大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2019年05月17日 | 植物

<2689> 大和の花 (796) ゲンゲ (紫雲英)                                         マメ科 ゲンゲ属


                         

 レンゲ(蓮華)やレンゲソウ(蓮華草)の別名を有し、一般にはこれらの名の方に馴染がある中国原産の2年草で、スミレ(菫)、タンポポ(蒲公英)とともに日本の春を代表する草花である。絵本などでもお馴染みで、小さな子供でも知らないものはないほどであるが、その経歴にはかなりの違いが見て取れる。

  スミレは『万葉集』に見え、花のみならず、摘み草として当時から親しまれていた。タンポポは『倭名類聚鉦』(938年)にフジナ、タナの名で見え、平安時代には知られていたとされる。これに対し、レンゲのゲンゲはずっと時代が下って、享保元年(1716年)に出された『通俗志』に見えるのが初めてだと言われる。つまり、ゲンゲは江戸時代の中ごろ渡来し、日本人はそのころ帰化したこの花に接したということになる。

 秋の末、水を落とした水田に種を蒔くと、翌年の春に成長して花を咲かせる。茎が地を這って広がり、高さが10センチから30センチほどになり、葉は奇数羽状複葉で、長さが1センチ前後の倒卵形の小葉がつく。花期は4月から6月ごろで、葉腋に直立する柄の先に小さな紅紫色(稀に白色)の蝶形花を7個から10個輪状に開く。これをハス(蓮)の花に見立てたことにより、レンゲ(蓮華)の名がある。

  種を蒔いて育てられ、畑一面に花を咲かせるゲンゲの花群を紫の雲に見立てたのが漢名の紫雲英(英は花の意)で、紫雲英を和名でゲンゲと詠ませたのは、今一つの漢名翹揺の音読みによると言われる。一面に咲く紫雲英の風景は春の田園の風物詩であるが、ゲンゲには根に根粒バクテリアが共生し、空中の窒素を蓄えるため、緑肥として用いられ、花が終わるか終わらない間に田に鋤き込んで来た。

  だが、昨今は化学肥料の進出により、緑肥の活用が減少し、牧草や地域興しの観光用のゲンゲ畑として活路を見出していると言われる。これは、一見、変わりないように見える田園の花風景も時代の移ろいとともにその内実を異にする事例と言って差し支えなかろう。なお、ゲンゲは乾燥した茎葉を煎じて、解熱、利尿に利用されて来た民間の薬用植物として知られる。また、蜜源植物としても名高く、花にはミツバチがよく訪れているのが見られる。 写真はゲンゲ(明日香村)。    晴れし日のげんげ畑の幸せ感

<2690> 大和の花 (797) ミヤコグサ (都草)                                     マメ科 ミヤコグサ属

                      

 日当たりのよい道端の草地や田んぼの畦などに生える多年草で、茎は叢生して地を這ったり、斜上したりして長さが15センチから40センチほどになり、群落をつくることが多い。葉は長さが1センチ前後の倒卵形の小葉5個からなり、先端部に3個と基部に2個つく。

  花期は主に4月から6月ごろで、葉腋から花柄を出し、その先に1個から4個の鮮やかな黄色の蝶形花を散形状につけ、遅いものでは10月ごろ見られることもある。花は長さが1センチから1.5センチほどで、上に反る旗弁がやや大きく目立つ。実の豆果は細い円筒形で、長さが3センチほど。熟すと裂開して種子を現わす。

  北海道、本州、四国、九州、沖縄に分布し、朝鮮半島、中国、ヒマラヤ東部などに見られるという。よく似たヨーロッパ原産のセイヨウミヤコグサ(西洋都草)は世界各地に帰化し、日本でも見られ、紛らわしいが、茎や葉、萼などに毛が生える特徴があり、毛のない本種との判別点になる。 

  ミヤコグサ(都草)の名は京都に多く見られたことによると言われ、花の形が烏帽子に似るのでエボシグサ(烏帽子草)の異名でも知られる。言わば、田舎にあっても都草ではある。食用や薬用の話は聞かない。  似て非なるものが花にも都草あるなり鮮黄色の花群

<2691> 大和の花 (798) クララ (眩草・苦参)                          マメ科 クララ属

     

 日当たりのよい草地や川岸などに生える多年草で、高さは50センチから大きいもので1.5メートルほどになる。葉は奇数羽状複葉で、長さが2センチから4センチの長楕円形の小葉が7対から17対つく。

 花期は5月から7月ごろで、枝先に長さが25センチ前後の総状花序を穂状に伸ばし、淡黄白色の蝶形花を多数つける。豆果の実は長さが5センチから8センチの鞘になり、鞘はやや数珠状にくびれる特徴がある。

 全体に毒性がある有毒植物で、殊に根に強い毒性があるので注意が必要とされる。だが、その根は苦参(くじん)と呼ばれる生薬として用いられ、止血、消炎などに効能があるという。また、苦味健胃薬としても知られる。この苦味によって、茎や葉を噛む眩暈がしてくらくらするほどになるということからこの「くらくら」が転じてクララになったと言われる。

 外来種を思わせる名であるが、れっきとした在来で、古くから知られ、平安時代に遡り、歌にも詠まれている。「惑はずなくららの花の暗き夜にわれも靆(たなび)け燃えむ煙は」(『讃岐入道集』・藤原顯綱)と見える。クララが「暗き」を導く言葉として用いられている。

 また、クララを煎じた汁は農作物の害虫駆除や家畜の皮膚につく寄生虫にも用いられるほどであるが、ルリシジミの仲間の幼虫の食草として知られ、生物の世界の不思議を思わせるところが見て取れる植物である。

 本州、四国、九州に分布し、国外では中国に見られるというが、全体的に減少傾向にあり、地方によってはレッドリストにあげられ、絶滅が懸念されているところもある。大和(奈良県)では道端や岸辺などでときおり見られ、奈良市の若草山ではよく目にする。これはクララがシカの忌避植物であるからであろう。  写真はクララ。群生して花を咲かせる個体群(左・若草山)、ルリシジミが花に来ていた(中・宇陀市榛原内牧)、花のアップ(右・十津川村神代)。  ほととぎす初音を聞きぬ五月十九日未明の四時少し過ぎ

 

 


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