大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2016年12月08日 | 植物

<1805> 大和の花 (98) ヤドリギ (宿木・寄生木)           ヤドリギ科 ヤドリギ属

     

 寄生植物は草本だけでなく、木本にも見られ、木本では宿主の樹木が大きく、寄生する側の木が低木乃至は小低木と小さい傾向が見られる。ここでは、私が大和地方で出会った木本の寄生植物について、もっともポピュラーなヤドリギ(宿木・寄生木)ほか3点を紹介したいと思う。

 まず、ヤドリギ(宿木・寄生木)であるが、ヤドリギの仲間は世界に1300種ほど見られ、日本の一般に言われるヤドリギはエノキ(榎)、ケヤキ(欅)、ブナ(橅)、クリ(栗)、ミズナラ(水楢)、シラカバ(白樺)、サクラ(桜)などの落葉高木に半寄生する常緑小低木で、大きいもので80センチ前後に成長する。

  枝は二股に分岐しながら大きくなり、鳥の巣のような丸まった形になる。常緑の葉は革質の倒披針形で、鋸歯はなく、竹トンボのような2葉一対の特徴が見られ、葉身は8センチほどである。花期は2、3月ごろで、宿主の落葉樹がまだ目覚めない前に花を咲かせる。雌雄異株で、雄花は葉腋などに3個から5個つく。花被は黄色に近く、肉厚で上部が4裂する。雌花も同じく黄色に近い花被であるがが、見過してしまうほど小さく、残った実と同時に見られることもある。

  実は球形の液果で、直径8ミリほど。晩秋、初冬のころ半透明な淡黄色に熟す。シベリア方面から渡って来るレンジャク科の冬鳥ヒレンジャクやキレンジャクの好物とされ、この渡り鳥によって繁殖すると言われる。種子の周りに粘液があり、この粘液が鳥に食べられても種子とともに残り、種子が粘液の糸を引きながら糞と一緒に落とされ、宿主の枝などに付着し、そこに発芽して寄生し、光合成を行ないながら宿主の木から養分をもらって成長する。

  北海道から九州まで全国的に見られ、中国や朝鮮半島などにも分布している。実が橙黄色のものはアカミヤドリギ(赤実宿木)と言われ、ヨーロッパ等には実が白いセイヨウヤドリギが分布している。大和(奈良県)には各地に見られ、サクラの名所で知られる吉野山ではヤマザクラ(山桜)の古木に寄生しているものがよく見られる。

  雪が積もる厳寒期にも青々とした葉を保つので、宿主の落葉樹がすっかり葉を落とす時期になるとよく目につく。この常緑のヤドリギを古代人は意識し、永遠の生命を感じ取ったものとみられ、正月を迎えるに際してヤドリギを插頭(かざし・髪飾り)にしてその生命力にあやかる風習があった。古い時代にはホヨ(保与)と呼ばれ、『万葉集』にはこの名で插頭にした歌が見える。

   あしひきの山の木末(こぬれ)のほよ取りて插頭(かざし)つらくは千年寿(ほ)くとぞ     巻十八 4136 大伴家持

 という歌で、その意は「山の木々の梢に生い茂るヤドリギのホヨ(保与)を取って髪に挿しているのは、千年もの長寿を願ってのことであるよ」というもの。家持が越国(富山県)の国守(長官)だった当時の歌で、この一首によりヤドリギは万葉植物に連なった。なお、別名のホヤはホヨの転化と思われる。 写真は左から雪に被われたヤマザクラに繁るヤドリギ(吉野山で)。3、4個の花が密集して咲く雄花。半透明で球形の液果(果実の先に雌花の花芽がうかがえる)。2葉一対のヤドリギの葉(中央に見えるのは雄花)。    万葉の年の初めのほよの歌 年を経てなほ今も読まるる

<1806> 大和の花 (99) マツグミ (松茱萸)                                        ヤドリギ科 マツグミ属

                 

  斑鳩の里の法隆寺には参道に松並木がある。国道25号から南大門前の広場に至る250メートルほどの間。観光バスや車で法隆寺を訪れると、まずはこの松並木に迎えられ、その奥に伽藍の一部が垣間見られ、法隆寺にやって来たという雰囲気に浸ることが出来る。

  この松並木は雄松の別称もあるクロマツ(黒松)で、いつごろ植えられたものか、定かには承知しないが、かなりの古木で、南大門前の広場のものも含めれば数百本に上る。このクロマツの木々にヤドリギの仲間の半寄生植物で知られる常緑小低木のマツグミが寄生している。よく見ると、かなりの数に上ることがわかる。今回はこのマツグミ(松茱萸)について見てみたいと思う。

