大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2016年12月03日 | 植物

<1800>大和の花(94)ヒキヨモギ(引蓬)とオオヒキヨモギ(大引蓬)        ゴマノハグサ科  ヒキヨモギ属

      

  ここからは半寄生植物の花を紹介してみたいと思う。まずはゴマノハグサ科のヒキヨモギ(引蓬)とオオヒキヨモギ(大引蓬)について。ともに日当たりのよい草地や林縁の崖地など少し乾燥気味で痩せたような土地にほかの草木と一緒に生える。半寄生の1年草で、ヨモギ(蓬)に似た切れ込みのある葉を有するが、ヨモギの仲間ではなく、ヨモギの根に寄生することが多いことからこの名が生まれたとのだろう。

 ヒキヨモギは高さ6、70センチほどになり、茎には細毛がある。葉は卵形で深く広線形に切れ込み、柄に翼があって、茎の下部では互生し、上部では対生する。この葉によって光合成を行なうが、十分ではなく、宿主を求めて寄生生活をする。花期は8月から9月ごろで、葉腋に長い筒状の萼をともなった鮮やかな黄色い唇形花をつける。萼は先端で5裂し花の形に開出する。萼から突き出す唇形の花冠は上唇と下唇からなり上唇は一個、下唇は3裂して、花冠を上から見ると、翼を広げたジェット機のような対称形に見える。

 オオヒキヨモギはヒキヨモギによく似るが、葉の切れ込みがヒキヨモギほどでなく、唇形の花もヒキヨモギとは違いが見られ、筒状の長い萼には濃い緑色の隆起した肋が目につく。花期はヒキヨモギとほぼ同時期に当たり、唇形の花冠は灰黄色で、下唇の一方が変形し、対称形に見えないのが特徴的で、ヒキヨモギとの判別点になる。

 ヒキヨモギは全国各地に見られ、朝鮮半島や中国、ロシア東部等にも分布、オオヒキヨモギは本州の関東地方以西、四国と、国外では中国に分布するが、ともに分布域が広い割には個体数が少なく、希少な植物として扱われ、大和(奈良県)ではどちらも絶滅危惧種にあげられている。なお、ヒキヨモギは漢名を陰行草(いんぎょうそう)、生薬名では鈴茵陳(れいいんちん)と呼ばれ、全草を日干しにして煎じて服用すれば利尿、黄疸に効くと言われて来た薬用植物としても知られる。 写真は左の2枚がヒキヨモギ(曽爾高原での撮影)。右2枚がオオヒキヨモギ(ニ上山と平群町の山足での撮影)。 落葉して落葉の新たなる景色

<1801>大和の花(95)ママコナ(飯子菜)とミヤマママコナ(深山飯子菜)         ゴマノハグサ科 ママコナ属

      

  ママコナ(飯子菜)は低山や山足のようなところに生え、ミヤマママコナ(深山飯子菜)は深山の草地や岩場に見える。ともに半寄生の1年草で、群生することが多い。葉緑素を有する葉があり、普通の草花と何ら変わるところはないが、ほかの植物の根に宿って、半ばその根から養分をもらって暮らす半寄生生活の実態がある。

  ママコナは草丈50センチほど、葉は長卵形で、先が尖り、紫褐色の茎や枝に対生する。花期は7月ごろから9月ごろで、茎頂や枝先に10センチ前後の花序を出し、筒状唇形の花を多数咲かせる。花冠は紅紫色で、兜状の上唇と横に広がって先が3裂する下唇に2個の米粒形の白い隆起した斑紋が見られ、これに飯粒を連想しこの名が生まれたという。

  深山型のミヤマママコナはママコナよりも全体に一回り小さく、花の奥の両側に黄色い斑紋が現れる特徴がある。だが、四国に分布するシコクママコナほどには目立たない。花はママコナより一ヶ月ほど遅れて咲き始める。ママコナは全国的に分布し、朝鮮半島に見られ、ミヤマママコナは北海道と本州に分布する日本の固有変種として知られる。

 大和(奈良県)では両方を見ることが出来るが、ミヤマママコナは紀伊山地の標高1000メートル以上の山に登れば出会える。シコクママコナも紀伊山地に見られるようであるが、私にはまだ出会えていない。いずれもかわいらしい花である。 

