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後破産 “元凶”は「住宅」にあり! 松谷明彦・政策研究大学院大名誉教授

2016年05月12日 | 国と東京都の住宅政策
http://mainichi.jp/sunday/articles/20160509/org/00m/010/023000d

 「国は安い公共賃貸住宅に誰でも住めるようにせよ」
 「老後破産」が人ごとではなくなった。65歳以上の世帯で「生活が苦しい」と感じている割合は58・8%(2014年、厚労省調べ)。どうして厳しい老後を強いられるのか。政策研究大学院大の松谷明彦名誉教授(70)は「住宅政策の貧しさが最大要因」と断じる。
 元大蔵官僚でマクロ経済学や人口論を専門とする松谷氏は「日本ほど住宅政策が貧しい国はない」と厳しく指弾する。それが、高齢者に苦しい生活を強いる大きな要因になっているという。
 総務省の調べによると、世帯主が65歳以上の世帯の平均貯蓄高は2377万円(13年)。一見、高齢者は豊かなように思える。だが、一方で貯蓄高が1000万円未満の世帯は36・4%に上り、同じく100万円未満の世帯も6・3%ある。また、13年に生活保護を受けた65歳以上の人は88万人と過去最高を記録した。
 多くの人にとって老後はバラ色ではなくなった。その理由として、松谷氏が住宅政策を挙げるのはなぜか。
 「日本には標準的なサラリーマンが住める低家賃の公共賃貸住宅がないに等しいからです。このため、家賃の高い民間賃貸住宅に住むか、あるいは戸建てかマンションを買うしかない。欧米先進国のように、誰もが入れる安価な公共賃貸住宅に住むことができたら、老後の蓄えができるはずなのです」(松谷氏、以下同)
 事実、都道府県や市町村が運営する公営住宅の入居者は世帯全体の3%台。厳しい入居制限に加え、もともと戸数が少ないためだ。
 例えば都営住宅に夫婦で住もうとすれば、年間世帯所得は原則227万6000円以内。世帯平均年間所得は528・9万円(14年)なので、多くの人は応募すらできないことになる。
 住む資格があっても入居は簡単ではない。抽選倍率が高く、都営住宅の場合は100倍を軽くオーバーすることも珍しくない。
 一方、欧米は公共賃貸住宅が充実している。フランス、イギリスでは全賃貸住宅の約2割が公営だ。有名なパリのシャンゼリゼ通りも、実は公共賃貸住宅群だ。
 「住まいを買っても、子どもが親の家を受け継ぐケースは少ない。少子化の上、共働きが当たり前の時代なので、2世帯同居が難しいためです。子どもに譲れないのなら、現役時代に生活費を切り詰めてまで住宅を購入する理由が乏しい。その点でも公共の賃貸住宅が求められています」
 日本の持ち家率は60%強と高水準だが、一方で空き家の増加は深刻な社会問題だ。総務省の統計によると、売却用でも賃貸用でもない放置物件は318万戸(13年)あった。特に戸建ての空き家が多い。子が親の住まいを受け継がないのが大きな理由だろう。たとえ子が空き家を売却したところで、資産価値は下がっている可能性が高い。
 一方、世界統計年鑑などによると、ドイツの持ち家率は40%強。同じくフランスは55%前後とされる。持ち家の価格も日本より安価な上、公共賃貸住宅の充実が持ち家率を下げていると見られている。
 さらには、日本の住宅取得費は年収の5倍前後と、先進国の中でナンバーワンの高さ。民間賃貸住宅の家賃も高い日本は、世界最高水準の住宅コストを強いられる国なのだ。
 「その上、日本は欧米先進国と比べて賃金水準が低い。ドイツの約3分の2、フランスの約5分の4です。それなのに住宅コストは高いので、豊かな老後を送るのは最初から難しい」
 たとえ生活が厳しくなろうが、マイホームが日本人の夢なら話は別だろう。だが、それは違うらしい。
 「日本人の持ち家志向が強まったのは戦後。公共賃貸住宅を整えなかったのが大きな理由です。家賃の高い民間賃貸か、持ち家しか選択肢がありませんでした」
 松谷氏の言葉通り、1931(昭和6)年の東京市(現在の区部にほぼ相当)の借家率は7割。41年の大都市圏における調査では同77・7%。持ち家志向は戦後になって急に高まったのだ。

役所を高層化して「賃貸住宅」に

 さて、今や過半数を占める持ち家派にも賃貸派との共通点がある。どちらも貯蓄をしにくいところである。
 「日本では65歳以上でも働く人が30%弱。フランスでは1%にすぎませんから、異様なまでに高い。年金制度の違いもありますが、欧米先進国は住宅コストが安いので、貯蓄がしやすい。また、年を取って貯蓄が少なくても、高齢者向け公共賃貸住宅で暮らせます」
 日本にも高齢者向けの賃貸住宅はある。例えば都営の「シルバーピア」は、施設全体がバリアフリー化され、緊急時の対応サービスなどもある。使用料も1万円台から(単身用、収入によって異なる)と格安だ。
 ところが、こちらも年収などの厳しい条件がある上、やはり戸数が少ないため容易には入居できない。2月に行われた文京区本郷のシルバーピアの抽選倍率は335倍で、もはや宝くじのようなものである。
 高齢者にとって一番の負担が住宅コストにあるのは確かなようだ。持ち家を取得しようが、年金生活者に固定資産税と修繕費などの負担は重い。マンションでは管理費などの負担もある。シルバーピアのような住宅に、誰もが1万円台の家賃で住めるようになったら、老後破産の危機は遠ざかるに違いない。
 だが、都市部に新たな公共住宅を建てる土地があるのか。
 「東京23区の場合、区役所や区民ホールなどを高層化すればよいのです。そもそも住民の持ち物なのですから。昨年、49階建てに改築された豊島区役所は11階から上が分譲マンションになりましたが、ここも公共賃貸住宅にすべきでした」
 舛添要一都知事(67)も高齢者の一人であるが、ほぼ毎週末、別荘で過ごしていたリッチマン。住まいで苦労しているという国会議員も聞かない。
 「シルバーピア落ちた、日本死ね」という声が上がらない限り、政治家たちは高齢者の住宅問題を忘れたままなのかもしれない。
(本誌・高堀冬彦)

 ■人物略歴

まつたに・あきひこ

 1945年生まれ。東大経済学部卒業後、大蔵省(現財務省)入省。大臣官房審議官などを経て97年退官。政策研究大学院大教授に就任。著書に『「人口減少経済」の新しい公式』など

(サンデー毎日2016年5月22日号から)



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