  マツグミはモミ(樅)、ツガ(栂)、クロマツ、アカマツ(赤松)、稀にトガサワラ(栂椹)などの針葉樹に半寄生する常緑小低木で、高さは大きいもので60センチほどになる。多数の枝を出し、垂れ下がるようになる枝もあり、こんもりと繁る。倒披針形で先が丸い葉は、葉身が4センチほどで、対生することが多い。この葉によって光合成を行なうが、十分でなく、宿主の木に根を差し込んで養分をもらう半寄生の生活実態を持つ。花は両性で、7、8月ごろ葉腋に5センチほどの鮮やかな赤い筒状の花を多数咲かせ、花の時期にはよく目につく。

  液果の実は直径が5ミリほどの球形で、次の年の3月から5月ごろにかけて赤く熟す。種子の周りには粘液があり、ヤドリギと同じく小鳥に食べられても消化されることのない種子と一緒に落とされ、枝などに付着する。種子は付着したところで発芽し、新しい株をつくって半寄生の生活に入る。マツグミの名はマツに寄生することが多く、赤く熟す実がグミに似るからと言われる。

  マツグミは関東地方以西、四国、九州、沖縄に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)でも見られるが、枯死して減少したアカマツとともに、マツグミも減少し、奈良県では絶滅危惧種にあげられて久しい。斑鳩の地名は、アトリ科のイカル(鵤)が見られ、その名に因んでつけられたと言われ、斑鳩の地は昔から小鳥の多い住みよさを誇って来た。また、法隆寺界隈に多く見られるクロマツは斑鳩町の象徴の木として町の木に指定されていることで知られ、法隆寺に関わりが深い。

  という次第で、絶滅危惧種にまで落ち込んでいるマツグミが法隆寺周辺に多く見られるのは、前述の通り、マツグミには暮らしやすい、二つの条件が整っているからである。一つは宿主になり得るクロマツの古木が健在であること。今一つは繁殖に欠かせない小鳥たちの集まる環境が昔から持続されていることである。言わば、マツグミの繁茂は、昔と変わりなくある法隆寺と深く関わっていることが思われるところである。なお、マツグミは薬用植物としても知られ、葉を日干しにし、煎じて服用すれば高血圧症の予防に効能があるという。 写真は左からクロマツに寄生するマツグミ。赤い花をいっぱい咲かせるマツグミ。赤い実(いずれも法隆寺の参道で)。 

 広々と冬蒼天の法隆寺

 

<1807> 大和の花 (100) ツクバネ (衝羽根)                                 ビャクダン科 ツクバネ属

                                                      

  モミ(樅)、スギ(杉)、ヒノキ(檜)、ツガ(栂)などの針葉樹、また、アセビ(馬酔木)の古木などにも半寄生するとされる落葉低木で、高さは2、3メートルほどになる。葉は長さが7センチほどの長卵形もしくは広披針形で、尾状に長く尖る。雌雄異株で、花期は5、6月ごろ。雄花も雌花も枝先に咲き出し、両方とも淡緑色で目立たないが、雌花には葉状の長い4個の苞がついて果期にも残り、実と苞の組み合わせの姿が、羽根つきの羽根に似るのでこの名がある。

  本州の関東地方以西、四国、九州(屋久島まで)に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)でも、金剛山や葛城山のほか、東吉野村、川上村、天川村などのごく限られた地域に自生しているが、シカの食害などに遭って減少し、レッドリストの希少種にあげられ、ところによっては絶滅寸前の場所もあると報告されている。私が知る東吉野村の丹生川上神社中社の境内地一帯の自生地には30本前後が確認され、国の天然記念物ツルマンリョウ(蔓万両)とともに貴重な植生として注目されている。

  神社の話によると、ツクバネは幹が太くなると枯れるが、その跡に新しい芽が生え出し、更新されるという。境内や宮の山林にはスギ、モミ、カシなどの巨樹が見られ、ツクバネの生育する条件に適っているのだろう。なお、ツクバネの若葉や実は食用にされて来た経歴がある。 写真はツクバネの雌花(左)と果実(右)。写真上部の花びらのように見えるプロペラ状の4つは苞で、花は極めて小さく、苞のつけ根のところに見える。果期にも苞は実とくっついたまま残存し、散るとき風に飛ばされ、なるべく種子を遠くへ運ぶ役目を担っている。  獺祭の部屋に聞こゆる冬の雨

 

 

 

 

 

 


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