台風が去って、朝夕はめっきり涼しくなりました。しかし、日中にはまだまだ夏の名残りがしつこく頑張っているようで、相当に暑く要注意です。そんな中、先週末に我が家に小さな台風が来訪しました。孫台風という奴です。二人の孫娘は中1と小5になり、すくすくと育ってくれている様です。もはや台風と呼ぶにはふさわしくない年齢に近づきつつあり、余計な声を掛けるのが難しくなって来ています。それでも彼女たちの来訪は、依然として嬉しい小台風の来襲の様な気がします。
それで、土曜日に隣のつくばみらい市にある「歴史公園ワープステーション江戸」へ皆で出かけてきました。せっかくだから旅車で行くことにし、お昼は車の中でうどんを作って食べさせることにしました。外食の方が喜ぶのかもしれませんが、少しヒネくれている爺さまは、なかなか安易な方を選びません。勿論うどん作りは爺さまの担当です。計6人分のうどん作りは結構気骨の折れることでした。
ところで、今日は孫たちの話ではなく、爺さまたちも初めて訪れた隣町の中にある江戸にワープした時の印象です。
つくばみらい市にあるこの小さなテーマパークは、最近のTVや映画の時代物の制作によく登場しています。登場と言っても施設が舞台のセットとして活用されているわけで、京都の東映太秦時代村の茨城版といったところでしょうか。我が家からは車で30分足らずの所にあり、その気になればいつでも行ける場所なのですが、今まで一度もその気にならなかったのでした。興味はあっても、それが行動につながるほどにはならず、せいぜい場所の確認をする程度に止まっていたのですが、この際良い機会なので、「江戸に行くぞ!」などといいながらやってきたというわけです。
初めて見る「歴史公園ワープステーション江戸」は、正面入り口の建物の屋根瓦の修理工事中でした。大震災の被害なのかそれとも先日の台風で痛めつけられたのか、多くの職人さんと思しき人たちが忙しそうに屋根の上を動き回っていました。ちょっと目には、それは江戸の鳶職人の働きぶりのようにも見えましたが、後で裏側に回って見るとその下には大きなクレーン車があり、その先っぽにある大きな鉄の箱を操作しながら人も物資も運ばれているのを見て、江戸とは違うのだということを思い知らされた次第です。
入り口の建物の中に入ると、地産品などの売店があり、その隅の方に江戸への入り口がありました。どんな様子なのかと、古希を終えた爺さまにも興味のある一瞬でした。一歩中に入ると、確かにそこには無人の静まり返った江戸の景色が広がっていました。園内の草は茂るままに放置されているようで、何だか幽霊屋敷が広がっている感じがしました。しかし厳しく降り注ぐ太陽の照射は、幽霊がさ迷うにはふさわしくない環境のようにも思えました。どこから迷い込んだのか、一匹の猫が動き回っているのが現実を証明しているかのようにも見えました。
江戸という時代のイメージは人によって様々なのだと思いますが、共通している景観といえば、白壁、土塀、板葺屋根、瓦屋根、踏み固まった土の道、障子窓、太鼓橋に柳の木、お城にお堀等々が思い浮かぶのではないかと思います。ワープ先のこの江戸の地にはそれらのものが全部揃っている様に見えました。
白壁の土蔵の脇の道を曲がるとそこは御宿の看板がかすれた、しょぼくれた家が2~3軒あり、中を覗くとこれはまあ、どこを見ても荒れ放題の無人家なのでした。自身番の看板のある小屋を通るとその向こうに濁ったどぶ川にかかる太鼓橋が見え、その脇の柳の枝が風にそよぐのを見て、際立って江戸風情の柳橋といったものを感じさせられました。更に歩いて行くと大きな城を囲む白壁の土塀があり、その奥に殿様が暮らしていそうな御殿らしきものが建っていました。立派な門を潜ると、しかし中身はやはり空っぽで、見た目と実際は相当に違った印象でした。その他園内をくまなく回って見ましたが、下町の景色も裏店の長屋の佇まいも、皆人の臭いのない幽霊屋敷で、何だか気抜けした感じがしました。
(左)街道筋の宿屋のイメージなのか、破れた障子に御宿と書かれれていた。(右)建物の
向こうに太鼓橋が架かっており、その右手に一本の柳の木が植えられていた。この景色は、
どこかで見たような気がした。
無人の江戸は、果たして江戸と言っていいのかなとも思いました。何だか変だなと思ったのです。そこには疲れた江戸の残痕があっただけの印象でした。これらの施設は、そこに人が住み、活き活きと活動することによって初めて活かされるのだということに気づきました。TVや映画の画面では、勿論キャストの人たちが表に出て活躍するわけですが、それを支えるバックの施設も又一緒に命を吹き込まれてそれらしくなるのだと思います。そのような動きのない景色は、実に味気ないもののように思われます。建物というのは、人と一体になった時に初めてその機能を発揮し、存在感を獲得するのだと思います。
この小さなテーマパークを歴史公園と呼ぶには、少し考え方が不足している感じがしました。もっと活き活きとした江戸にワープできるような工夫をすべきだと思います。建物や設備を活かす生きものなどをもっと取り入れて、江戸のその昔を彷彿させる努力をすべきではないかと思ったのです。ディズニーランドが人気があるのは、ウオルト・ディズニーの生み出した動くキャラクターがいて、来客と一緒に楽しめる行為をしているからなのだと思います。江戸時代であれば、園内を侍や町人が何人か歩いていても良いように思ったのでした。TVや映画の撮影用のセットだけではないという考えがあればの話ですが、さて、経営サイドではどう考えておられるのでしょうか?
荒れ果てて疲れた無人の江戸の残骸を見るのはもういいやと思いました。本当の江戸というのは、これほどに疲れ果てた姿ではなかった筈です。往時の人口世界一の大都市の賑わいがあったはずであり、その活況の面影がどこにもないというのは、悲しい景色です。来て良かったというよりもガッカリしてしまった方が多い訪問でした。一つ救われたのは、城郭を巡る堀の奥に植えられたホテイアオイが美しい花をたくさん咲かせてくれていたことでした。そこにだけ、現代につながる本物の江戸が残っているような気がしました。
堀の奥には群生したホテイアオイが美しい花をたくさん咲かせていた。江戸
時代には堀にホテイアオイがあったとは想像できないけど、何だかこの景色
に救われた感じがした。