につけられる幣(しで)に似るところからシデザクラ(四手桜)の名でも呼ばれる。本州の岩手県以西、四国、九州に分布し、大和でも林縁などで見かける。
次にヒトツバタゴはモクセイ科の落葉高木で、高さは三十メートルほどにもなる。葉は対生し、長楕円形から広卵形で、縁に鋸歯はない。四月から五月ごろ新枝の先に円錐花序を出し、白い多数の花をつける。花冠は四深裂し、裂片が線状披針形になる特徴を有する。長野、岐阜、愛知県、長崎県の対馬、朝鮮半島、中国、台湾ととびとびに分布するが、最近は公園樹として多く植えられている。
奇妙な名の持ち主であるが、タゴは野球バットの用材や器具材にされる同じモクセイ科のトネリコのことで、ヒトツバは単葉であることによるという。別名はナンジャモンジャで、これは珍しい木だったからと言われる。 写真は左二枚がヒトツバタゴ、右二枚がザイフリボク(宇陀市で)。