<第17回 登山日 2014年1月29日(水)>【筑波山の妖光】
1週間も経たない内の今月5回目の登山となった。何しろ旅に出かけることもなく、ただ歩いているばかりでは、やはり充実感は得られず、家の中でグータラしているよりは、山に登った方がずっとスッキリするのである。本当は毎日登ってもいいくらいに思っているのだけど、少しばかり遠くて、毎日往復80kmのガソリン代は、当節円高で値上がりの激しい石油価格のことを考えると、せいぜい週一回の登山で我慢せざるを得ないのである。
今日は女体山に登る番なので、久しぶりにご来光を拝したいと昨夜考えていたのだが、二度寝をしてしまって、目覚めた時は30分ほど時既に遅しの状況だった。玄関に出ると、下弦を過ぎた、細い鎌のような月が、明けの明星と一緒に東の空に鋭く引っ掛かって輝いていた。いい天気である。ちょっぴり残念さを噛みしめながらの出発となった。
5時半過ぎに駐車場に着いて、6時少し前に登山口から上り始める。まだ暗くて、しばらくはヘッドランプの光を頼ることとなった。30分ほど登って丁度中間点辺りに来た頃、夜は終わりを告げたらしく、灯りは不要となった。今日は登山者が少なく、前も後ろも静かでもの音もしない。男女川の源流を過ぎて少し行くと、このコース最後の踏み段が始まるのだが、まだ日の出前なのに、早や降りて来る数人の人たちに出会った。どうしてご来光を拝しないのかなと、他人事ながら勿体ないなと思ったりした。700段ほどの踏み段を一歩一歩噛みしめて歩き続ける。かなりきついのだが、この頃はこの最後の登りが楽しみとなっている。どんなにつらくても、登り続けていさえすれば、御幸ヶ原の広がりの恵みに出会えるのである。その喜びが判っているので、楽しみなのである。
御幸ヶ原に着いた頃は、既に日は高く登っており、その光の下に霞ヶ浦が鏡のように光っていた。北西側には、日光の男体山や女峰山などの連なりや那須連山などが、凍りついて輝くのが見えた。今日の筑波山の鞍部から上は、思ったよりも寒くて、風の音もかなりのものだった。そこから女体山頂上まで500mほどなのだが、もうここまで来ると疲れは吹き飛んで山頂の御本殿までは、あっという間である。しかし、今日はかなりの風が吹いていて、それがまた超冷たいのである。持参しているアンカの能力を超える寒さで、両手は痛いほどだった。頂上には誰もおらず、独り占めだったけど、寒さには勝てず、大急ぎで証拠写真(?)を撮って下山を開始する。直ぐ下の風邪の当たらない窪地で、大急ぎで着替えを済ませたが、両手先がかじかんで、着衣のボタンを閉めるのに苦労した。
今朝の登山の証拠。女体山山頂ご本殿の一枚。こうして見ると、穏やかで暖かそうな景色に見えるが、ここで風を写すのは大変難しい。
そのあとは、淡々と下山して、いつもと同じ1時間ほどで登山口に戻り、駐車場に戻って、帰途に就く。今回は、寝坊をしての、ごく平凡な登山だった。
さて、今日は筑波山にまつわる妖光について紹介したい。これは、登山の時ではなく、小貝川の堤防を重いリュックを背負って歩いていた時の発見の話なのである。昨年の12月の終わり頃、いつものように早朝の歩行鍛錬で、小貝川のコースを歩いていた。家からは、つくばエキスプレス(=TX)の基地の横を回りながら30分ほど歩くと、小貝川の堤防に出る。そこから2kmほど堤防を歩いて、田んぼの横道をつくばみらい市の住宅街を経て守谷市の自宅の方に向かうのだが、このコースが気に入っていて、特に冬の間は、ほぼ毎日このコースを辿っている。コースの中では、何といっても堤防の上を歩くのが気持ちが良い。堤防にはほどよい川風が吹いていて、少し汗ばみ始めた頃合いの身体には、真にありがたいのである。ま、鍛錬などとは無関係の人には、その風は冷たくて敬遠したくなるのは必定だと思うけど。
その日は、いつもと同じように6時頃に家を出て、堤防に上ったのは、6時30分過ぎだった。ここから堤防を2kmほど歩く間に、天気が良い時は日の出を迎えるのである。この土手から迎え見る日の出も、なかなかのものであって、冬の厳しい寒さを反映した東の空のかぎろいの後の日の出は、厳粛で荘厳に満ちたものなのである。その時には思わず立ち止まって、太陽に一礼することとなる。自然とそのような気持ちになってしまうのだ。
しかし、その日は晴天にも拘わらず、朝日が昇る方向にだけ雲があって、日の出を邪魔しているかのような空だった。今日はダメかと諦めて歩き続け、日の出の時刻の7時少し前に、辺りが明るくなり出したので、ああ、日の出だなと思って頭を上げて振り返ると、黒雲の上にまさに煌めく太陽がせり上がる所だった。邪魔ものがあっても、やっぱり日の出は良いなと思いながら、ふと前方の筑波山の方を見てみると、何と女体山の頂上辺りに怪しげな光の球が見えるではないか!
一瞬何だろうと思った。歩きの時間の殆どは下を向いており、頭を上げるのは日の出の時と前方確認の時くらいなので、今まで筑波山をあまり見たことがなかったのである。しかし、その時はもしかしたら、筑波山にUFOが降りて来て何やら怪しげな動きをし始めたのではないか、或いは突然に筑波山が噴火に目覚めたのかとさえ思った。筑波山が活火山だとは聞いたことがない。丁度女体山の真下20m辺りに点っているその怪しげな光は、光の束の筋を八方に放って何とも不気味だった。思わずカメラを取り出しその妖光を収め撮った。
小貝川堤防の道から見た筑波山の妖光。突然この光を見た時は、誰だってドキリ!とするに違いない。この辺りにはくもの巣のように電線が張り巡らされていて、これを避けて筑波山を撮るのは難しい。
しばらく佇んでその光の正体を確かめることにした。間もなく解ったのである。光を発している場所は、注意して見ると、女体山頂下のロープウエイ乗り場辺りなのである。ここのロープウエイにはまだ乗ったことは無いけど、山頂駅にはコンクリートの土台で作られた小さな広場があり、それは遠くからは小さな白い点となって見えるのを思い出したのである。そこに日の出の光が打ち当って、ちょうどその台場が鏡のような働きをして、怪しげな光の源となっていたのだった。それが解ってみれば、幽霊の正体見たり枯れ尾花の笑い話のようなものなのだった。しかし、あの一瞬のドキリとした思いは、この頃の異常現象の発生のあり様を見ていると、決して安易に笑えるものではないようにも思えたのである。
その後もこの時間帯にそこを通る時は注意して見るようになったのだが、やはり日の出に合わせて同じ現象の妖光が点っており、今はもう笑って済ませている。しかし、この現象が見られるのは、この時期の半月ぐらいの間で、1月半ば頃になると、もうそれを待っても見ることはできなかった。筑波山には、登らなくても楽しめる不思議がまだまだあるのではないかと思っている。