今朝の新聞を見ていたら、「最後のメスも本州へ」という見出しで、佐渡で野生化を願って放鳥されたトキが、佐渡島を離れて本土の方へ行ってしまったという記事が目に入りました。しかも島を離れた鳥たちの全てがメスなのだといいます。これでは自然界の中での繁殖を期待した関係者の思惑とは全く違ったこととなり、佐渡市では、島から逃げ出した連中を捕まえて戻したいという要望を環境庁に出したということでした。
佐渡市、トキ保護センターの案内板。この奥の方に鳥舎があって、そこに保護されたトキが養育されているが、遠く離れた所にあり、望遠鏡ででも見ないと肉眼で観察するのは困難。
トキたちの気持ちというのはどんなものなのでしょうか?退屈に紛れて、ちょっぴり考えてみました。
<4羽のメスの言い分>
Q1:どうして島を離れてしまったの?
A:「あのねえ、あたしはさ、何時までも島の中にいたくなかったんだよね。だってさ、ずーっと籠の鳥だったでしょう。自由になりたいんだよね」
B:「そう、あたしもそうなのよ。箱入り娘のままで何時までもここに居たんじゃあ、婚期が遅れてしまうじゃない。島の中で一緒に育ったオスたちはさあ、皆頼りなくて気に入らないんだもん。海の向うになら、きっと心をときめかせてくれるようなハンサムさんが居るんじゃないかなあ」
C:「あたしはね、ちょっと違うんだよね。もっと美味しいご馳走をたんと食べたいのよ。島の中にはロクに泥鰌(どじょう)もいないしさ、それに人間たちが差し入れしてくれる餌だって、いつも決まっていて飽きちゃうんだよね」
D:「あたしはね、皆みたいに目的なんか何も無かったんだ。島に居ても良かったんだけど、メスの皆は出て行ってしまって、残ったのはわたしばかり。島には不細工で無気力な雄ばかりしかいないんだもの、淋しいじゃない。海を渡るのはちょっと怖かったけど、島に居る雄なんかにプロポーズされたりしたら大事(おおごと)だと思って、こっちへやって来ちゃったの」
Q2:本州に渡った感想はどうですか?
A:「自由を手に入れたって実感してるわ。だって好きな所に、いつでも好きなように行けるんだもの。でも足にへんなものを付けられて、何だか人間どもに監視されているって感じは拭えないわね。この間はさ、九州の方まで飛んで見たんだけど、疲れたわ。ちょっと行き過ぎだったかなって反省してる」
B:「わたしも確かに自由は感じるけど、意外に思うのは、何処へ行ってもハンサムな雄など見当たらないのよね。都会に行ったら居るのかなと思って、近くまで行ってみたのだけど、真っ黒なカラスの奴ぐらいしか見当たらなかったわね」
C:「わたしはご馳走狙いなんだけど、これは難しいなと思ったわ。だって、何処の田んぼに行っても泥鰌なんて居ないし、蛙は居るけど夏の間だけだし、寒くなってからはご馳走どころか餌を見つけるのが大変よ。ちょっと考えが甘かったかなって思ってるわ」
D:「未だ飛んで来たばかりだから、よくわかんない。佐渡よりは良さそうみたい」
Q3:これからどうしますか?
A:「そうねえ、わたしも年頃なので良い相手でも探そうかな。佐渡に残っている奴よりマシなのがどっかに必ず居ると思うわ。そんなことを心がけながらもっともっと飛び廻りたいわ」
B:「わたしはね、決めて出てきた以上は、何としてもハンサムな連れ合いを見つけ出したいと思うわ。こんなに広い世界だもの、必ず人間どもが未だ気がつかない山奥かどこかに住んでいると思うわ」
C:「うん、私も、も少し頑張ってご馳走を探して見るわ。新潟ではダメでも、少し足(?)を伸ばして、信州の山奥の方に行ったら見つかるんじゃないかな?何でも、千曲の向こうにある山の棚田には、農薬を使ってない場所が残っているというから」
D:「エ~ッと、わたしどうしようかな。とりあえずはご馳走を探そうかな。その信州の棚田って所に一緒に連れてってくれない?」
Q4.佐渡に戻る考えはありますか?