  写真は左から順に、群生して花を咲かせるママコナ、ママコナの花(ともに奈良市郊外の山足で、花には名のもとになった米粒状の白い斑紋の突起がうかがえる)、群生して花をつけるミヤマママコナ、ミヤマママコナの花のアップ(ともに大台ヶ原山で、花冠の奥にはわずかに黄色い斑紋が見える)。 それぞれが負へる命の輝きのあるひは花のひとひらの燃え

<1802> 大和の花 (96) シオガマギク (塩竃菊)                             ゴマノハグサ科 シオガマギク属

            

  日当たりのよい山野の草地に生える半寄生の多年草で、全国的に分布し、紫褐色を帯びる茎はほとんど枝分かれせず、草丈60センチ前後になる。根は辺りのほかの草木に差し込んでいるはずであるが、地上の目にはわからない。三角状狭卵形で先が尖り縁に重鋸歯がある葉は、対生または互生する。花期は8、9月ごろで、茎頂や上部の葉腋から苞葉をともなう花茎を伸ばし、その先端に筒状唇形の花を横向きにつける。花冠は鮮やかな紅紫色で、上唇は嘴状に尖り、下唇は横に広がって浅く三つに裂ける。

  シオガマギク(塩竃菊)の塩竃(しおがま)は海水を煮詰めて塩を作る竈(かまど)のことで、シオガマギクの名はこの竃、即ち、浜辺に設えられた塩竃に因むと言われる。塩竃が「浜で美しい」ということから、花だけでなく、「葉まで美しい」という言葉遊びから生まれた名だという。これは塩竃を知らない者には理解し難い名であるが、命名譚はともかく、鮮やかな紅紫色の花の美しさは葉までも引き立てるということなのだろう。

  全国的に分布し、中国東北部、朝鮮半島に見られ、観賞用にも植えられるが、大和(奈良県)では自生地も個体数も限られ、レッドリストに絶滅危惧種としてあげられている。私は大峰山系の稲村ヶ岳(1726メートル)の山頂付近と、ほか一箇所で見かけたが、ともに貧弱な個体数で、そのうち姿を消すのではないかと撮影しながら感じた。 写真は群がって花を咲かせるシオガマギクと花のアップ。 野草図鑑枕に春の花の夢

<1803> 大和の花 (97) コシオガマ (小塩竃)                                       ゴマノハグサ科 コシオガマ属

                                        

  野生の花を求めて山野を歩いていると、ときに見た覚えのない花に出会うことがある。そういうときには、必ず写真に撮り、図鑑を開いて調べることになる。花の形などからどの科に属するかの見当をつけ調べにかかるが、これには結構時間を要する場合がある。このコシオガマ(小塩竃)もそうした草花の一つだった。

  最初に出会ったのは御所市郊外の葛城山の麓、道端の棚田の畦の斜面だった。何気なくその草叢を覗き込んだら小さな淡紅色の花が目に入って来た。逸出した園芸の花かも知れないと思って調べてみたらコシオガマだった。ほかにもこのようなケースで出会った草木の花は何点かあるが、コシオガマはこうして私の知るところとはなった次第である。

  日当たりのよい草地に生える高さが5、60センチほどになる半寄生の1年草で、全体に軟らかな腺毛が密生するため、触るとべたつく感触がある。よく分枝し、葉は三角状卵形で、羽状に裂け、縁には鋸歯があって対生する。花期は9、10月ごろで、枝の上部葉腋に鮮やかな淡紅色の太い筒状唇形の花を1個ずつ咲かせる。花冠は上唇と下唇とからなり、シオガマギクの形態に似るが、花の印象はかなり異なるところがある。

  草叢の中で見ると、緑色の葉を有し、光合成を行なう普通の草花であるが、地中ではほかの植物に根を差し込んで栄養分をもらう半寄生の生活をしている。北海道から九州まで全国的に分布し、国外では朝鮮半島、中国北部、アムールなどに見られるという。大和(奈良県)では主に平地で見かけるが、個体数が少ないため、シオガマギクと同じく絶滅危惧種にあげられている。 写真は道路脇の草叢で見かけたコシオガマとその花(十津川村で)。 リミットの時を負ひつつある姿思はしむるに絶滅危惧種

  

 

 


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