A:「あたしはそんなこと考えたことないわ。だって、こっちへ来て分かったのだけど、あそこは、昔島流しの犯罪者が住んでいた所だって云うじゃない。何だか怖い感じがするもの。もう二度と戻る考えはないわ」
B:「わたしも帰る気はないわ。残っているオスたちのことを思うだけで、うんざりするもの。何としてもこちらでいいのを見つけなくっちゃあ」
C:「もちろん、戻らないわよ。未だ何もご馳走を見つけていないんだもの。お腹一杯食べて、満足するまではそのような考えなど浮かぶもんですか。これから、これから!」
D:「そんなことはわかんないなあ、わたしは。しばらく先輩たちに教わって過してみて、その後で考えたいわ。でもあの怖い海をもう一度渡るのはいやだなあ」
というわけで、本州に渡ったメスたちには、島に戻るという考えは殆んどないようでした。無理に連れ戻しても、又飛び出してきてしまうという公算大の感じがしています。
<オスたちの言い分>
Q1:君たちはどうして島を離れないのですか?
Z:「ボクはね、此処に居たいの。だってね、ママのそばから離れたくないもん。ママが判るんかって?もちろん知っているよ。ほらあそこのさ、センターの中にある孵化器って奴さ。あれ懐かしいのよね。ママを置いて遠くに行く気なんか考えられないよ」
Y:「めんどくさいんだよ、俺は。メスのバカどもは、皆海を渡って行っちゃったけどさ、何もわざわ危ねえ思いをして、遠い所に行かなくても、人間どもがちゃんと餌を世話してくれているんだろ。苦労なしに喰って行ければ、俺はそれでいいんだよ」
X:「ボクはね、行方不明になったV君のことが心配なんだ。彼はね、生まれた時僕の隣に居たのさ。その所為なのか、妙に気が合ってさ、ずっと一緒に居たんだけど、ある日突然行方不明になっちゃったんだ。何か、事件に巻き込まれたんじゃないかと心配でさ、彼の消息の判るまでは、此処を動く気にはなれないのさ。人間さんたちは、どうしてもっと真剣に彼のことを探してくれないのかなあ。だって、足にチップ付けていたんでしょ」
W:「俺らは佐渡が好きなのさ。此処で生まれたんだし、此処で飯を食って、此処で一生を過そうと決めたんだ。佐渡ってさ、一回り飛んでみたけど、いい山もあり、川もあり、湖だってちゃんとあってさ、平野には田んぼだってたくさんあって、此処は天国だぜ。何も無理をして海を渡ることなんか無いさ。そう思わない?」
Q2:君たちは結婚問題については、どう考えているの?
Z:「ボクはそんなこと考えたこともないよ。結婚なんかしなくても、ママが幾らでも僕たちの兄弟姉妹を生んでくれるんじゃない。それに、飛んで行っちゃった彼女たちには、結婚したいなどと思うほどの魅力あるのは居なかったしね」
Y:「それも、めんどくせえなあ。第一、もう島にはメスなんぞいねえし、したくたって無理というもんだぜ。仮に嫁さん世話して貰ったとしても、子どもが生まれてそいつの面倒を見るなって、真っ平ごめんだぜ」
X:「V君のことが心配で、とてもそんなこと考えている暇は無いよ。V君の消息がはっきりして、安心できる状態になったら少しは考えてもいいけどさ」
W:「結婚ねえ、……。うーん、考えさせられるなあ。実はね、飛んで行っちゃった4羽の中に、好きになりかかっていた奴が居たんだけど、彼女はあんまりこの佐渡が好きでないみたいなんだ。その内にやっぱり佐渡は好いとこなんだと気づいて戻ってきてくれたら、そのときは思い切ってプロポーズしたいと思ってるんだ」
Q3:もし島を出た4羽のメスたちが連れ戻されて島に帰ってきたらどうしますか?
Z:「ボクは、今と変らないよ。なるべく喧嘩など吹っかけられないように気をつけるだけさ」
Y:「めんどくせえなあ。人間どもがやたらに子作りに気を使うのは煩わしいぜ。ブスばっかりで、なかなかその気になれないぜ。どうしてもというなら、子育ては無しという条件で結婚を考えても構わんけど、……、でもめんどくせえなあ」
X:「だから、さっきから言ってるでしょ。V君のことが心配だって。同じことを何度も訊かないでよ」
W:「そうねえ、そうなったら彼女に早速結婚を申し込むよ。ま、説得が必要かもわからないけど、この島のためにはどうしても俺たちの愛を育てる必要があるんだと口説けば、何とかわかってくれるんじゃないかな」
ざっとこのような具合で、オス君たちはどうも情熱不足のような感じがしました。他にも幾つか質問を用意したのですが、新聞記事の期待に応えるような回答は難しそうなので、これにて質問を打ち切ることにします。
トキ保護センター入口付近で飼われていた、東南アジアの何処かからつれてこられた紅色のトキ。こちらの方が日本在来のものよりもずっと派手である。